楽器製作者による醸造
「自分が作る楽器の音の良さには自信があります」と李十三は語る。彼が作る二胡の音は澄んでいるが、弓を引く時にやや重みを感じ、うまく弾きこなせる人は限られていた。そのため、音質が良く、しかも演奏しやすい胡琴を作ることが李十三の課題だった。
李十三によると、二胡の音色は木材と皮の素材でほぼ決まり、重さは材料の炭化がカギを握る。彼は宜蘭での20年近い研究を通し、ついに木材の保存から解決方法を見出した。
こうして李十三が作る胡琴の市場が日本まで広がった後、彼は「醸造」を開始した。胡琴と醸造はどうつながったのだろう。
李十三によると、夏の宜蘭は台風が多く、昔は女性たちが塩漬けや発酵の技術を用いて食べ物を保存していて、各家庭にそれぞれの味があった。彼の家でも常に豆腐乳や醤油を醸造していて、醤油は3年かけて甕ひとつ分を使い切ると、また醸造していたという。
以前は特に貴重なものだとは思っていなかったが、顧客への贈答品として祖母が手作りした豆腐乳を贈ったところ、その顧客から「あの豆腐乳は売っていないのですか?」と問い合わせがあったのである。
食べ物にはたくさんの記憶や思いが詰まっている。フランスの作家マルセル・プルーストは、その小説『失われた時を求めて』の中で、マドレーヌを紅茶に浸して食べるシーンを描いた。その香りと味わいが、幼い頃の記憶を呼び覚ますというのである。
李十三にとっての発酵食は、祖母と母親の記憶につながるものだ。豆腐乳は玄米の麹を用い、夏に麹を作って用意しておく。そして豆腐と米麹、砂糖を瓶に詰めて原酒を注いで殺菌し、発酵熟成させる。彼は6ヶ月寝かせた豆腐乳を出してくれた。醤と酒の香りが鼻をくすぐり、口に入れるとすぐに溶けていく。塩辛くなく、さっぱりしていて口の中で滋味が少しずつ変化していく。
李十三のワークショップを訪れると、胡琴の材料や製作器具のほかに、長年をかけて醸造した味噌や豆腐乳が並んでいる。軒下のバーベキューコンロの弱い炭火の上には冬にしか採れない小さな大根が載せてあり、遠火で焼かれてしわしわになっている。「これは台湾人参ですよ。低温で7日間焼き、チキンスープにするとおいしいのです」と李十三は言う。
江朝清さんは豆麹や米麹に代えてパイナップルで発酵させる。こうしてできた豆腐乳は黄金色をしている。