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産業イノベーション

「新南向」の国々との民間協力

「新南向」の国々との民間協力

台湾アジア交流基金会のWarm Power

文・蘇晨瑜  写真・林旻萱 翻訳・久保 恵子

10月 2019

玉山フォーラムは台湾の民間とアジアのパートナーとの重要な対話の場である。(台湾アジア交流基金会提供)

2018年に台湾アジア交流基金会(TAEF)が開催した玉山フォーラムにおいて、台湾はアジアを支援し、アジアも台湾を支援できると蔡英文総統は提唱した。この地域における互恵関係は、台湾の新南向政策に具体化され、さらに民間でも様々な方法で世界各国との交流が実施されている。

2015年4月25日、ネパールの首都カトマンズ近辺でマグニチュード7.9の地震が起き、渓谷東方に位置するボダナート・ストゥーパは強烈な揺れに襲われた。危急の時には仏塔が守ってくれると、地震に驚いた人々は塔に駆け込んだ。

この地震の被害は大きく、僻遠の山地では外部との連絡は途絶え、道路は寸断され、8000人以上の死者が出た。被災地では古い建物が倒壊し、著名な遺跡も破損した。物資や水、救援工具の不足は深刻で救援作業は進まなかった。

青年リーダー同士の交流を通して台湾の若者の視野も広がる。

震災救援、台湾も後れを取らず

その半年後、台湾海外援助発展連盟(Taiwan Alliance in International Development、略称Taiwan AID)の王金英理事長はチームを率いて被災地ダーディン郡に入った。カトマンズから車で4時間の山間地で、道路状況は最悪だった。「道路沿いにテントが並び、地震から半年たっているのにまだテント暮らし、安全な水源もトイレもなかったのです」と王理事長は話す。

Taiwan AIDのネパール訪問は、外交部の救援計画に合せて集められた募金をネパール再建に用いるためであった。「台湾人の善意です。衛生部が募金ホットラインを設置したのですが、特に宣伝もしないのに1億台湾元が集まりました」と王理事長は言う。Taiwan AIDは彰化キリスト教病院と協力し、その資金をもってダーディン郡に入り、現地のNPOであるEPF(Ecological Protection Forum)の協力を得ながら、多機能タイプの地域発展センターを再建した。外交部からの支援物資もTaiwan AIDとEPFが手をつないでネパールに運び込み、被災者の手に届けられた。

多機能の地域発展センターは、完成すると地域住民の集まる場となった。太陽光発電で電力を自給できるため、ネパールの婦人団体がセンターでコンピュータや調理などの講座を開設し、さらには衛生教育、医療訓練や地域住民のイベントなど多様な任務を担うこととなった。

台湾アジア交流基金会(TAEF)董事長で総統府資政(顧問)の蕭新煌は、台湾は「Warm Power」を具えており、それによって世界とのつながりを深められると考えている。

台湾の「warm power」をアジアへ

第二期の援助では、Taiwan AIDはグリーンエネルギーを活かしたペンションを建設して雇用を生み出し、ドイツの技術を導入して、防災に向いたレンガ製造を現地で行う。

台湾アジア交流基金会(TAEF)の蕭新煌董事長は、Taiwan AIDのようなアジア向けの援助を台湾の「warm power」と呼んでいる。

Taiwan AIDはシンクタンクであるTAEFのパートナーの一つだ。TAEFは2018年の設立から、台湾とアジア各国との全方位型交流を推進し、民間のシンクタンクとして、台湾とアジア各国との協力関係強化に努めてきた。

「TAEFは、台湾の新南向政策推進を拡大する役割を果たしたいと考えています」と蕭董事長は話す。政府の新南向政策には五大旗艦計画がある。人材開発、産業協力革新、地域農業協力、医療協力および産業チェーン発展、そして新南向フォーラムと青年交流である。その五大計画の中でも2017年に始まった玉山フォーラムは新しい試みで、地域対話のプラットフォームとして定着してきた。2018年の玉山フォーラムは「地域繁栄の創造」をテーマに、地域の繁栄と安定にフォーカスし、アジア各国に台湾の新南向政策と民間の行動力を紹介した。また、ノーベル平和賞受賞者のカイラシュ・サティヤルティ氏と、同じく受賞者で元南アフリカ大統領のフレデリック・ウィレム・デクラーク氏を講演者に招いた。

台湾アジア交流基金会によってつながりを得た台湾とベトナムのアーティストが互いの交流を深めている。(台湾アジア交流基金会提供)

民間での国際交流

TAEFは、新南向政策に加えて、市民協力、シンクタンク交流、青年リーダー育成、芸術文化交流と、アジア地域の防災強靭化計画の五大核心プロジェクトを打ち出している。市民協力においてはTaiwan AIDと国際NPOの協力・交流を通じて、政府の手が届かない隅々まで触角を伸ばす。

TAEFの役割を一言で言うと、台湾の「友人」を増やし、地域間の交流を促進することである。

「政府は人を中心にすることを重視しており、五大プロジェクトも人を中心としています」と蕭董事長は言う。防災は人を助けるものであり、青年は未来を担い、シンクタンクや市民交流も人が中心となる。「しかも単独で進めるわけではありません。基金会だけではこれほど多くのことはできませんから」と蕭董事長は言う。

TAEFの多くのプロジェクトはTaiwan AID、遠景基金会、国家文芸基金会、台北医学大学、アメリカ在台協会(AIT)などと協力し、新南向政策対象国において理念を共にするシンクタンクや政策専門家、台湾駐在機関、それに現役及び退任した官僚が加わり交流を深める。政府の政策とは別の形で、多くのプロジェクトは民間のソフトパワーを活用し、広く交流を図っている。

ネパールのダーディン郡のコミュニティ発展センターが再建されて衛生教育センターとなり、現地の女性団体がしばしば女性向けの医療講座を開いている。(Taiwan AID提供)

地域対話と文化交流

2018年10月にTAEFは6人のベトナム人芸術家を招き、台湾の画家、写真家、彫刻家などと交流を行った。さらにベトナムとMOUを交わし、今回の交流を終えた後も継続的な交流を続けていくこととなった。防災面では、2019年5月に防災サミットを開催し、ベトナム、ミャンマー、インドネシア、フィリピンなどと防災経験を交換し、防災に関する提言を行なったのである。

台湾とアジア各国との交流は平等な経験交換に基づき「私たちは惜しむことなく経験を分かち合い、政府に代って台湾の物語を語るのです」と蕭董事長は語る。

台湾のNPOによる対外援助は、いずれも長期的な視点で現地に根を張って活動していると語るTaiwan AIDの王金英理事長。

平等な交流で台湾の物語を語る

王金英の海外援助経験に代表されるように、台湾のNPOは海外援助において「何らかの意図を持つわけではなく、私たちは誠実に相手を手助けし、長期間にわたって現地で支援を続けるのです」と、その重要性を語る。

国際社会でシャープパワー(sharp power)の行使が問題視されている中で、台湾という島嶼が伸ばす温かい友好の手は、官民一体となった新南向政策を通じて、台湾のwarm powerを伝え、アジア太平洋地域における台湾の卓越した貢献を世界に伝えているのである。

ネパールのダーディンに再建されたコミュニティ発展センターでは、調理教室などが開かれ、コミュニティの活力が感じられる。(Taiwan AID提供)

今年、AITと共同開催した「台湾アジア青年リーダー交流プロジェクト」で、若者たちは烏来にあるタイヤル族の集落を訪問して交流を深めた。

「台湾アジア青年リーダー交流プロジェクト」を通して、アジア各国の若者は台湾のタイヤル族に対する理解を深めた。