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産業イノベーション

都市進化論 スマートシティ

都市進化論 スマートシティ

文・曾蘭淑  写真・莊坤儒 翻訳・山口 雪菜

9月 2018

都市進化論 スマートシティ(荘坤儒撮影)

AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、クラウド・コンピューティングなどが発達していくと、人々の暮らしはどう変わり、都市はどう発展していくのだろう。

「スマート・シティ」の概念は、大都市発展のニーズと生活環境の変化に対応し、新しいテクノロジーを活用して都市を改造する実験と行動を指す。政府の力と市民の創意を結び付け、さらに産業の力も加えて、持続可能かつ幸福なテクノロジーライフの可能性を探るものである。

19世紀、イギリスの作家ハーバート・ジョージ・ウェルズは『A Story of the Days To Come(来たるべき世界の物語)』の中で、こう予言した。22世紀の都市は際限なく成長し、地方は荒廃していく。都市生活は混雑してストレスに満ちているが、人類はそこから抜け出せない、と。

ウェルズの予言は当たっているのかも知れない。国連の予測では、2050年の段階で世界の全人口の7割が都市部に居住し、2030年には人口1000万人を超える巨大都市が43に上るとされているのである。

そうした中、都市のサステナビリティと暮らしやすさを実現するため、世界各地で「スマートシティ」という概念が打ち出された。情報通信技術を駆使して都市の交通渋滞やゴミ処理、大気汚染、エネルギー消耗などの問題を解決するというものである。ここからさらにスマートシティのビジョンを広げ、産業イノベーションを導き、住民に快適で便利な暮らしをもたらし、サステナビリティと住みやすさを実現する。

持続可能な発展と暮らしやすさを実現するため、世界の各都市は「スマートシティ」を目指し、情報通信技術(ICT)を活かした都市のビジョンを打ち出している。(荘坤儒撮影)

世界で進むスマートシティ化

工業技術研究院の産業科学技術国際戦略所主任の蘇孟宗によると、スマートシティには、インフォメーションシティ、デジタルシティ、ユビキタスシティなどの概念が含まれ、世界中の大都市がスマートシティ構築を目標としている。EUでは2007年から持続可能な低炭素スマートシティを推進している。例えばオランダのアムステルダムでは、省エネ技術を用いて二酸化炭素排出量とエネルギー消費量を削減、アメリカのシアトルではスマートグリッドによる省エネを推進、日本ではICT産業発展のためのi-Japan戦略を推進するなど、世界の各都市でスマートシティが重要な発展戦略となっているのである。

世界各地のスマートシティ戦略は進歩し続けている。蘇孟宗によると、欧米では新興テクノロジーの応用やインフラ整備から、地域の問題解決へと方向転換しつつあるという。ボトムアップで市民が参加できるプラットフォームを作り、多くの人々の知恵を集める。例えば、ロンドンでは市民と企業を対象にオンラインのプラットフォームTalk London Communityを設置して問題解決の提案を募り、フィンランドではスタートアップイベントSlushやハッカソンを開催し、創意あふれる起業家が市政に加われるようにしている。

「スマート・シティ」の概念は、大都市発展のニーズと生活環境の変化に対応し、新しいテクノロジーを活用して都市を改造する実験と行動を指す。

台北市:スマートシティ実験室

台北市は2016年に「スマートシティ・プロジェクトオフィス」(TPMO)を設立した。これはマッチングプラットフォームとして考案されたもので、スタートアップやテクノロジー企業の知恵を活かして市民のニーズを解決し、台北市をスマートシティの生活実験室とするものだ。

台北市情報局の李維斌局長は、スマートシティは名詞ではなく動詞であり、目標ではなく手段だと考える。「情報技術とイノベーションを公的部門に取り入れ、公的部門の機会を外へ紹介していくのです」と言う。

設立から2年、TPMOはすでに自動運転バス、カーシェアリング、バイクシェアリングなど120以上のスマートシティ・プロジェクトを推進し、成功率は26.7%である。

現在、台北市の健康路と洲子街に設置されているスマート街灯もその実験の一つである。

光宝(LITE-ON)グループの光林照明事業部と台北市が提携し、松山区健康路の三ヶ所に「スマートIoT街灯信号共用ポール」を設置した。一本のポールにLEDの街灯と交通信号の他に、さまざまなIoTセンサーを取り付け、スマートシステムを通して、市が遠隔で大気汚染や道路状況をモニタリングできるシステムだ。

スマート街灯のもう一つの実験エリアは、艾普仕(IPS)など3社のある内湖区港墘路と洲子街の一帯で、街灯を用いて高齢者やペットの行動や、ゴミ収集車やバスの流れ、路上駐車などの状況をモニタリングするもので、ここで得られた情報はクラウドにアップされ、市民はスマホを使って情報を得ることができる。

スマート街灯は照明や監視の機能を持つだけでなく、電子看板で市政に関する情報を提供することもできる。

エアーボックス

「エアーボックス(空気盒子)」は、スマート応用プロジェクトの成功例だ。多くの人が大気汚染やPM2.5に関心を寄せる中、2016年、台北市では150の小学校に「エアーボックス」を設置して汚染状況を監視し始めた。これは訊舟科技(Edimax)と瑞昱半導体(Realtek)が寄贈したもので、環境教育に活かすこともできる。

PM2.5と気温と湿度を計測するエアーボックスは、中央研究院と民間のスタートアップグループLocation Aware Sensing System(LASS)が共同でビッグデータ分析を行ない、情報をオンラインで公開している。一般市民もエアーボックスアプリやサイトで情報を得ることができ、他の地域もこれを導入し始めた。訊舟科技では公益プロジェクトとして台湾各地2000ヶ所にエアーボックスを設置し、台湾は大気汚染モニタリング地点の密度が世界で最も高い国となった。

エアーボックスは、スマートシティが追求する政府と民間と市民のパートナーシップ構築に成功し、Public-Private-People Partnership(4P)の最良の事例となった。中央研究院研究員の陳伶志は、エアーボックスは台湾の市民テクノロジーの成功モデルだと語る。

台湾では多くの都市がIoTと AI、ビッグデータを活用して都市建設とサービスを進化させている。例えば新北市の「サービスクラウド」や、「高雄シティデータプラットフォーム」などは自治体が各局の情報を統合し、市民に関わるデータを公開するもので、都市ガバナンスの効率と市民の利便性を高めている。

台北市情報局の李維斌局長は、台北市をスマートシティの「生活実験室」にしたいと考えている。

テクノロジーと創意

他にも地域の特性に合わせた事例は少なくない。桃園市では「水防アプリ」をダウンロードすれば、豪雨の時に水害が起きている場所や避難ルートがすぐに分かり、さらに市民がアプリを通して水害情報を通報することもできる。台南市では成功大学と協力して、感染症予防のためのクラウド統合プラットフォーム「掌蚊人」を構築した。感染症予防マップや殺虫剤散布マップなどの資料を公開する防疫アプリである。

桃園市消防局は、3年をかけて7つの部門の16のシステムを統合し、「スマート行動派遣119」を確立した。IoTを通してあらゆる情報を収集・分析し、決定に活かすというものだ。

これまで消防隊員は資料を調べて消防用水の採水口を探さなければならなかった。また、ディーゼルオイルや硝酸、トルエンなどの発火物や化学物質がある時は、消防隊員は400ページにものぼる資料をめくり、それらの危険性や使用状況について調べる必要があった。

現在では119通報センターが火災や地震被害の通報を受けた時、現場の指揮官がアプリを開くと、出動車両の戦力がリアルタイムに掌握でき、必要な場合はさらに応援を出すことができる。危険物や有毒物質がある場合は、アプリが消防隊員に警戒を呼びかけ、同時に危険性と救援方法も分析されるため、指揮官は最良の消火救援方法を採ることができるのである。

桃園市消防局によると、アプリを有効に使うことで、2015年には521秒だったレスポンスタイムが2017年には468秒になり、53秒短縮することができたという。

また、画像認識AI技術を警察業務に活用することもできる。工業技術研究院と新竹市警察局、新北市警察局が共同で運用する「DeepLookクラウドスマート画像分析システム」である。警察が違反車両や盗難車を追跡するために交差点の監視画像を調べる際、このシステムはAIを用いて大量のデータを分析し、クラウドコンピューティングによってターゲットの車両ナンバーを識別することで、処理の時間が大幅に短縮された。

交通事故の多くは交差点で起こるため、工業技術研究院は「十字路衝突防止警報システム」を開発し、新竹県・市の6ヶ所に設置した。このシステムは十字路で危険な車両を発見すると、衝突3秒前に運転者に危険を知らせることができる。

「今後は単一都市における応用から、都市を跨いだ利用へと拡大していくことで、充分な経済効果が上げられるでしょう。YouBikeとMRTを結び付けたスマート交通やETCのように、世界に輸出し海外市場を開拓することも可能なのです」と工業技術研究院の蘇孟宗主任は語る。

台北市健康路は「スマートIoT街灯」の実験エリアとなっている。

桃園市は雨量・水位観測器を60ヶ所に設置し、リアルタイムで降水量と水位、画像などのデータを提供している。

「桃園水防」アプリをダウンロードすれば、水害発生状況や避難所の情報が得られる。

消防隊員は「スマート行動派遣119」を通して出動前に道路状況を確認でき、消防活動の計画を立てることができる。

桃園水資源回収センターは、台湾で初めてIoTを用いて水質モニタリングを行なう部門である。(林格立撮影)

2016年、台北市では150の小学校に「エアーボックス」を設置して汚染状況を監視し始めた。これは訊舟科技(Edimax)と瑞昱半導体(Realtek)が寄贈したもので、環境教育に活かすこともできる。

スマートシティの最終目標は人を大切にすること。快適で住みやすく、持続可能な都市を目指す。(林旻萱撮影)