困難続きの山中での研究
だが、順調なことばかりではなく、夜中に豪雨に見舞われることもある。山に挟まれた谷間にサンバーの罠を仕掛け、近くにテントを張ったところ、夜中にテントの下がぬかるんでいるのを感じて起きると、外の鍋やサンダルが水に浮いていた。そこで少し高い所へテントを移したが、そこも水に浸かってしまい、夜中に幾度も移動を繰り返した。
そこから月形池というところへ移動した後も強い風雨に見舞われてテントも設置できず、別の研究チームからテントを借りて6人で寝たところ、テントの下にまた水が溜まってきた。そこで同行していた先住民のベテラン猟師ダマ・リンガヴに尋ねると、彼は一つの物語を話してくれた。かつて集落の老人が話したことだが、何人かが猟に行き、悪天候に見舞われて水に浸かってしまった時、その場にとどまった人々は無事だったが、場所を移した人々は全員亡くなってしまったというのである。これを聞いた皆は顔を見合わせ、その場にとどまることにした。テントの中に水の通り道を掘り、6人でひとかたまりになって長い夜を過ごしたのだという。
もちろん楽しいこともある。サンバーは一頭一頭性格が異なるため、研究チームはそれぞれに名前を付けている。好奇心いっぱいの「好奇哥」は大きなオスで、まったく人見知りせず、テントの近くをうろうろする。捕らえて首輪をつけられた翌日もキャンプへ戻って来て研究者たちが何をしているのか観察しているのだという。すばしっこい「機霊哥」は、仕掛けた網の中に入ってエサだけ食べ、周囲に少しでも動きを感じると、素早く逃げていく。しばらくすると戻って来て再びエサだけ食べて逃げていくので、研究チームは疲れ果ててしまった。ある時は、角にひっかかった網を引きずりながら逃げていき、いくら探しても見つからなかったが、翌日また現われた。
驚嘆号池のキャンプ。研究チームは、ここに1〜2週間も留まる。