台湾が東南アジアの風景に
暨南国際大学東南アジア学科の林開忠准教授は次のように語っている。いわゆる「東南アジア」というのは、最初は戦略的な必要性から生み出された概念であり、地域研究において多くの限界がある。だが、実際の人の活動は、こうした境界の制限を受けるものではない、と。
現在、ASEAN10ヶ国から台湾まで、人の移動や文化の衝突と融合、さらには出版産業の合作と相互支援まで、国や民族、言語による境界を乗り越え、より大きな包容力をもって交流することが、人々のコンセンサスとなっている。中でも台湾には、非常に恵まれた出版環境があり、また先人が残してきた豊富な文化遺産があるのだから、島国の民として、より広い心でこうした優位性を活かしていかなければならない。
文学の面で、張錦忠はこう語る。「風土は人に大きな影響を与えます。台湾に最も近いのは実際には東南アジアなのですから、台湾文学をそうした水平線で見るべきではないでしょうか」と。さまざまな出版事業に出資している林韋地は、香港、台湾、シンガポール、マレーシアは、いずれも単独では市場が小さすぎ、出版市場が縮小しているのは台湾だけではない。「しかし、香港、台湾、シンガポール、マレーシアの華文地域を合わせ、相互支援できるマーケットを構築すれば、人口5000万人の自由華文市場が生まれます。これは欧州の大国の人口に匹敵し、単独で戦うより圧力も小さくなります」
林韋地と黄珮珊は、期せずして同じようにアジア特有の気象現象を出版物のタイトルにした。これは二人の視点が新たな高みに達していることを意味する。林韋地によると、『季風帯』を創刊した趣旨は、異なる場にいる人々のジャンルを越えた対話を促したいというものだ。マレーシア華人文学に関する評論だけでなく、そこからさらに、シンガポール、フィリピン、インドネシア、タイなどの華人文学へと広げたいと考えている。
台湾は出版産業が盛んで文壇の制度も整っており、多くのマレーシアの華人作家がここで受賞し、本を出すことで華文文学の一角を占めるに至っている。世界の華語圏において台湾の出版産業が影響力を持つからこそ、林韋地と頼凱俐は共同で台湾に季風帯文化社を設立し、代理店としてマレーシアやシンガポールの華文作品を輸入し、国境を越えた交流を促進している。
慢工文化は台湾の優位性を活かし、台湾を出版とマーケティングの基地としているが、黄珮珊は時間をかけて制作した作品を台湾だけでなく、いつかは東南アジアにも売りたいと考えている。「東南アジアは非常におもしろく、マーケットも巨大です。地理的、気候的、文化的にも私たちと共通点がたくさんあります。ただ、まずこちらが扉を開いて相手を受け入れてこそ、向こうも私たちを受け入れてくれるでしょう」と語る。私たちから入っていけば、そこには無限に広がる豊かな景色が広がっていることだろう。
慢工出版の作品は、台湾の読者に親しみのある日本の一般の漫画とは異なり、自由なテーマの実験的な作品で耳目を一新する。(慢工文化提供)
慢工出版の作品は、台湾の読者に親しみのある日本の一般の漫画とは異なり、自由なテーマの実験的な作品で耳目を一新する。(慢工文化提供)
シルクスクリーンで少量印刷する黄珮珊。そのインクの厚みは作品の内容と呼応する。(慢工文化提供)
現在の出版市場では台湾だけを見ることはできず、海外との版権取引の重要性が増している。写真は光磊国際版権公司。