基礎研究に焦点を
台湾の最高学術研究機関として中央研究院は、アカデミー会員で構成される「栄誉社団(h o n o r society)」と、研究員が属する研究機関からなり、総統府に直属し、国からの任命で基礎研究の任務を担う。
応用科学が即時に問題を解決し、経済的価値も生むのに対し、抽象的な学問である基礎研究は庶民とどのような関係があるのだろう。
2016年に院長に就任した廖俊智は、基礎研究は建物の基礎工事に似て、基礎がきちんと作られてこそ、その上に物を建てていくことができるのだと説明する。
基礎と応用はかけ離れたことではない。生命科学で言えば、基礎研究で細胞の進化や分裂、増殖、代謝、死への過程を探究することが、新薬の開発や臨床応用へとつながる。廖は「基礎というのは日々感じるものではなく、潜在化したり長い年月を要するという特質があります」と言う。
基礎研究の多くは、空しく時を費やし、失敗を 繰り返すものだ。だがいったん成果を生むと画期的な変化につながる、いわばハイリスク、ハイリターンの仕事だ。情報科学研究所研究員であり、「研之有物」編集担当の陳昇瑋は、失敗率が高いからこそ、国のサポートが必要なのだと言う。近年身近になった人工知能も、60年前には世界各国でその潜在力が注目されており、研究に投資されてきた。それが今日やっと開花したのである。
優れた研究成果を上げる中央研究院だが、一般市民には縁遠かった。だが廖俊智は、院の研究費が税金で賄われている以上、基礎研究の意義や価値 を国民に説明し、成果を発表する必要があると考えた。そこで、皆がわかるように説明する場を作ろうということになった。サイト運営の経験がある陳昇瑋が自ら進んでその任を引き受け、外部からも人材を募ってチームを作り、「研之有物」を立ち上げた。
中央研究院には多くの精密機器があり、オープンハウスで見学することができる。