若さと活力の台北
蘇麗瓊が「台湾のデザイン力を見せつける」と形容する聖火ランナーのユニフォームは、デザイナー黄嘉祥の手になるものだ。
長年アメリカに暮らし、オリエンタルなモチーフの運用に長けた黄嘉祥は、「北」の字を巧妙にロゴ化し、書の滲みを思わせるデザインにした。そのロゴは3Dプリントで立体感がある。
メインの赤、青、白の三色は、若さと生気、活力をイメージしている。従来のスポーツウエアは主にストライプや色調のデザインが主流だったが、彼は裁断にも工夫を凝らした。例えば、女性ランナーのレギンスはバイアスの裁断でスリムに見える。ウインドブレーカーには台湾の繊維メーカーSingtexが開発した機能性エコファブリックS.Caf聖火トーチ――伝統と革新
長さ70㎝、重さ1.2キロの流線形で、アルミ合金製のユニバーシアードの聖火トーチも、台湾のデザイン力と産業の実力を感じさせる。
トーチのデザインは秸禾設計公司(UIDクリエイト)のディレクター張漢寧が担当し、台湾産業の伝統から革新までの実力を示している。
全体のデザインから、トーチのボディや炎の出る部分の制作、内部のガス充填まで、台湾企業5社以上が関わった。「台湾はこれまでワールドゲームズやデフリンピックを開催しましたが、専用トーチのデザインは初めてのことです」と張漢寧は言う。
トーチの下部は南投の工芸家・蘇素任に依頼して六角形の竹細工とし、グリップ部分にも竹材を用いた。竹細工は台湾の重要な伝統産業であり、また竹は「君子」にも喩えられることから、各国選手には厳しい競技の中でも『論語』に言う「揖讓して升り下り、而して飲ましむ。其の争いは君子なり」の精神を貫いてほしいと願う。
トーチ中央部の金属部品は台中烏日の鉄鋼メーカーが製造した。張漢寧によると、アルミ合金は硬度が不充分なため成形が難しかったが、工場の技術でようやく克服できたという。
トーチの上部は下部と呼応した六角形のくり抜きで、この部分は台中太平の精密医療器材を生産する「昆兆益」に依頼して難度の高い立体裁断技術を用いた。
今回の聖火は標高3000メートルの玉山も通るため、高山でもトーチの火が消えないようにする必要があった。そこで暖炉メーカーである「愛烙達」に加圧バルブを生産してもらい、圧力を調節できるようにした。花びらのように広がる炎も、愛烙達の技術によるものである。
伝統から革新へという理念は材質に見られるだけでなく、内部に取りつけたLEDにも見られる。「最も伝統的な照明である炎から、最新の照明であるLEDへ、伝統から革新へという理念を表現しています」と言う。「初めてのトーチ制作が、台湾での国際総合競技大会の今後の標準になる可能性もあり、理想に向かって邁進しています」と張漢寧は言う。
ユニバーシアード聖火ランナーのユニフォームをデザインした黄嘉祥。台北の「北」の字をモチーフに、赤青白のプリントで書の滲みのような効果を出し、若さと活力を表現した。