台湾独特の「垂直湿地」
これら湿地でのシーンは、ドキュメンタリー『野性湿地』に納められている。それは方偉達所長と馮振隆監督が10年を費やし、台湾の山や海の湿地に広がる美しい風景と貴重な生物の姿を記録したもので、「高山の湖」「田畑の湿地」「河川の湿地」「海岸の湿地」の計4集からなる。国家科学及び技術委員会の援助を受けたこのプロジェクトの責任者でもある方偉達教授は、台湾の湿地の特色を海外にも紹介し、やがて『台湾湿地誌』の出版につなげたいと考える。
『野性湿地』は、ラムサール条約東アジア地域センターとSWSアジア委員会による「Best of Best Award」を受賞し、SWSのスーザン・ガラトウィッチ会長が同賞授与のため、2024年4月にわざわざ台湾を訪れた。そしてアメリカ、韓国、タイでも上映されている。
1980年設立のSWSは、湿地への理解、保護育成、修復などを推進し、科学に基づいた管理によって湿地のサステナビリティを促進するために世界中で活動している。
湿地に関する条約「ラムサール条約」は1971年にイランのラムサールで採択され、締約国は170に及ぶ。そしてラムサール条約事務局が管理する「国際的に重要な湿地に係る登録簿」には2337ヵ所の湿地が登録され、総面積は2億5205万1186ヘクタールに達する。
SWSアジア委員会の主席でもある方偉達教授はこう説明する。台湾の湿地は面積で言えば、湿地大国であるイギリスやアルゼンチンほど広くはないものの、その形態は多種多様だ。ラムサール条約の湿地の定義「干潮時における水深が6メートルを超えない海域を含む」に基づけば、台湾のダム、山地の内陸湖、海岸の潟湖、岩礁などはすべて湿地であり、ほかにも塩田や水田などの人工湿地も含まれる。
SWSのベン・ルペイジ元会長は、2年間台湾師範大学で客員教授を務め、玉山国家公園や陽明山国家公園の招きで湿地調査をしたこともあるが、台湾特有の湿地として「垂直湿地」を挙げ、台湾が誇るべきものだと太鼓判を押す。「垂直湿地」について方教授が説明してくれた。一般に湿地と言えば、沼地や潟湖、マングローブ林のような水平的なものを指し、学術界の定義でも「垂直湿地」が含まれたことはないという。だがもし垂直湿地を定義するなら、「傾斜が30度以上の山壁や岩の割れ目で地表水に依存する植生があるところ、または山林の滝、水の滲出のある岩壁、台湾の海岸で見られる『藻礁』なども含まれ、それは高山から海岸にまで至る」という。
ルペイジ氏の考えでは、新北市の老梅緑石槽や桃園市の藻礁も垂直湿地と見なすことができ、しかも高い研究価値があるという。なぜならこれらの海岸で見られる藍藻は、地球上で最初に酸素を生成した生物を祖先に持つ可能性があるため、それにより生物の起源が説明できるからだ。
SWSアジア委員会の主席を務める方偉達教授は、台湾には多様な湿地があると言う。