一冊の漫画が台湾を世界に見せる
4冊からなる『来自清水的孩子(台湾の少年)』は、かつて白色テロで投獄された蔡焜霖の物語だ。蔡焜霖は出所後に児童向け漫画雑誌「王子」を創刊し、生涯を人権教育に捧げた。
この作品は思いがけず大ヒットし、国内の大賞を受賞しただけでなく、2024年にはフランスの「エミール・ギメ」アジア文学賞にも輝いた。今では英・仏・日・韓・独・伊・亜の7言語に翻訳され、リトアニア版も交渉中だ。
中でも日本語版は文学・哲学書を多く出している岩波書店が発行し、販売開始から4か月で4刷を記録した。
2023年、周見信はフランスで開催されたアングレーム国際漫画祭に参加した際、本を購入した人々にその動機を聞いてみた。
それによると、まず絵が優しい感じがするという声があり、こうした読者は購入を決めるのが速いという。もう一つの答えは「台湾」だった。ウクライナの戦争をきっかけに、ヨーロッパ諸国でも台湾が注目されるようになり、外国の読者から「あなたたちは大丈夫ですか?」と聞かれたり、台湾に行ったことがある、行こうと思っているという声をよく聞いたそうだ。
周見信にとって最も印象深かったのは、レバノンから欧州にビジュアルデザインを学びに来ていた3人の女子学生だ。彼女たちは『台湾の少年』に触発され、難しい国際情勢の中に置かれた自国のためにこのような漫画を描き、世界にレバノンを知ってもらいたいと語ったという。
台南で「南漫漫画祭」
『台湾の少年』は周見信のデビュー作だ。「一冊の漫画の影響力と拡散力は私の想像を超えていました」と、それまで版画やアクリルアート、絵本創作に取り組んできた周見信は言う。
2013年に絵本『尋猫啓事』を出して以来、彼は文化部の招きを受け、浮世図像所の郭乃文とともにマレーシアやメキシコ、フランス、日本、スイスの漫画祭や座談会に参加した。「どこへ行っても皆が台湾に関心を持っていて、私は名刺を出しながら『台湾へ、そして浮世図像所に遊びに来てください』と言いました」と郭乃文は話す。
郭乃文と周見信は、美術教育に従事していたことから25年にわたる親交がある。少しでも多くの時間を創作のために使いたいと、10年前に郭乃文は「版條線,花園」というスタジオとギャラリーの開設を提案して台南市321巷のアートビレッジへ入居することが決まり、二人は台北から台南へ引っ越すことになった。2019年には成功大学付近の西竹囲之丘文化クリエイティブパークに移転し、絵本や油絵、漫画の展覧会や講座、演劇上演などを行なっている。
郭乃文は2023年に第1回「南漫漫画祭」を開催し、好評を博した。今年12月にはテーマを限らずに第2回を開催する予定だ。周見信が『台湾の少年』を描いた時の初心――「台湾への贈り物」と同じ思いからである。