優れた外交手腕で知られたイギリスのウィンストン・チャーチル首相は、顔を突き合わせた非公式の交流の場でこそ真に相手を理解することができ、外交を展開しやすいと語った。我が国の外交部と文化部は、ニューヨーク、ワシントン、シンガポールなどの台湾代表処および大使公邸で、一連の「台湾現代アート展」を展開している。台湾のアーティストの作品を外交の場で展示することで、外国の貴賓や華僑に台湾文化の多様性に触れていただき、パブリック・ディプロマシーを進展させるという意義がある。
今年(2018年)1月末、シンガポールで開催されたアートフェア「Art Stage」に東南アジアから参加していたアーティストや関係者100名余りが、台湾の駐シンガポール代表である梁国新から、大使公邸での宴に招かれ、台湾現代アート展「未来寓言」を鑑賞した。
「所見為何」台湾現代アート展は駐ニューヨーク弁事処の台湾書院で開催された。
台湾からのインビテーション
2016年末に総統府の命を受け、対外貿易協会董事長から駐シンガポール代表に就任した梁国新は、この日、自ら美術解説員となり、台湾のアーティスト賀蕙芝の油絵を紹介した。東南アジアから集まった来賓は、作品に描かれたパイナップルの花や台湾のフルーツを目にすると親しみを感じ、まるでシンガポールの市場のようだと言う人もいた。「描かれている牛肉麺や餃子も、すべて台湾の暮らしの一部分です。賀蕙芝は繊細なタッチで収穫と豊作、平和と安楽を表現しており、これこそ皆様にお見せしたい台湾のイメージです」と梁国新は語った。
大使公邸だけではない。台湾の29名の新鋭アーティストの作品37点は、駐シンガポール代表処にも展示されている。梁国新は代表処のスタッフに「美術解説員訓練」を受けるよう求め、代表処に手続などに訪れた外国の人々や絵を見に来た人々に解説できるようにしている。
「未来寓言」のキュレーターで国立台湾美術館研究アシスタントの張雅雯によると、今回展示しているのは、複合メディアアートと多様なテーマの作品である。これらを通して台湾社会の多様性と豊かさを表現するものだが、実は多民族、多言語、植民地としての歴史などの面でシンガポールと台湾は共通点が多く、共鳴を得やすい。
展覧会を訪れた貴賓は、これが台湾政府が推進する芸術外交の一貫であり、これらの美術品は政府が支持する「アートバンク」のものであると知り、その政策を称賛した。

賀惠芝の油絵は、収穫と豊作、平和と安楽という台湾のイメージを伝える。
外交の場で展覧会
「在外公館美術展示計画」のアイディアは、アメリカ国務省が長年にわたって行ってきた「Art in Embassies Program」から来た。外交部国際伝播司の陳銘政・司長はこう説明する。外交部は代表的な在外公館を選んでアートバンクの作品を展示することで、台湾の現代アートの作家を国際交流の場へ連れ出す。これは台湾企業の製品の輸出先を探したり、台湾企業に新たな道を開いたりするのと同様、台湾の芸術家の国際的な認知度を高めることにつながる。また台湾は外交上、困難な立場に置かれているため、外交官は可能な限り「あらゆる扉をたたき、あらゆる手を握る」ことを求められるが、こうした中で美術展は台湾のソフトパワーをアピールする手段となり、パブリック・ディプロマシーを一層豊かにできる。
「アートバンク」は文化部が国立台湾美術館に依頼して進めているプログラムである。政府が予算を組んで台湾の現代アーティストの作品を購入し、価格の0.4%の金額で公営・民営企業に貸し出すというシステムだ。これを通して台湾の中堅アーティストを育成し、同時に美術品を身近な空間に普及させることができる。
「所見為何」台湾現代アート展は駐ニューヨーク弁事処の台湾書院で開催された。
ニューヨーク代表処の「所見為何」展
外交部と文化部は、計4回の「台湾現代アート展」を計画した。ニューヨーク、ワシントン、メリーランド州、シンガポールの在外公館などである。ニューヨークは国連本部の所在地であり、世界の外交の中心地でもある。台湾現代アート展「所見為何(何が見える)」は昨年11月にニューヨークの台北経済文化弁事処で開かれ、台湾のアーティスト7人の16作品を展示した。
キュレーターの陳研卉は「所見為何」で展示した侯怡亭の作品について説明する。この作品は、台湾の伝統的な市場のイメージを背景に、人物は西洋の宮廷の華麗な刺繍をまとっている。グローバル化による文化の進入と融合を表現しており、コレクターからの問い合わせもあるという。

「所見為何」台湾現代アート展で展示された廖堉安の「不専心的生活誌(不注意な生活ジャーナル)No.2」は多くの人の共感を得る作品だ。
ワシントン双橡園の「遇見台湾」展
2回目の台湾現代アート展「遇見台湾」は、駐ワシントン代表処の双橡園(Twin Oaks Estate)で今年の6月末まで開かれた。双橡園は130年の歴史を持つジョージアン様式の建物で、ワシントン市の古跡に指定されており、そのため予約制の展覧会となった。
我が国の駐米代表である高碩泰は次のように話す。双橡園は中米関係の変化を見てきた重要な建築物で、政治、外交、文化、歴史において特別な意義を持つ。今回の展覧会では台湾を代表する新鋭芸術家の作品が展示され、クラシカルな双橡園に新たな活力をもたらした。この展覧会を通して、台湾はアメリカの多くの芸術家やコレクターと出会うことができた。例えば、ワシントンのギャラリーInternational Arts and Artists創設者のデビッド・ファーチゴット氏や、アメリカン大学Katzen Arts Centerのジャック・ラスムッセン館長など、いずれも台湾の若手アーティストの創作能力を高く評価した。
これに続いて、7月1日から11月末までは、米メリーランド州のTECRO Culture Centerで開催される。
駐シンガポール台北代表処の「未来寓言」展は今年10月末まで続く。外交部の徐遠明によると、一般のオフィスの照明は白色でムラがあるため、駐シンガポール代表処ではすべての作品に美術品展示用の照明を取り付けた。これによって、普段は殺風景な廊下もまるでエレガントなギャラリーのような空間になったという。
台湾の現代アートを在外公館や大使公邸で展示するという「在外公館美術展計画」は、文化使節としての使命を担い、台湾を紹介するパブリック・ディプロマシーに貢献している。台湾のソフトパワーを際立たせるとともに、台湾の現代アートへの認識度をも高めるものである。
「未来寓言」台湾現代アート展で展示された林慶芳の作品。油彩とスプレー、アクリル、ラメなどを用いた「公主病的白雪与仙杜瑞拉(お姫様病の白雪姫とシンデレラ)」。

外交部国際伝播司の陳銘政・司長は、芸術作品はパブリック・ディプロマシーに大きく貢献できると考えている。(林旻萱撮影)
ワシントンの双橡園(Twin Oaks Estate)に台湾の新鋭アーティストの作品が展示され、クラシックとモダンの対話が生まれた。