多元文化の講師
以前、台湾社会は文化の多様性に対する認識が浅かった。そこで、新住民や移住労働者に対するステレオタイプのイメージを変えるために、多元文化講師である胡清嫻さんや他の新住民の女性たちは、学校や地域で多元文化講座を開いてきた。小学校、中学、高校から大学まで、教師や地域の年配者まで、対象は幅広い。その時々の対象に合わせ、胡さんは講座でのコミュニケーションの方法を変える。地域の年配者が対象の時は、台湾とベトナムの文化の似ている点や違う点を話す。例えば、端午節にチマキを作る風習はベトナムにもあるが、チマキの形が違い、またベトナムではお焼きを作って食べる習慣もある。こうした話を通して、お年寄りたちは、自分の家の嫁の母国文化を理解してくれる。
この仕事を始めたばかりの時、彼女の気持ちは重かったと言う。学校で、母親の出身国の文化に劣等感を抱いている子供を数多く見たからだ。自分の子供もそうなのではないか、と思った。そこで、学校での多元文化の授業では、子供たちを観察するようになった。特におとなしい子供がいると、その子と個人的に接触し、母親が新移民かどうかを確認する。授業では、新移民の子供に、東南アジアへ行った時の経験を話してもらう。自信を持たせ、また他の生徒には異なる文化の優れた点を知ってもらうためだ。
また、状況が許す限り、彼女は自分の娘と息子を仕事に連れていき、子供たちに異なるエスニックに触れさせる。「私の仕事を通して接触があるからか、うちの子供たちは母親の出身地を隠すことはなく、むしろ大きな声で、お母さんはベトナム人です、と言いますよ」と言う。
胡清嫻さんは年に数百回もの多元文化の講義を行なう他、後進の育成にも力を注ぎ、各地でこの仕事に興味を持ってくれる新移民女性を探し、講師として育成している。台湾社会の多様な融合は、実はこうした人々が双方のコミュニケーションを促進してきたことで実現したのである。「台湾人と新住民が理解しあって融合すれば、新しい知識や人材が出てくるんじゃないですか」と胡さんが言うとおりである。
胡さんは、自分はおしゃべりで、おせっかいだから、新住民のリーダーになったのだと言う。思ったことは何でも口に出し、権力を恐れない。ある時は、屏東県の潘孟安・県知事に向って、「新住民の母語教育人材を育成したら、次の段階はどうするんですか。育てた教師たちには力を発揮する舞台が必要ですし、彼女たちの働く権利も保障しなければなりません」と発言した。
自分が公共の分野で働くことになり、さらには国策顧問になるとは思ってもいなかった。かつてベトナムから台湾へ嫁ぎ、人生の可能性を夢見ていた乙女が、今では勇敢に人の前に立ち、新住民のための声を上げている。
複雑な政治の世界に関わることとなり、胡清嫻さんは、正直なところ少し疲れる、普通の新住民女性のように平凡な暮らしがしたい、とこぼす。それでも、自分が彼女たちの代わりに声を上げなければ、彼女たちの権益はどうなるのか、とも思うのである。
台湾に来たことは少しも後悔していない。これは一つの縁であり、また自分で選んだ道なのだから、ただ前へ進むのみ、と締めくくった。
異国文化を紹介するイベントで、自信をもってダンスを披露する新住民の女性たち。