転んだところから立ち上がる
台湾の養豚産業は、悲痛な経験の中から伝染病予防の概念を持ち始めた。養豚場に出入りする人や車や物資を管理し、ワクチン接種率は9割を超え、口蹄疫はしだいに台湾から姿を消していった。そして政府の農政部門による長期間のモニタリングの下、ワクチン接種を少しずつ減らし、全面的に非接種とした後も発症は見られず、2020年、台湾は国際獣疫事務局 (世界動物衛生組織)からワクチン非接種清浄地域に認定された。
この口蹄疫の経験があったからか、2018年に台湾の養豚産業は口蹄疫ワクチンの接種を減らし始めることができただけでなく、さらにアフリカ豚熱の防疫にも成功した。
国産豚肉のブランド「活菌猪」で知られる嘉一香食品の董事長‧陳国訓は、同社の防疫経験をこう語る。以前は、取引先との商談は養豚場で行なっていたが、今は外の喫茶店などで会うようにし、部外者を決して現場に入れないようにしているという。従業員が養豚場に入る際にも、入浴‧消毒をするだけでなく、隔離室に2日寝泊まりし、それから爪や頭髪、鼻腔などからサンプルを取ってアフリカ豚熱の陰性が確認されなければ入れないようにしているのである。
アフリカ豚熱は感染力が非常に強い。豚の致死率は100%に達し、治療薬やワクチンもなく、ウイルスの生存期間も長い。豚舎では1ヶ月、冷蔵肉でも100日生き続ける。獣医出身で台湾糖業畜殖事業部副執行長の温元文は、このウイルスはまるで忍者のようだと形容する。どこかに潜んでいて、少しでも気を抜くと養豚場に入り込むのである。周辺諸国を見ても、アフリカ豚熱が発生していないのは台湾と日本だけだ。台湾が感染を抑えられているのは、政府と民間が協力して努力してきたおかげである。政府の各部門は厳戒態勢で臨んでいる。入国管理や税関が国境を厳しく管理し、交通部は陸海空の輸送を管理し、移民署は移住者への指導を強化している。さらに環境保護署では残飯を高温消毒しており、すべての養豚業者が全力で協力することで、ようやく感染を抑えているのである。
現在では、台湾の豚の伝染病予防はさらに進歩しており、2025年には豚熱の清浄地域となることを目指している。台湾では2006年以降、豚熱は発生しておらず、多方面から厳しくモニタリングを続けている。こうして今年から豚熱ワクチンの接種を段階的に停止できるようになり、一年間発生しなければ、国際獣疫事務局に清浄地域の認定を申請できる。これが認められれば、台湾はアジアで唯一、豚の三大伝染病の清浄国となり、生鮮豚肉を日本へも輸出できるようになる。台湾で重大な伝染病を抑えることができれば、台湾の豚肉の品質や安全性が海外でも認められるようになり、農家のコストを下げ、競争力を高めることができると陳吉仲は語る。
東海豊の新型養豚場では陰圧ウォーターカーテン方式を採用し、屋内の温度管理、自動給餌システムなどがあり、密閉陰圧によって伝染病の伝播を防いでいる。これによって養豚のイメージは変わり、産業グレードアップの手本となっている。