
ゲームが教育に取り入れられたのは、2015年に台湾で反転教育が導入された頃で、さまざまな知識を得る新たな方法としてゲームが重視され始めた。この動きが社会にも広がり、以来さまざまなテーマのテーブルゲームやオンラインゲームが続々と登場することとなる。これらとは別に、屋外で行なうリアルなゲームを作っている人もいる。リアルな体感型ゲームは参加者に豊富な体験をもたらし、プレーヤーはそのゲームでの体験を深く記憶に刻むこととなる。
私たち取材班は、体験聚楽邦が実施するリアル謎解きゲーム「穿越写真館」と、芒草心協会の体感型ゲーム「艋舺走撞街頭」が行われている現場を訪れた。彼らはどのようにゲームをデザインし、プレーヤーに都市の歴史を学ばせるのか。また屋外での一日を通してホームレスの物語や課題をどのように理解させるのだろうか。

桃園鎮撫宮の前にゲームのキャラクターである廟の世話役がいて、プレーヤーにメンコに描かれた神の名を知っているか尋ねる。
都市の歴史を学ぶ
「穿越写真館」のゲームは桃園の景福宮一帯で行われる。物語の主人公は一人の男子高校生と、いつも街角でぶらぶらしている不思議な老人だ。二人は失踪し、高校生の日記だけが残された。日記には、老人が過去に戻れるカメラを持っていて、同じく街角にいる5人の友人もそれを知っていると書かれている。プレーヤーのミッションは、この5人の登場人物から手掛かりを得て、二人が失踪した原因を突き止めることだ。
ゲームは5つの物語から成り、どの物語も過去の記憶である。歴史に絡んだ手掛かりを手にするには、まず都市の重要な建築物やスポットを知り、この都市がどのような歴史を経て形成されたかを理解しなければならない。
30歳に満たないプレーヤーたちが、普段は訪れることのない永和の市場を訪れる。午後の市場は営業していないので薄暗く、厚化粧をした女性がエレベーター脇で菓子を売っている。この女性(薬姐)は「何しに来たの?」と、余所者たちをじろじろ見ながら聞く。わけがわからないプレーヤーたちは次々と物語に関連する質問をしていき、地下へ行くというヒントを得た。
エスカレーターは止まっており、市場の中にはさまざまな臭いが立ち込めている。プレーヤーたちは市場を一回りしながら、注意深く壁に貼られたチラシを探す。手分けをして手掛かりを集めると、薬姐から次の場所のヒントとなるキーワード「川流不息(絶えない流れ)」を与えられる。

プレーヤーは東門渓遊歩道を板を漕いで進むことで、昔の住民が船で川を渡った時代を体験する。(荘坤儒撮影)
物語を聞き、周囲を観察する
薬姐はプレーヤーが手にした手掛かりを見て、自分の物語を語り始める。——ここから遠からぬところにある天天百貨店は1980年代にオープンした。9階建てで中にある映画館はかつてデートの場所だったが、今はすたれてしまい、1階は薄暗い駐車場になり、他の階は廃墟と化している。プレーヤーは矢継ぎ早に質問をぶつけ、薬姐が続いて語ろうとする永和市場の物語をさえぎってしまう。薬姐は皆がヒントや手掛かりにばかり気を取られ、地域の歴史に興味がなさそうなのを見て、「どうせ永和市場も取り壊されるのよ。あなたたちには関係ないけど」と言う。薬姐はゲームの必要から、桃園の景観が変化しつつあることを伝えたかったのだ。MRT敷設工事のため、永和市場のビルは取り壊される予定で、周辺でも新しい建設が始まっており、近い将来、この一帯の景観は一変するのだ。
薬姐からもらった古い写真を手に、プレーヤーは東門渓横の朝陽公園へ向かい、「流し」のおばあさんを探す。公園では多くの高齢者が散歩していて、流しのおばあさんはその中にとけ込み、ベンチでアコーディオンを弾いている。プレーヤーは「おばあさん、こんにちは」と声をかけ、薬姐の言いつけ通り、今度は相手を尊重して黙ってその物語に耳を傾ける。
その後、プレーヤーは鎮撫宮の世話人や東門渓遊歩道の海姫、新民老街の詩人などと出会う。どのキャラクターも生き生きと昔話をし、その話の中から往年の桃園の素朴な暮らしや温かい人情を知ることとなる。

永和市場で、キャラクターの薬姐が桃園天天百貨店の思い出を語る。
体験を通して歴史を知る
ゲームが終わるとプレーヤーは集合し、主催者が謎解きをする。だが、プレーヤーたちはすでに正解にはあまり興味を持っておらず、出会った人物の話で盛り上がる。このゲームでは、キャラクターとの対話や参加者同士の討論、そして知らなかった桃園の歴史や建物に触れることこそ本当の収穫なのである。このゲームを通して、参加者たちにとって桃園景福宮一帯は馴染みのあるエリアとなり、かつて東門渓によって育まれた水と共生する街であったことを理解する。そして、この都市の開発と変化を知り、「都市は絶えず再開発されていくが、私たちが求めるのはどんな風景なのか?」と考えさせるのである。
「どのキャラクターが気に入りましたか?」と聚楽邦を設立した呉亜軒が聞く。その話によると、流しのおばあさんには実在のモデルがいるそうだ。
もう一人の創設メンバー林志育によると、毎回地元の歴史文化研究団体と協力し、彼らの記録を用いて議論を重ね、ゲームを作り上げていくのだという。着実なフィールドワークで集めた資料は、文字として記録できるだけでなく、実際に体験することでより深く理解できると考えている。ゲームの中でプレーヤーは特定の行動を求められ、これによって日頃は見落としがちな場に目を向けることとなる。
「少し違う方法でテーマを語りたいと思ったのです」と呉亜軒は当初の起業理念を語る。堅苦しいテーマに興味を持ってもらい、馴染みのある環境の中に未知の物語を見出してほしいと思ったそうだ。起業から3年、多くの機関が「体感型学習」に興味を持ち、聚楽邦と協力してさまざまなゲームを作っている。「次のテーマは?」と聞くと、二人はそろって「たくさんあります」と答える。仕事場の壁に「Our city, our duty」と書いてある通り、台湾の都市で発生した物語に二人は情熱を注いでいる。

桃園東門渓は鎮撫宮一帯の文化と歴史を育んできた。この地域は水と共生してきたのである。
現実の暮らしを映し出すゲーム
ゲーム「艋舺走撞街頭」は、ホームレス問題との距離を縮めるために作ったゲームだ。ゲームを作った曾文勤が最初に行なったのは、ホームレスの人にガイドになってもらい、街を歩きながら彼らの経験を語ってもらうというイベントだった。だが、参加者に退屈そうな表情が見えたため、やり方を変えることにした。長い時間、一方的に話を聞くだけでは確かに退屈な面があり、ホームレスの生活を実感することも難しい。そこで彼女はゲームデザインに長けた台北地方異聞工作室に声をかけ、路上生活を体験するゲーム「艋舺走撞街頭」を作ったのである。
このゲームには実在の人物をモデルにした11人のキャラクターが登場する。9人はホームレス、2人はソーシャルワーカーだ。プレーヤーは体力とマイナス状態のポイントが書かれたカードを渡される。仕事をすれば体力ポイントは下がり、それによって出来る仕事も限られてくる。プレーヤーの任務は目標金額を稼ぐことだ。
仕事は看板持ち、清掃、廃品回収、肉体労働などさまざまで、それぞれに必要な体力と状態、そして報酬が定められている。ゲーム中、プレーヤーは情報カードを渡される。無料の食事や慈善団体からの補助金、不法就労の機会などの情報で、その選択次第で生活が変わってくる。さらに自分では選べない運命カードもあり、それによって暮らしは大きく変わる。心優しい人から弁当や衣類をもらうこともあれば、寒波が襲ったり、仕事中の事故や暴力で負傷することもある。

体感型ゲーム「艋舺走撞街頭」では、実際にホームレスの人々が生活費を稼ぐ方法が列挙される。(静宜婷撮影)
ゲームで生活態度を考える
ゲームのミッションは簡単で、労働と言っても象徴的なものだが、常に次の仕事を探すために街を駆けずり回らなければならず、突然運命のいたずらが襲いかかることもある。これらすべてがホームレスの日常だが、彼らは自ら好んでこうした状況に陥ったわけではない。ゲームを始める前に、プレーヤーはホームレスの物語を理解する。事故で負傷したり、中年になって失業したり、家庭の事情があったりして突然生活が崩壊してしまう。理解することがゲームの第一歩であり、重要な価値なのである。
ゲームの最後にプレーヤーは賃金を精算する。目標を達成する人もいれば、引き続きホームレスを続けなければない人もいて、誰もが理想的な結末を迎えるわけではないが、それが真実の路上生活だ。「これは私たち社会のセーフティネットの漏れであり、転んだ人が路頭に迷うことになるのです」ゲームに登場するソーシャルワーカーのこの言葉は、現実に第一線でホームレスと触れ合う人の実感である。
このような屋外での体感型ゲームを通して、プレーヤーはしばし違う人物を演じつつ、さまざまなテーマの背景や主人公の境遇を体験し、そこから理解を深めていく。こうした活動はゲームと人生という相対する概念に接点をもたらし、そこにゲームの真実と人生の未知を見出すのである。

プレーヤーは龍山寺の前で獅子舞をして、ホームレスの人々が廟の祭りで 働いて稼ぐ生活を体験する。(謝宜婷撮影)

「穿越写真館」の参加者にとって、桃園の新民老街は歴史の味わいとゲームの楽しさに満ちたなじみ深い場所となる。