真実から見える多様性
『檳榔美少女』は期待の新星と称えられたブラジルのサッカー選手ルッシオ‧サントスの物語だ。大切な家族の最期に駆け付けることができなかった彼は悲しみを抱えたまま台湾を訪れ、檳榔売りの少女‧包小葉と出会い、恋に落ちる。
いかにも台湾らしいセリフ、日本漫画のような「顔芸」、そしてパイションの緻密で鮮やかな画風によって描かれた『檳榔美少女』は異文化をミックスしたフュージョン料理のような味わいだ。そして地域と文化の融合によって生まれたこの珍味の主役は、「檳榔西施」だ。
「檳榔西施」とはセクシーな出で立ちで檳榔やたばこを売る若い女性を指す言葉で、2008年の台湾映画『幇幇我愛神(Help Me Eros)』を見たパイションは彼女たちに強い印象を受けた。けれども台湾に来て初めて、独特な姿で檳榔を売るこの職業が台湾社会においていかに「特異な」存在であるかを知った。
友人やマスコミを通じてさらに知識を得たパイションは、その思いをより強め、友人と一緒に近所の檳榔売りのスタンドを訪ね「プロフェッショナルとの対話」を試みたという。
「彼女は激しい態度で私たちを追い出しました」彼は二度とその店に足を踏み入れなかったが、その体験は無駄ではなかった。「彼女の自己防衛的な性格は、後にヒロインのキャラクター設定にインスピレーションを与えてくれました」
短気で好き嫌いがはっきりしているヒロインの包小葉は、実は繊細で心優しい少女で、自立心の強さは一家の経済的支柱として働かざるを得ないがゆえのものだった。『檳榔美少女』の登場人物を見ると、彼の人間観察の細やかさがわかる。あるいはそれは彼が育ったブラジル社会の多様性や、彼が憧れる日本の女性漫画家グループCLAMPの影響かもしれない。
物語の登場人物はそれぞれ立体的なイメージを持ち、たとえ悪役であっても、物語の中で社会のもう一つの声を伝えるという意味を担い、物語に深みを与えている。
さらに彼はブラジルと台湾での生活体験とそこで得た文化的洞察を物語に織り込んでいて、アルツハイマー病患者と介護者、トランスジェンダーの人々、異文化間の対立などの要素を描くことで涙あり笑いありの物語になっている。
「台湾社会はLGBTQ+の人々に対して非常に進歩的な態度をとっていることを知りました」 パイションは、台北芸術大学で学んでいた頃の経験を挙げた。大学には性別適合手術を受けた学生がいたが、彼女に対して差別したり無礼な発言をする者は全くいなかったという。
安全、自由、利便性が、パイションが台湾に住むことを決めた理由だ。彼はまた、台湾の漫画産業の将来性についても同じような気持ちを抱いている。「文化部と市場全体が台湾の漫画産業を促進しようとしていることを知っています。だから僕も安心できるんです」
ルーカス‧パイションは漫画だけでなく、最近では動画配信やストリーミングサービスなどを提供するTaiwan Plusと共同で、台北の「民生社区」を舞台に旧正月をテーマにした台湾らしさ全開の短編アニメを制作している。