
唐の李紳は「憫農詩」に「禾を鋤いて、日は午に当たる。汗は滴る禾下の土に」と詠んだ。昔の農耕の姿である。
だが今日の農業では、ドローンが農薬や肥料を散布し、人手による作業より精確なため農薬や肥料の使用量を削減できる。人々が寝静まった頃、屏東県内埔の茶畑では自動化された点滴灌漑が行われ、これにより節水と省エネが実現した。豪雨警報が出ても、スマート鶏舎とスマート温室の中は風雨の影響も受けない。これらはスマート農業の一部である。「農業生産のスマート化、生産販売のデジタル化」が、最古の産業をハイテク産業へと変えつつある。
「現在の高度1.5メートル。毎秒3メートルで前進中。用意、噴射!」。「飛手」と呼ばれるドローンの操縦者が水田の傍らでコントローラを手に農薬を散布する。
「飛手」は農業試験所の研究アシスタント呉俊毅だ。その話によると、人が背負い式の散霧器を使って農薬を散布する場合、1ヘクタールの水田で3時間はかかるが、ドローンなら30分ほどで完了するという。

ドローンで肥料や農薬を散布すれば、人手と時間と薬品使用量を削減できる。
ドローンによる散布で効率アップ
このドローンは、続いてドラゴンフルーツ畑に移動して肥料を散布したが、10アールの畑が5分で終了した。この水田と畑は若手農家・林保沅が農業試験所による試験散布に提供したものだ。4年前、彼は台北での仕事をやめて故郷で米とヘチマとドラゴンフルーツの栽培を始めた。
「父が高齢になり、誰も畑をやる人がいないので帰ってきました。汗を流すのは厭いませんが、嫌なのが農薬散布で、それをドローンがやってくれれば時間もかからず安全です」と言う。
農業試験所が畑の面積に合わせて農薬の濃度を計算して散布したところ、農薬使用量を9割も減らすことができ、しかも病虫害防止の効果が充分に得られるのである。
農業試験所の郭鴻裕組長が率いるチームが、2013年からドローン活用を研究し始め、農地のパトロールや災害時の被災状況調査、農薬散布などに利用できることがわかった。現在はドローンを使ったハイパースペクトル・イメージングによる病虫害識別を研究している。
農業試験所のアシスタント研究員・黄毓斌によると、最近は気候変動と外来種の侵入により、農地で新たな病虫害が見つかることがあるが、農家はそれを写真に撮ってアップすれば、IoTの応用によってスマート農業システムがこれを分析し、警報を発し、防止・管理ができるという。

茶摘みの機械化で、一日に3トンの茶葉が収穫できる。
スマートマシンで効率向上
黄博士が言うスマート農業システムとは、農業委員会が推進する「スマート農業4.0計画」の一環を成すものだ。スマート農業というのは、IoTやビッグデータ、スマートマシン、デバイスなどを導入し、生産と管理をスマート化するもので、さらにこれを通して台湾の優れた農産物を世界に輸出していく狙いもある。
中央山脈最南端の大武山の麓、屏東県内埔の老٠ّ農場では、スマートマシンが大いに活用されている。
台湾農林公司はここに700ヘクタール余りの農地を持ち、2017年3月から茶の栽培を開始した。現在は第4期に入り、すでに200ヘクタール、単一面積では台湾最大の茶畑となっている。
台湾農林公司茶葉処の鄭志民マネージャーによると、ここでは開墾当初からシステム化管理と機械化生産というスマート農業の思考を導入してきた。「私たちはスピードで勝負しています」と鄭志民は言う。
一面の緑の茶畑で、女性従業員が茶摘機を操作している。茶摘機1台当たり一日で3ヘクタールの茶摘みができるが、人手による場合は3〜4人で一日働いても0.5ヘクタールしか採れない。
ここで特別なのは2億元を投じてイスラエルから輸入した点滴灌漑システムだ。茶樹の下にパイプを設置し、40センチ間隔に開いた穴から水をやるというもので、一度に10ヘクタール、1時間に1リットルの水やりができ、茶樹の間の通り道には水はまかないため、従来の方法に比べると水量を7割も削減できる。
「灌漑システムは節水だけでなく、電力も人手も削減できます。自動制御なので電気代の安い夜間に灌漑でき、昼間に比べて蒸発量も抑えられ、さらに水と一緒に肥料をやることもできるので、標準化が実現できます」と>H志民は言う。
老埤農場では作業の自動化の他に、製茶職人の20年余りの経験をビッグデータ化することを目標にしている。これにより製茶プロセスの調整で香りや色合いの異なる茶を作り、カスタマイズ生産できるようにしていく。
スマート農業4.0のもう一つの目標は「生産販売サービスのデジタル化」である。生産から加工、包装、販売までを一貫して行なう元進荘畜産では、スマート禽舎とHACCP認証、生産履歴などを通して、消費者に産地から食卓までの安心・安全を保障している。
元進荘の盧瑋翎主任によると、従来の露地の開放型禽舎は1.0のレベルに属し、天候の影響を受けやすく鳥インフルエンザにもかかりやすい。これに対して4.0の設計は、密閉したトンネルのような建物で、餌・水やりは自動化され、床下には体重計があって、毎日の平均体重の変化をモニターすることができる。
桃園の源鮮農場では温室の環境制御システムを導入している。ここの立体温室は現在世界で最も層数の多い14層だ。温室内の温度湿度、風速などはすべてコントロールされてマイクロクライメイト(局所気候)が作り出されている。また「バクスター効果」を参考に温室内にクラッシック音楽を流して植物の養分吸収を促し、温室内では緑の葉野菜がそよ風に揺れている。

老埤農場では最初からシステム化と機械化生産を導入し、最少の人数で運営している。
無農薬野菜の道へ
「最初は自分で食べるために始めたのです」と話すのは源鮮グループの蔡文清董事長だ。彼は10年前に肝臓にたくさんの腫瘍が見つかり、二つの病院の診断で、肝臓移植をしない限り生きられないと宣告された。「その場で涙があふれました。私は6歳で父を亡くし、13歳で見習いとして働き始め、21歳で自分の会社を興しました。ただひたすら働いて44歳の時に会社の株式公開にまでこぎつけたのに、医者に死刑を宣告されるなんて、人生はあまりにも不公平です」
蔡文清は、自分で野菜を栽培し始めたきっかけを早口で語る。「当時、中国大陸では臓器提供者を厳しく取り締まっていたので、肝臓移植が間に合いそうもなく、生機飲食自然療法(主に化学肥料や農薬を使っていない生の野菜・果物を食べる)を試すことにしたのです。すると5カ月後には薬も飲まずによくなったのです」と言う。
生死の境を経験し、蔡文清は「食物こそ薬であり、薬は食事である」という古代ギリシャの医師ヒポクラテスの言葉の意味を悟った。食事を変えることこそ、身体の自己治癒への第一歩なのだと。食事療法を行なっている時、野菜や果物のジュースを作るための完全に安全な無農薬の野菜がなかなか手に入らないことに気付いた。そこで蔡文清は光電関連企業の董事長を辞し、「無農薬で安全、大腸菌がなく、硝酸塩や菌の少ない」野菜を自分で作ることを決めたのである。
温室で野菜を育ててみたところ、ネットで覆ってあったにもかかわらず虫に食いつくされてしまった。そこで水耕栽培を考えたが、専門家から、水で菌が繁殖するため薬を使わざるを得なくなると警告された。
「正しい願いを持っていれば、天は応えてくださるものです。どうすればいいのか悩んでいる時に、私に生機飲食を紹介してくれた陶君亮董事長が、飛行機で隣りに座っていた王望南教授と知り合ったのです。王教授はイギリスに24年暮らしていて、二人は機内で野菜栽培の難しさについて話しあったのです」と言う。蔡文清はこの縁から王望南教授に教えを請うこととなり、教授が開発した人工太陽とナノ気泡の技術を用い、水中の菌の繁殖という課題を解決したのである。

イスラエルから導入した点滴灌漑システムはコンピュータで管理され、夜間に自動的に灌漑と施肥ができる。
スマート農業で輝く台湾
この他に、種子自体に細菌が含まれていて、農薬を使わなければ野菜が育たないという問題もある。そこで蔡文清は中興大学植物学科の講義を受け、チームを率いて同大学の蔡東篆教授に教えを請うた。教授は蔡文清の正しい考えに感動し、微生物菌種の技術を提供してくれ、微生物拮抗が実現したのである。
蔡文清によると、蔡東纂が開発した48の強い菌種は、微生物が繁殖する土壌に入ると、有害微生物の生長を抑制し、農薬を用いずとも病虫害の発生を防ぐことができる。この他に、発酵させた液体肥料は植物にビタミンや酵素を提供するようなもので、虫の卵や殻のキチン質を分解し、害虫防止の効果を持つ。
源鮮農場では生産量を増やすために、毎日の照度や温度、湿度、培養液の濃度などを記録し、数値を調整することで単位面積当たりの生産量は600グラムから2400グラムまで増えた。AIとビッグデータの分析によって生産量を増やしており、現在400坪の農場では、一日に1600キロの野菜が採れるようになった。
以前はエレクトロニクス産業に従事していた蔡文清は、毎クオーター顧客からコストダウンを求められるため、常に安い部品に注意し、生産効率をいかに向上させるかを考える習慣が身についていた。その習慣が農場経営にも反映し、6年間記録を取り続けた後、これがビッグデータであることに気付いたのだと言う。
農場で使っている人工太陽は、太陽光のスペクトルを模したもので、蛍光粉で調整したLEDライトを用い、植物を傷つける赤外線と紫外線は排除して生長にふさわしい光源にしている。例えば、秋冬のスペクトルを用いれば夏に春菊が育てられるし、オーストラリアの太陽光に近づければケールを栽培できる。「このシステムは世界中どこでも複製できます」と蔡文清が言う通り、一年にわたって野菜を輸入する必要のあるカナダやデンマーク、イギリスなどの投資家が提携を求めて台湾を訪れている。
こうしたスマート農場では年間365日にわたって野菜が育ち、毎日収穫できる。これこそスマート農業の目標なのである。

禽舎4.0の設計は、密閉されたトンネル型の建築で、鳥インフルエンザ感染も防ぐことができる。

生産履歴の管理には、冷凍庫でのバーコードによる在庫・出荷管理も含まれる。

スマート禽舎ではコンピュータ制御によって自動的に餌・水やりが行なわれる。禽舎の床には体重計が埋蔵され、家禽の平均体重の増加状況が観測できる。

スマート禽舎ではコンピュータ制御によって自動的に餌・水やりが行なわれる。禽舎の床には体重計が埋蔵され、家禽の平均体重の増加状況が観測できる。

スマートモニターやビッグデータ分析などを通して生産高を高める。

源鮮農場では温度、湿度、風速などを調節し、自然環境に似たマイクロクライメイト(局所気候)を生み出している。

12のスペクトルを調節する人工太陽照明によって、さまざまな季節の野菜を栽培することができる。

埔里の農地では人工照明を利用してマコモダケの収穫期を調節し、年2回だった収穫期を年4回に増やした。

収穫から冷凍加工まで4時間で行なうことで、台湾の枝豆は輸出を伸ばしている。