「相互理解」で偏見をなくす
現在でも外国人労働者を蔑視する風潮がある。李美賢は、世界中の移住者はしばしば主流社会から排斥されており、これは台湾だけの現象ではないという。その背景にあるのは、物質文明がもたらした文化の格付けである。理解しようとせずに特定のエスニックにステレオタイプのレッテルを貼り、それが民族間の対立を生み、悪循環をもたらしている。
「偏見を払拭する第一歩は互いを知ることです。文化は対等というのも重要な概念です。ただこれは容易なことではなく、教育に長い時間をかけることが必要です」と李美賢は言う。
教育の第一線にいる彼らに嘆いている時間はない。暨南国際大学東南アジア学科は、台湾で初めて設立された東南アジアを専門とする学科である。学科設立以来すでにタイやベトナム、カンボジア、ミャンマーなどから来た東南アジアの学生が50人ほど卒業していることからもわかる通り、知識を教えるだけでなく、実際の交流の機会も提供している。「この学科では、台湾人学生は強い立場にはなく、皆が平等で、互いに学習しています」と李美賢は言う。
それだけではない。東南アジア学科を中心とした暨南大学の教員が、台中市と教育部から助成金を得て、台中駅付近のASEAN広場内に「SEAT|南方時験室」を設けた。以前は廃棄されたままだった空間に今では東南アジアの商店が並び、休日には大勢の移住労働者が集まって買い物を楽しんでいる。まるでリトル東南アジアといった様相である。この場所を選び、東南アジアからの移住者グループと台湾社会のつながりを目的としたことには大きな意義がある。
南方時験室では数々のイベントを催している。休日のガイド活動には多くの人が参加し、台湾人と東南アジアの各エスニックとの交流の機会を提供している。
また暨南国際大学では台北にも東南アジア学科の修士コースと社会人コースを設けており、東南アジアに関わる仕事をしている公務員や小中学校の教員などが通っている。学生の多くが教育の第一線に立つ教員であるため、授業では対話を通して考え方も変えていく。すぐに観念を変えるのは容易ではないが、少しずつ成果が上がっている。
自らもマレーシア華僑の林開忠は、マレーシアの民族や教育への疑問から東南アジア研究の道に進んだ。