公共テレビのインキュベーションプランは、ドラマ制作の企画開発の段階をサポートしている。第1回の作品『火神的眼涙(火神の涙)』は消防士ドラマとして高く評価された。(公共テレビ提供)
HBOアジアは台湾ドラマ『通霊少女』を中国語圏向けの最初の作品に採用し、『我們與惡的距離(悪との距離)』も内外で高い視聴率をあげた。最近は『她和她的她(ふたりの私)』も好評を博し、台湾ドラマが世界で評価されている。
各界の努力により、台湾ドラマのエコシステムも成長してきた。例えば、政府の文化内容策進会はタイムリーに政策を打ち出し、公共テレビは同業者とともに脚本家を育成し、常に新しいジャンルを試みている。台湾のプラットフォームも海外へ優れた作品を紹介している。また、国際的な共同出資や共同制作なども行なわれ、台湾ドラマの知名度が高まっている。台湾の映像作品への出資が積極的に行なわれ、作品がストリーミングで配信されれば、世界中の人が見ることとなる。
2022年10月、Netflixが世界に向けて配信した『她和她的她(ふたりの私)』は、セクハラ問題を扱ったサスペンスドラマだ。題材から表現手法、役者の演技まで、すばらしい出来栄えだった。配信開始から2週間を待たずに台湾と香港のNetflixランキングの1位となり、ネット上にはこのドラマに関するニューススや投稿が1万件を超えた。だが、台湾ドラマがこのように大ヒットしたのは初めてのことではないし、決して偶然のものでもない。制作チームの努力のほかに、背後にはどのような力があるのだろう。
従来、公的部門が映像産業を推進する際、多くの場合は助成金を出していた。毎年作品を公募し、外部の専門家を招いて審査し、助成対象を選んでいたのである。文化内容策進会副院長の盧俊偉は、こうした方式では外側からサポートすることしかできず、産業を真にレベルアップさせるのは難しいと語る。助成金は制作コストを下げるためのものだが、一方、投資なら制作からマーケティング、財務まで全体の計画を考えさせて産業を進歩させ、さらには異業種との協力や共同出資などのマッチングも可能となり、産業エコシステムを拡大することができる。そこで政府は行政法人文化内容策進会を設立し、文化コンテンツ事業が長年助成金に頼っていた現状を打破し、市場の健全化を図ることにした。
文化内容策進会は国家発展基金の関連規定の改正を推し進めた。プロジェクト投資を可能にし、投資条件を緩和することで、国家発展基金は産業の需要に近いものとなった。
文化内容策進会の協力備忘録(MOU)制度も、その一例である。海外との共同制作や国外のプラットフォームでの配信などの経験がある制作チームは、MOUの締結を申請でき、文化内容策進会のパートナーとなる。
現在、文化内容策進会は120余りのMOUパートナーを持つ。大慕影芸、瀚草影視、Netflix、客家テレビ、韓国CJ ENM、韓国の釜山国際映画祭見本市(ACFM)、香港のViuTVなどで、産業の川上から川下までを網羅している。
『斯卡羅SEQALU:Formosa 1867』は政府の前瞻プランの支援を受け、公共テレビが資金を募って制作された。19世紀中ごろの台湾で、さまざまなエスニックが出会う物語だ。(公共テレビ提供)
台湾ドラマの想像を広げる
長年にわたって台湾ドラマを育成してきた公共テレビは、多様なジャンルの作品を打ち出し、視聴者の想像を広げてきた。ここ数年はドラマ制作費も引き上げてきた。2019年からはドラマ・インキュベーション計画を開始し、産業に不足しているリソースを補いたいと考えている。
ドラマ・インキュベーション計画では、脚本家やプロデューサーに一年分以上の生活費を提供し、チームが十分にフィールドワークを行なって充実した脚本を書けるようにしている。そして脚本のインキュベーションが終わったら、公共テレビの制作サポートが得られる可能性もあり、脚本からドラマを制作する時間を短縮する。
2022年の金鐘賞で人気番組賞に輝いた『火神的眼涙(火神の涙)』は第1回インキュベーションプランの対象となった作品だ。同作品のディレクターを務めた蔡銀娟は、公共テレビのインキュベーションプランがなければ、この脚本は実現しなかっただろうと語っている。これほどのスケールの作品は業界では拒絶されるからだ。
公共テレビ編成部マネージャーの於蓓華は、制作チームには予算規模の違う作品にチャレンジする機会が必要で、そうしないと台湾ドラマの想像とスケールは広がらないと考える。公共テレビはすべての予算を支援することはできないが、商業資金のマッチングには協力できる。『火神的眼涙』は1話あたり800万の予算を得て、火災現場や爆発などのシーンを撮影することができた。さらに脚本チームは一年をかけて消防隊とともに過ごしながらフィールドワークを行なった。ドラマの中で、消防隊員が家族との暮らしを犠牲にしながら勤務する姿、市民からの無理難題などが描かれるが、これらは制作チームが消防隊員とともに過ごす中で実際に目にした物語であり、だからこそリアルに表現できたのである。
台湾ドラマを世界に打ち出していくために、文化内容策進会はTCCFクリエイティブコンテンツ大会を開き、海外の投資家を招いて国内の映像産業とのマッチングを進めた。(文化内容策進会)
『イカゲーム』の啓示
国際的なストリーミングプラットフォームが台湾にも根を下ろし、ここ数年、公共テレビも政府の政策の支持を得てドラマ制作のスケールを拡大してきた。こうして『我們與惡的距離(悪との距離)』や『斯卡羅SEQALU:Formosa 1867』『茶金 ゴールドリーフ』など多くの優れたドラマを打ち出してきた。現在もさまざまなジャンルのドラマが進行中で、制作者は経験を積んでいる。
海外のストリーミングプラットフォームは買取り方式で独占的に配信権を得ることが多い。これによって製作会社は比較的高い報酬が得られるが、国内のテレビやプラットフォームで放送できず、ローカルのルートが限られてしまう。これが常態化すると、良い作品はすべて海外のプラットフォームに独占されてしまうという不安もある。CATCHPLAYの楊麗貞CEOは、将来的に台湾ドラマの存廃は海外のプラットフォームの手に握られてしまう可能性があり、産業の長期的な発展のためには良いことばかりではないと語る。
彼女は、最近注目された韓国ドラマ『イカゲーム』を例に挙げる。この作品は世界的に大きな話題となり、Netflixに一億米ドル以上の利益をもたらしたと見られる。しかし、その経済効果は韓国のドラマ市場にもたらされることはなかった。自身も映像関係の仕事をする楊麗貞は、この問題の深刻さを感じている。何か変えなければ、台湾ドラマは将来的に発言権を掌握できなくなる可能性があるからだ。
CATCHPLAY傘下の「影響原創」が制作したドラマ『おんなの幸せマニュアル 俗女養成記』は国際プラットフォームから配信のオファーを受けたが、買取り条件が台湾の他のプラットフォームには不利なものだった。影響原創シニアディレクターの陳劭怡は、しばらく悩んだ末、CATCHPLAYと中華テレビなど台湾のプラットフォームとテレビで放送することに決めた。「優れたコンテンツを通して、台湾のプラットフォームも継続的に成長できればと思います」と語る。「映像産業も他の産業と同じで、研究開発や製造の能力から、配信ルートまですべてを掌握する必要があり、そうしてこそ健全な産業になります」と楊麗貞は説明する。
台湾ドラマの制作規格が高まり、制作者は多様なジャンルにチャレンジして台湾ドラマのイメージを広げている。(公共テレビ提供)
世界へ羽ばたく台湾ドラマ
以前は映画の代理や配給、投資を行なっていたCHATCHPLAYは動画配信サービスの発展を見て取り、2016年にデジタルストリーミングCATCHPLAY+を打ち出した。台湾市場だけでは限界があるため、楊麗貞は海外に目を向け、インドネシアやシンガポールの通信会社と提携し、ストリーミングサービスを提供、台湾のOTTプラットフォームとしては初めてインドネシアに進出した。
2019年、楊麗貞は『我們與惡的距離』は海外の人も共感できる作品だと感じ、配信権の獲得に乗り出した。自社のCATCHPLAY+での配信のほかにHBOとも協力してこのドラマを世界へ打ち出し、ローカルのプラットフォームも台湾ドラマに機会を提供できることを証明した。
CATCHPLAYは台湾ドラマの発展を後押しするため、文化内容策進会とともに影響原創を設立し海外市場の開発経験を制作側にも導入し、前段階の企画開発から後段階の配信まで海外の資金を引き入れたいと考える。例えば、今年金鐘賞でミニシリーズ賞を受賞した『良辰吉時』は、シンガポールのMediacorpと提携して制作された。「これらの作品に台湾で市場を見出すだけでなく、海外とのアライアンスを通して、遠い地域へも届けたいと考えたのです」と陳劭怡は言う。
文化内容策進会の盧俊偉副院長は、映像作品をひとつの製品ととらえている。開発から製作、マーケティングまで、すべてにおいて市場を考慮してこそ、世界へ出ていくことができる。
進む国際共同制作
台湾の作品をどのように世界に打ち出していくかは、台湾の映像産業が常に考えている課題である。文化内容策進会はTCCF創意コンテンツ大会を開催し、台湾でポテンシャルのある知的財産と企画を集め、海外からバイヤーも招き、台湾の業界と国際市場のマッチングを進めた。
一方、瀚草文創は日本の社会形態と台湾のそれが似ていることに目をつけ、日本市場に進出したいと考えている。そこで日本の小説『模倣犯』のドラマ化の権利を買い、日本人が親しんでいる小説を台湾ドラマにしてNetflixで独占配信することとなった。
CATCHPLAYはインドネシアとシンガポールで長年協力してきた経験から、ドラマ制作での連携も緊密になってきた。例えば、CATCHPLAYが最初に製作したスリラードラマ集『悪霊旅店(Losmen Melati)』は、インドネシアのInfinite Studiosとシンガポールの情報通信メディア開発庁(IMDA)との三者が共同製作したもので、現在すでにポストプロダクションの段階に入っている。もう一つ、インドネシアとの共同製作作品『Lesley in Taipei:Grass Jelly Bubble Tea』は、両国が協力して脚本を書いた。インドネシア華僑の女性インフルエンサーが夢を追いに台北に来るという物語で、二つの土地の観点で物語が豊かなものとなり、東南アジアに台湾ブームが巻き起こることが期待される。
台湾ドラマが次々と世界を広げていく中、作品や人材、投資環境など、すべてが成長し、世界へ羽ばたくことが期待される。
公共テレビ編成部の於蓓華マネージャーは、台湾ドラマは制作の訓練を重ねることで国際市場に出ていく実力をつける必要があると考える。
CATCHPLAYの楊麗貞CEO(左)と影響原創の陳劭怡ディレクター。二人は国際市場における企画開発の経験を台湾に導入し、台湾ドラマに海外との共同製作や共同出資の機会をもたらしたいと考えている。
『おんなの幸せマニュアル2俗女養成記』。主人公・陳嘉玲の物語は多くの人の記憶を呼び覚まし、共感させる。台湾のプラットフォームとテレビで放送され、高い視聴率をあげた。(CATCHPLAY提供)
2022年に金鐘賞ミニシリーズ賞を受賞した『良辰吉時』はCATHCPLAYとシンガポールのMediacorpが共同製作した作品だ。(CATHCPLAY提供)
CATCHPLAYオリジナルのスリラー集『悪霊旅店(Losmen Melati)』は、インドネシアのInfinite Studiosとシンガポールの情報通信メディア開発庁(IMDA)との三者が共同製作したもので、公開が期待される。(CATCHPLAY提供)
『你的孩子不是你的孩子(子供はあなたの所有物じゃない)』は教育というテーマをSFタッチで描き、予告編から大きな話題となった。写真は、母親がリモコンを使って、息子に自分が思う成功への道を歩ませようとするところ。