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薬膳に欠かせない高い栄養価

薬膳に欠かせない高い栄養価

黒いトリ肉――烏骨鶏(ウコッケイ)

文・曾蘭淑  写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

11月 2024

鑫源牧場3代目の呉如玉さんは、毎日少なくとも3回は鶏舎に入って見回る。それによってシャッフルするように鶏たちを移動させ、外側にいた鶏も水や餌を得られるようにする。

 「鶴立鶏群」という成語がある。ニワトリの群れの中に一羽だけツルがいると突出して見えるという意味だ。だが、もし烏骨鶏(ウコッケイ)を一般のニワトリの群れの中に入れてみても、なかなか見つけられないかもしれない。烏骨鶏の羽毛は白く、ヒナの時の毛は黄色で、産み落とす卵は青みがかっているからだ。烏骨鶏が「烏骨鶏(黒い骨のニワトリ)」という名で呼ばれるのは、まさにその骨と肉と皮が黒いからなのである。

天晴烏骨鶏の卵の殻は青みを帯びている。(蔡銘洋提供)

十全十美の「天晴烏骨鶏」

わが国で地鶏や烏骨鶏の飼育技術を専門的に研究している農業部畜産試験所は、今年(2024年)、10年にわたる研究の成果――新品種の「天晴烏骨鶏」を発表した。肉用鶏にも採卵鶏にもなり、産卵数は他の品種の烏骨鶏の2倍近い。特に青みがかったその卵の栄養価は一般の茶色い卵の2~3倍もあるという。

畜産試験所の研究員である蔡銘洋の話によると、同試験所では1995年に中国から烏骨鶏の原種を導入して繁殖を開始し、国内の養鶏に提供してきた。本来の烏骨鶏は外見や骨や肉に「十全」と呼ばれる特徴があるが、身体が小さくて成長に時間がかかるため、一般の養鶏業者は「原種の烏骨鶏」とブロイラーを交配させて食肉市場に提供してきた。しかし、そのために「十全」の特徴は失われていたのである。

純粋な品種の青い卵を産む烏骨鶏を育成するために、畜産試験所の研究員だった劉暁龍は2012年から選別と飼育を開始し、8世代をかけて「天晴烏骨鶏」を生み出した。我が国では唯一の「純血種」で「十全」の特徴を持ち、さらに青い殻の卵を安定的に産むことができる品種である。

蔡銘洋によると、天晴烏骨鶏は「肉卵兼用」の品種で、産卵率も高い。畜産試験所の一般の烏骨鶏は生後24~40週までに約44個の卵を産むが、天晴烏骨鶏は同期間に78個産む。さらにカルシウム、亜鉛、鉄、レシチン、DHA、オメガ3脂肪酸などの含有量は、茶色い殻の鶏卵より多く、特別な農産物として販売することができる。

『台湾光華』の取材班は、烏骨鶏を専門にしている養鶏場、雲林県の鑫源牧場を訪れた。ここの烏骨鶏は全国の宴会料理請負業者や伝統市場に提供しており、年間生産量は100万羽、全台湾の烏骨鶏の4羽に1羽はここで飼育されている。

烏骨鶏のヒナの羽毛は黄色い。

食事療法で病気予防

三代目の責任者である黄旭璋さんとその妻の呉如玉さんは、力を合わせて育種から飼育、処理までを行なっている。「ニワトリの肉付きから、飼育者が勤勉かどうかわかりますよ」と黄旭璋さんは言う。養鶏場では、扇風機や水槽の前から一歩も動こうとしないニワトリもいて、群れを成す特性から、鶏舎の3分の1が空いていても一塊に集まっていることが多い。そのため飼育者は毎日3回は鶏舎に入ってニワトリをシャッフルするように移動させ、外側にいたニワトリも水や餌を得られるようにしなければならない。

呉如玉さんによると、烏骨鶏も地鶏も弱い者いじめをするので、見回る時には、いじめられたり、怖がったりしているニワトリを探し、喧嘩好きな個体と分けて育てる。そうしないと弱い個体はなかなか餌にありつけないのである。

台湾では昔から「黒い食べ物には滋養がある」とされ、烏骨鶏は長く煮込んでも煮崩れしないこともあって薬膳には最適の食材とされてきた。だが、一般のブロイラーの飼育期間は平均60日なのに対し、烏骨鶏には90~100日もかかる。飼育期間が長くなると病気にかかるリスクも高まる。「そこで私たちは食事療法を行なっています。餌に善玉菌やラクトフェリンなどを加えて免疫力を高め、整腸のためにオレガノオイルを加えたりしています」という。もし、医薬品の残留検査に不合格になったら信用が傷つくため、治療より予防が大切なのである。

畜産試験所が開発した黒羽烏骨鶏。その名の通り、外見から肉や骨まですべて黒い。(蔡銘洋提供)

烏骨鶏の良さを活かす

黄旭璋さんの父親は2016年に鼻腔がんで亡くなった。手術後に食事が困難になった時、栄養補給のために家族は鶏精(チキンエッセンス)を購入していた。そんな中、黄さんは自分でニワトリを飼っているのだからと、直接メーカーに依頼して自分で育てた烏骨鶏を使って、脂を濾過したチキンエッセンスを作ってもらった。これを飲んだ父親は、さっぱりしていると言い、これをきっかけに彼は烏骨鶏の商品開発を始めた。

こうして烏骨鶏のチキンエッセンスの他に、「烏鶏郎」のブランドで烏骨鶏の各種商品を販売するようになった。製品マネージャーの李婉甄さんによると、国際食品見本市に出展すると、多くの外国人から「この黒い肉団子は何ですか?」「なぜ鶏肉が黒いんですか?」と聞かれるが、ひとくち食べてもらうと、そのおいしさに驚くという。また、日本人は烏骨鶏を非常に貴重な食材と見ているので、次は日本市場への進出を考えていると呉如玉さんは言う。

「気を益し虚を補い、血を養い脾を理める」とされる烏骨鶏スープは、産後の肥立ちによく、高級コース料理でも出され、また冬の薬膳の主役でもある。見た目で毛嫌いすることなく、ぜひ滋養ある烏骨鶏を試してみようではないか。

畜産試験所の元研究員・劉暁龍が開発した天晴烏骨鶏。台東県太麻里の青い空のイメージから品種名を「天晴」と命名した。(蔡銘洋提供)

烏骨鶏は長く煮ても煮崩れしにくいため、薬膳スープに適している。

烏骨鶏の滴鶏精(チキンエッセンス)は産後の女性やアスリートのタンパク質補給にふさわしい。

烏骨鶏の肉団子は見た目は恐ろしいが、特色ある一品だ。