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三軍総病院の洪乙仁・院長(右)は今年4月、国軍医療体系を代表して台湾永続能源研究基金会とサステナビリティ合意書に署名を交わし、傘下の14の医療機関が台湾の持続可能な医療の実現に取り組むこととなった。
2023年の国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、初めて「健康の日(Health Day)」が設けられ、参加した120ヶ国以上の賛同を得て「気候と健康に関する宣言」が発表された。気候変動に関心を注ぐと同時に、それがもたらす健康被害への注意を促す内容だ。
2024年8月、台北で開催された「SDG Asiaサミット」では温室効果ガス排出削減や環境保全、再生エネルギーなどの主要テーマの他、医療部門の技術革新と管理もテーマに加えられた。
サステナビリティに関する大会に医療体系が加わったことは何を意味するのだろう。

医療機関の温室効果ガス排出
天災が頻発する背後には、地球温暖化による気候変動があり、医療体系も日増しに増大するリスクにさらされている。しかし、人命を救う病院も、実は気候変動の原因を生み出している。
台湾永続能源(サステナブルエネルギー)研究基金会の簡又新董事長によると、世界の二酸化炭素排出量のうち、医療システムの排出量は4.4%を占めており、海運の3%や空運の2.5~3%を超えている。世界の温室効果ガス排出量が5番目に多い国に相当する年間排出量である。
台湾では薬品メーカーなどの医療関連企業の排出量が4.6%と高く、工業生産事業以外では大きな部分を占める。国内の医療機関のエネルギー使用量は16%に達し、電力使用量の多い交通事業より3%も多い。簡又新董事長が病院を訪れてこの話をすると、病院側も驚くそうだ。
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頼清徳総統は8月に台中栄民総病院を訪問した。病床のネームプレート電子化の成果を視察し、医療効率の向上に関心を示した。(台中栄民総病院提供)
消費電力削減への取り組み
国内の病院のエネルギー使用の割合を細かく見ると、電力が9割を占めており、その6割が空調設備で、照明とエレベーターがそれぞれ1割を占める。温室効果ガス排出量を削減するためには、これらの省エネが主な目標となる。
病院にとって、省エネと二酸化炭素排出削減は大きな挑戦である。林口長庚記念病院の陳建宗院長は、「病院という事業はコンビニのように24時間体制ですから、運営している限りCO2を排出し続けます」と語る。環境の安全確保と24時間の温度管理は、病院には欠かせない。政府は国民にエアコン設定温度を28℃にするよう呼び掛けているが、これは手術室の器材や手術そのものにも影響をおよぼす。
さまざまな制限がある中、病院としては新たなソリューションを模索している。
まず、多くの病院では太陽光パネルを設置して自家発電を行なっている。また、各種設備を更新することによって省エネ効果も得られる。
患者やその家族、医療スタッフが院内を移動する時に使用するエレベーターは、ドアの開閉や昇降のいずれも二酸化炭素を排出する。人が多くて各階に停まる時はさらにエネルギーを消費する。これを解決するために台中栄民総病院が行なった「スマート省エネ・エレベーター」プロジェクトでは、人の流れをモニタリングするシステムを用いてエネルギー消費量を12.9%削減した。さらにエレベーターの昇降と停止のエネルギーを電力に転換して利用している。
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政府衛生福利部の林静儀・政務次官(右から2人目)はSDG Asia展覧会を訪れ、サステナビリティに向けた台湾の各大規模医療機関の努力の具体的成果を視察した。
リサイクルと循環経済
温室効果ガス排出量の計算には廃棄物処理も含まれる。だが病院で出る医療廃棄物は一般の廃棄物と異なり、感染のリスクをなくすために特別な処理をしなければならない。再利用できるガラスについては、林口長庚病院ではこれまで薬剤のガラス瓶を焼却処理しており、年間平均2万2304キロの二酸化炭素を排出していたが、これを回収、破砕、洗浄を行なうことで、二酸化炭素排出量を52キロまで削減でき、さらに処理費も50万元近く削減できた。
衛生福利部双和病院ではガラスをモザイクタイルにリサイクルするほか、プラスチック類の回収にも力を注いでいる。透析室で使うバッグなどのPVC(ポリ塩化ビニル)は粉砕するとタイヤの原料となり、一ヶ月に5000キロも回収される。薬剤部が使用するHDPE(高密度ポリエチレン)とLDPE(低密度ポリエチレン)は、ゴミ袋やペン、注射器回収箱などに再生できる。双和病院の程毅君院長によると、リサイクルで生産されたビニール袋は3月にすでに環境保護認証を取得し、院内で用いるだけでなく、将来的には対外的にも販売したいと考えている。
こうして温室効果ガス排出削減を進めることは、病院の人手不足の緩和にもつながっている。台中栄民総病院では、病床のネームプレートを電子化したことで、医師や看護師による注意事項や特別なケアなどの重要な情報が迅速に表示されるようになり、医療の質が向上した。また、これによってネームプレートの交換などにかかる工数が一床当たり19分削減でき、台中栄民総病院全体の1600床で計算すると、一日432時間、看護師54人分の工数が削減できたのである。またスマート化された「リアルタイム与薬管理システム」は、手術部門で平均44分、集中治療室では平均80分の薬品搬送時間削減を実現した。
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衛生福利部双和病院の程毅君院長は就任して2年、持続可能な医療を積極的に推進しており、同病院は多数の賞を受賞してきた。(林旻萱撮影)
どこでも排出される二酸化炭素
簡又新董事長によると、病院でのエネルギー使用量削減は、病院管理者が長年直面してきた管理コスト削減という課題を一刀両断に解決することにつながっていると語る。
程毅君院長は双和病院を例に挙げて説明する。同病院は4年をかけて二酸化炭素排出量の20%削減に成功した。エネルギー使用強度(EUI)で見ると、年間平均220前後に抑えられており、台湾の平均値である224に近い。「しかし、この2年はやや停滞しています。ですから早晩、さらに一歩進んだスコープ3に進まなければ、現状は突破できないと思います」と語る。
数々の国際的なルールの中で、ISO 14064-1の2006年版では、温室効果ガス排出量の算定基準を3つのカテゴリー(スコープ1~3)に分けている。スコープ1と2は、企業が直接的、間接的に排出する二酸化炭素の量で、使用する電力、熱エネルギー、医薬品などが含まれる。程毅君院長が語るスコープ3というのは、病院や企業が独自にコントロールしにくい「間接的な排出量」で、サプライチェーンが排出する量を指す。例えば、従業員の通勤や取引先訪問、薬品輸送、それに医薬品の生産が生み出す温室効果ガスなどだ。
そこで、今回の会議では台湾最大の医薬品流通企業である裕利医薬台湾(Zuellig Pharma)と、台湾で現在最大の売上を誇る製薬会社の美時化学製薬(Lotus)を招き、病院側とともに将来的な温室効果ガス削減のソリューションについて意見を交わした。
台湾の病院にとって重要なパートナーである裕利医薬は、医薬品輸送に従来の発泡スチロールではなくeZ Coolerを用いれば、60時間にわたって低温が維持でき、しかも繰り返し使用できるという。またEuro 6の規定に符合した輸送車を導入して二酸化炭素排出量を減らし、さらに電気自動車で医薬品を安全に搬送する方法を見出したいということだった。
裕利医薬台湾の周志鴻総裁は、AIを活用した輸送も検討している。病院側と在庫情報システムを共有し、欠品が生じそうな時は、周辺の病院への配送を統合し、温室効果ガスを最小限に抑え、かつ効率よく輸送したいと考えている。
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双和病院では医療廃棄物を再生利用してゴミ袋を製造している。院内で自給自足するだけでなく、販売することで収入も得られる見込みである。(林旻萱撮影)
持続可能な医療
COP28に「健康の日」が設けられる前から、台湾永続能源研究基金会は台湾で「持続可能な医療」を打ち出してきた。わずか2年のうちに、89の病院が「病院の持続可能な発展合意書」に署名しており、台湾は順調に世界と歩みをともにしている。簡又新董事長は「私たちも、これほど順調に進むと思っていませんでした」と語りつつ、これはまだ始まりに過ぎないという。
ネットゼロの目標を達成することが病院の現在の課題であり、持続可能な医療への長い道のりの第一段階だ。「持続可能な医療」の実現には温室効果ガスを削減すると同時に既存の社会的責任を果たし、良好なガバナンスを実現する必要があり、いずれも欠かすことはできない。
頼清徳総統は、「健康台湾推進委員会」の初の会合において「健康台湾は私たちの目標である」と明確に述べた。平均余命に影響する慢性疾患にも、未知の国際的な感染症や少子高齢化の課題にも「台湾は積極的に立ち向かわなければならない」とした。そのため、がん新薬基金や家庭医療統合計画などの13の重要な行動、そしてこれらに投じられる607億元の予算は、より良い「持続可能な医療」を構築するためなのである。
「これは長い道のりです。2050年にネットゼロを達成した後、さらにはカーボンネガティブ(排出する温室効果ガスより吸収する温室効果ガスが多い状態)を目指さなければなりません」と簡又新氏は言う。人類は今後、さらに困難な課題を克服していかなければならないのだ。
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病院内のフードコートなどが出す二酸化炭素も持続可能な医療において注意しなければならない分野だ。(衛生福利部双和病院提供)
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今回のSDG Asiaフォーラムには、多数の病院と医薬品メーカーや流通企業が参加し、台湾の持続可能な医療の今後の方向について議論した。
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裕利医薬台湾(Zuellig Pharma Taiwan)はすでに14の病院と入荷事前通知システムを構築しており、将来的には医薬品予約作業の効率化を進める考えである。(裕利医薬台湾提供)
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裕利医薬台湾では発泡スチロールの梱包を環境に優しい保温梱包材に変え、将来的には物流ボックスを導入して消耗材の使用を減らしていく計画である。(裕利医薬台湾提供)
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病院では屋上に取り付けられた太陽光パネルで一部自家発電している。(衛生福利部双和病院提供)
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病院の敷地で歩行者と車両の道を分けるコーンは、双和病院の医療廃棄物を原料として再生したものだ。(林旻萱撮影)
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職員にとって安全で快適な環境を整えることも持続可能な医療への中長期計画の重要な一環だ。写真は双和病院が職員の休憩とスポーツのために設けた「幸福空間」とジム。(林旻萱撮影)
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台湾の各病院は、世界と歩みをともにしてネットゼロを目標にサステナビリティの理念を実践している。写真は2023年12月、衛生福利部桃園病院の創立44周年のイベントで、サステナビリティ同意書に署名した時の様子。