少数派を多数派に
いろいろ話を聞いているうちに、深緑色のオーバーオールに長靴姿の陳生慶と陳致甫はともに、農家出身でも南投出身でもないとわかり、この「イケてる」2人がなぜ油茶栽培と生産に取り組んでいるのか不思議に思った。
実は陳致甫の父親である陳文雄は8年前、食品安全問題が騒がれた頃、4.8ヘクタールほどのビンロウ園をやめて、1万粒の油茶の種子を植えたのだそうだ。けれども5年後ついに収穫期を迎えた時、作業ができる人はもういなかった。当時、人本教育基金会と台湾動物社会研究会にそれぞれ勤務していた2人は、2021年のコロナ禍、リモートワークに切り替わったため南投に戻り、それを機に仕事を辞して農業を始めた。最も重要なのは彼らがビンロウ園を油茶の果樹園に変える活動を一種の社会運動だと捉えていたことだ。
かつて人本教育基金会で子どもへの体罰禁止を、台湾動物社会研究会で経済動物の福祉を提唱し、今では台湾産が10%を切った油茶種子の栽培に取り組む自分たちについて、陳生慶はこう分析する。「僕たちはいつも少数派でした。けれども社会の進歩は少数派の努力によるものなんですよ」そして、少数派を多数派にするのだ。
「僕たちはみなさんの認識を変えたいと思っています。フレッシュな種子を搾った苦茶油は苦くないし、油臭さもありません。栄養価や使いやすさの点でもオリーブ油に勝っているんですよ」オリーブオイルソムリエの資格を持つ陳生慶にとって、地元の油は地元の食材に合わせるのが一番で、苦茶油は台湾の食文化を代表する油なのだ。
小島大果は現在、花蓮の農家と協力して花蓮産苦茶油を生産している。人気のため品薄状態となった過去2年に鑑み、小島大果は今後もビンロウ園からの転作のモデルとなって油茶の栽培を進め、将来的には、南投市国姓郷に生産販売班を立ち上げ、ビンロウ栽培の中心地だった南投を変身させようと考えている。「農業を始めてから、台湾には本当にたくさんの素晴らしい農産物があることに気づきました。足りないのは土地への信頼と自分自身を見つめる目です」台湾の宝である苦茶油を通じて、この土地の価値に気づき、台湾の農作物に誇りに思ってほしいと2人は語った。
赤柯山油茶工房は依頼者のニーズに合わせて、搾油のカスタマイズに応じている。
「大果油茶」(左)と「小果油茶」(右)の種。「小果油茶」は暑さに弱いので、主に台湾北部で栽培されており、「大果油茶」は南部の気候に適している。
小島大果の陳生慶(左)と陳致甫(右)は、高品質の苦茶油を作ることで、人々に台湾という土地の価値に気づいてもらいたいと思っている。
シシリア料理にインスパイアされたタンカンの苦茶油マリネ。最後にナッツを添える。
小島大果の苦茶油の瓶は綿麻の袋に包まれ、ビンロウの葉が飾られている。ビンロウ園からの転作をイメージしたパッケージだ。
簡単に作れる「麺線」(素麺のような極細麺)の苦茶油和え。ヘルシーで美味しく、軽いけれど満足できる一品だ。