台湾人の精神
李洋によると、東京五輪の前まで台湾ではバドミントンといえば戴資穎や周天成などのシングルスの選手しか知られていなかった。「2017年の時点で、台湾の男子ダブルスは世界ランキングトップ10以上に3組も入っていたのに、台湾では知られていなかったのです」と言う。そこで二人は、ダブルスの注目度を高めるために勝たなければというプレッシャーを自らにかけ、それに加えて初めての五輪出場の緊張もあって、予選リーグの初戦でインドに敗れてしまったのである。
二人は、予選から勝ち上がるには初戦に勝たなければならないと考えていた。同じ予選グループにはまだ勝ったことのないインドネシアの強豪がいて、これに負ければベスト8には入れない可能性があったからだ。だが、優れたアスリートはメンタルも強く、すぐに気持ちを切り替えた。「希望はわずかだとしても、あきらめず、正しい態度で取り組もうと思いました」と李洋は言う。
そこで二人は、背水の陣でありながら、一球一球を大切に、残りのゲームを存分に楽しもうと考えた。東京五輪で最も印象深かった試合はと問うと、二人は口をそろえて「ミニオンズ」の愛称で知られるインドネシアのスカムルヨとギデオンのペアとの対戦だったと答える。「その時の王斉麟のプレーはすごく良かったです。いつもなら慌てて打ち返し、相手にチャンスを与えてしまうことが多いのですが、この試合では彼は落ち着いていて敵のペースをくずしていきました」
こうして順調に勝ち進んでいき、決勝戦では、それまで対戦したことのない中国の李俊慧・劉雨辰ペアと戦うこととなった。ゲーム開始直後からリードされたが、二人は息の合ったプレーを見せ、驚くべき気力と粘り強さで勝利した。こうして台湾にとって五輪男子ダブルス初の金メダルを取ったのである。
これを受けて、台湾ではバドミントンブームが起きてている。近年は政府による奨励や新たな実業団の結成、スポンサーとなる企業も増え、良い方向に発展していると李洋は語る。
李洋と王斉麟、陳宏麟の3人にとって五輪は一大会にすぎず、帰国後は再び練習に取り組み始めた。ネット上では2019年の世界バドミントン選手権の映像が盛んにシェアされた。李洋が3度にわたってスライディングで打ち返すラリーの様子だ。彼らは世界に台湾バドミントンの強さを見せつけるとともに、最後まで決してあきらめない台湾の精神をも世界に示したのである。
ダブルスではペアの呼吸が重要だ。李洋(左)が守備に成功すると、王斉麟はすぐに次の戦術を判断する。(教育部体育署提供)