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産業イノベーション

台湾漫画の聖地を訪ねる

台湾漫画の聖地を訪ねる

文・曾蘭淑  写真・莊坤儒 翻訳・山口 雪菜

9月 2024

台北:台湾漫画基地、中部:国家漫画博物館、南部:台南浮世図像所

漫画ファンであろうとなかろうと、台湾の北部、中部、南部にそれぞれある台湾漫画基地、国家漫画博物館、台南浮世図像所を訪れれば、より深く台湾を知ることができ、驚かされることだろう。

台北駅の北側、華陰街の交差点にある4階建ての建物が台湾漫画基地である。1階は台湾最大の品揃えを誇る台湾オリジナル漫画本の書店、2~3階は若い漫画家の育成やインキュベーションのための空間、4階は漫画出版や版権交渉をサポートするスペースとなっている。台湾漫画基地はその名の通り、台湾漫画の本拠地なのである。

 台湾漫画基地(台湾コミックベース):台湾漫画の聖地

 台北駅の北側、華陰街の交差点にある4階建ての建物が台湾漫画基地である。1階は台湾最大の品揃えを誇る台湾オリジナル漫画本の書店、2~3階は若い漫画家の育成やインキュベーションのための空間、4階は漫画出版や版権交渉をサポートするスペースとなっている。台湾漫画基地はその名の通り、台湾漫画の本拠地なのである。

台湾最強の三大女幽霊の一人を描く『守娘』は台湾漫画基地でトップの売上を誇る。(©2019 小峱峱/蓋亜文化)

 台湾漫画のショーウィンドー

「1階にある基地書店は、台湾漫画のテーマやジャンルの多様性を示すショーウィンドーのような役割を担っています」と話すのは台湾漫画基地(台湾コミックベース)産業マネージャーの張暁彤だ。台湾漫画基地は台北駅北側の商店街にあり、便利な立地のため、観光客が店内の漫画にひかれて入ってくる。ここは内外の同人誌聖地巡りにおける目的地のひとつでもある。

基地書店の店長・張敏慧によると、日本やアメリカ、フランス、イタリアなどの漫画ファンや作家も宝探しに来て、一度にたくさんの本を買っていくそうだ。予習をして購入リストを作ってきたシンガポール人もいる。「漫画好きにとって、漫画は世界共通の言語なのです」と言う。

張暁彤の話によると、エジプトから漫画編集者が来たこともある。その人は女性をテーマとした漫画に興味を持っており、小峱峱の『守娘』のアラビア語版を出したいと語ったそうだ。「非常に驚きました。その人は台湾の女性の権利や風習などのテーマに興味を持っていたのです」

2階のビデオスペースでは、最近の金漫賞や国際的な賞の受賞者インタビュー映像を放映している。外国からの旅行者のために英語の字幕も加えられた。

台湾は自由とダイバーシティの基地

CCC創作プラットフォームを考案し、現在は文化内容策進院(クリエイティブ・コンテンツ・エージェンシー)で内容策進処の係長を務める温淳雅は、台湾の漫画にはもう一つ重要な意義があると話す。宗教や信仰、BL(ボーイズラブ、男性同性愛)などの題材を自由に扱えることだ。

「ジェンダー意識が台湾ほど高くない国では、これらの厳粛なテーマをこれほど気軽かつ赤裸々に扱うことはできませんから」と温淳雅は言う。台湾の自由と多様性という土壌が、こうした分野を育んでいるのである。

例えば、昨年の「BL商業漫画展」には7000人が来場し、海外の編集者も訪れた。この展覧会で、日本の『BLの教科書』の作者・堀あきこ氏が台湾の漫画家Geneに注目し、文化内容策進会の後押しで現在二人が共同で漫画を連載中だ。またGeneは『BLの教科書』台湾版の表紙も依頼された。

台湾漫画のテーマやジャンルは実に多様である。

 チームを組み、異分野と協力

台湾漫画基地では、漫画家と異分野とのマッチングも行なっている。例えば、聯経出版はプロ野球選手の自伝『証明自己:彭政閔』の漫画化のために台湾漫画基地にマッチングを求めてきた。そこで新人漫画家の楊白と創作班の生徒が作画し、ベテランの漢宝包(蕭乃中)が脚本を担当、尖端出版・元副編集長の咪牙がストーリーボードを指導することとなり、『一百萬次的揮棒』が完成した。2024年3月には漫画プラットフォーム「CCC追漫台」での連載が始まり、好評を博している。

台湾漫画基地3階にある創作空間にはデジタル作画設備やLEDライトボックスなども整っている。

 人材を育成し、競争に挑む

なぜ漫画の生産量を重視するのかと言うと、それは世界との競争のためだ。温淳雅によると、現在『DAY OFF』は9ヶ国に版権を販売し、ライセンス料は100万元を超えている。業績が上がり、勢いにのれば作品は増え、それによって台湾は世界シェアを拡大することができる。

台湾漫画基地3階の創作空間にはデジタル作画設備やLEDライトボックスなどが揃っている。運営マネージャーの王心彤によると、ここでは年間平均40ほどのカリキュラムを開いている。漫画家を目指す人々に、演劇や脚本、ストーリーボードなどの技術的訓練を提供する。また国際コンクールの予定などを告知し、国際交流や出版の機会を増やしている。

一度、台湾漫画基地に足を運び、台湾漫画の素晴らしさに触れてみようではないか。

漫画家の捲猫は台湾漫画基地にある「文昌位」(風水上、学問や創作に最もふさわしいとされる位置)の席で、締め切りのプレッシャーと戦う。

捲猫の作品『捲兎的台湾裸湯:北部篇(台湾はだか湯めぐり 北部篇)』。

ベストセラーのひとつ『採集人的野帳(植物コレクターのノート)』は漫画ファンではない植物の好きな人々が購入していく。