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スタートアップが移住労働者をサポート

スタートアップが移住労働者をサポート

東聯互動の送金サービス

文・曾蘭淑  写真・林旻萱 翻訳・松本 幸子

10月 2024

東聯互動はインドネシア独立記念日に合わせてキャンペーンを行なった。(EUI IndoMoney提供)

政府の推進する「金融包摂」(誰もが金融サービスを利用できるようにする取り組み)を受け、フィンテック企業「東聯互動(EUI)」がデジタルスマートプラットフォームを開発した。このアプリをダウンロードすれば、台湾にいる移住労働者が銀行よりも安い手数料と有利な為替レートで母国に送金できるというもので、彼らにとってより安心できるサービスだ。

パンデミックが収まるにつれて渡航制限も緩和され、台湾在住の移住労働者数は2024年、過去最高の77万人に達している。

現在22万3000人の会員を有する東聯互動公司は、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイをカバーするサービスを提供し、2023年には営業収益3億3800万元に達した。移住労働者が利用する同社の海外送金アプリは、2023年に取引件数300万件以上、総額300億元近くを送金しており、その人気が窺える。

東聯互動の創設者・呉侑勲は「金融包摂」がビジネスや人材の往来を促進すると考える。

イノベーションと法令遵守

「うちの顧客はすべて東南アジアからの移住労働者です」と東聯互動の創設者であり総経理の呉侑勲は言う。「台湾に来て言語や文化の壁にぶつかるのですから、せめて移住労働者の利用する送金などの金融サービスは改善されるべきです」と言う彼の言葉が意味するのは「金融包摂」にほかならない。つまり信頼できる金融サービスに誰もが平等にアクセスできるようにすることだ。

通信キャリア「遠伝電信」で11年間働いていた呉侑勲は、東南アジアからの移住労働者が祖国へ送金する際には闇で送金を行なう雑貨店などを利用しており、マネーロンダリングや為替レートによるリスクにさらされていることを知った。そこで36歳で起業した彼は「彼らが安全、迅速、便利に、かつ低コストで送金できるプラットフォームがあれば」と考えた。

「ただ創業時はこんなに大変だとは思ってもみませんでした」と呉侑勲は当時の苦労を語る。銀行の口座開設に慣れていない労働者が多く、銀行の営業時間も限られているため、24時間アクセス可能で簡単に送金できるようなシステムを作ろうと考えたが、同時に、マネーロンダリング防止や本人確認手続きなどに関する金融当局の法規を守る必要があったのだ。

東南アジアからの留学生も卒業後、東聯互動に就職して母語によるサービスを提供している。

法令遵守とスマート化

「スタートアップは法令を守るシステムを作る必要があり、そのためにはテクノロジーが必要です」と呉侑勲は言う。そして法令順守のためのテクノロジーは第一歩で、その次に必要なのはシステムのスマート化だ。

銀行口座開設は、書類や写真の審査、システムへのログイン、手作業による確認などで時間がかかる。東聯互動はこうした流れをすべてスマート化したプラットフォームを創り上げた。確認や審査をAIによって簡略化し、手作業にかかるコストを60~70%削減するものだ。

2017~2019年、東聯互動は台湾と東南アジアの銀行の情報システムをつないだ。しかもインドネシアのバンク・ラヤット、フィリピンのメトロポリタン銀行、ベトナムのサイゴン商業銀行といった東南アジア五大銀行との提携だった。

東聯互動のベトナム語版アプリの画面。

金融包摂の理想

呉侑勲は「テクノロジーを活用した金融は、高い効率と低コストを実現しなければなりません」と言う。移住労働者が祖国に送金する場合、銀行なら手数料は1件500~600元(約15米ドル)だが、東聯の場合は150元(5米ドル)ですみ、より良いレートも提供する。取引も迅速で、24時間以内に受取人に届く。

だが想定外だったのはデジタルや情報の格差だ。例えば、2019年にインドネシアの小さな島から来た人は台湾に来るまでスマホを使ったことがなかったので、サービス担当者はアプリのダウンロード方法を教える前に、まずスマホの使い方を教えなければならなかった。

東聯互動のサービス担当者はすべて、結婚や留学で台湾にやって来た東南アジア出身者だ。「うちが台湾の会社だとわざわざ言わなかったら、インドネシアの会社だと思われるかもしれません」と呉侑勲は言う。

現在、台湾の移住労働者のうち最も多いのがインドネシア人とベトナム人で、東聯互動の顧客の65%を占める。フィリピン人は3番目で、タイ人が最も少ない。台湾は将来、インドからの労働者も受け入れる予定なので、東聯互動でもインドへのサービス展開を計画中だ。

東聯互動は2022年に金融監督管理委員会(金融庁に相当)によって国際送金取扱いの認可を受けた2番目の企業(非銀行系)となった。2023年には業績も飛躍的に成長し始め、連結営業収益は前年比108%増の3億4100万元となり、2024年1~4月の自己決算による収益は累計1億3900万元で、前年の同時期に比べて47.29%増加。1株当たり利益は3.02元で、すでに前年度の3.01元を上回り、継続的な成長が見込まれている。

呉侑勲は、スタートアップ、そしてフィンテック企業としてさらなる前進を続ける覚悟だ。「政府、移住労働者、スタートアップの三者がいずれも恩恵を受ける、こんなビジネスモデルはめったにありません」と笑顔で語った。

台湾在住の外国人配偶者が母国語を使って移住労働者にサービスを提供している。

東聯互動は顧客との交流を深めるために抽選でプレゼントが当たるイベントを行なった。(EUI IndoMoney提供)