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取材の日、私たちは台北市瑞安街にあるSELF OASISという店で会うことにした。
このバーは徐嘉凱の事業の一つで、現在彼は3つの会社と2軒のバーを経営している。
だがこれは野心のためではなく、ファンとの約束で映画のセットを残すためだ。
バーに一歩踏み入ると、隅にS字型のアート作品が見えるが、これも『聖人大盗』に幾度も登場する重要な道具である。
彼が経営するもう一軒のSELF Barは、壁一面が見たことのあるボトル棚になっているが、これも映画の中で尹子翔(曹晏豪)と徐菁(頼雅妍)が向き合うシーンに何度も出てくる。
徐嘉凱は一本の映画のための会社を作る気はなく、すべての作品や会社、店舗は、より大きな青写真を組み立てるものである。
従来の産業モデルでは、映画の制作が終了すれば会社も解散となり、せいぜい版権ビジネスを残すだけだった。「『海角七号 君想う、国境の南』がヒットした時、映画のセットをそのまま保存して音楽祭の舞台にすることができたはずです」と徐嘉凱は例を挙げる。「産業の方向性や戦略と、観客との関係を考えれば、多くの物事は持続していけるのです」と言う。
確かに、これは決して新しい考え方ではなく、ディズニーもユニバーサルも同じことをしている。まずオリジナリティのある映像作品を打ち出し、それを衣食住や教育・娯楽、それに五感の体験空間やキャラクターグッズへと発展させれば、それらすべての相互作用で金の流れが生まれる。さらに不動産や店舗への投資を行なえば、産業エコシステムが生まれる。ただ、台湾では今まで誰もやらなかっただけだ。
資金力のある大企業ではないため、一度にすべてを整えることはできないが、ネットや仮想通貨を活用すれば未来への扉が開かれる。
ブロックチェーンを通して資金を集めるのは決して複雑なことではない。「簡単に言えば『私は皆さんと一緒に市場価値1億米ドルの没入型エンターテインメントエコシステムを創ります』という契約書を書いてチェーンにアップすればいいのです」と徐嘉凱は言う。
彼の会社が発行している仮想通貨SELFは、こうしたファンディングを通して同じ理想を抱く人々に買われている。徐嘉凱には、先の契約内容を履行する責任があり、一歩ずつ産業を作り上げていく。そして興行、セット、版権などの売上で将来的に市場価値1億米ドルのビジネスエコシステムを作り上げていく。
これら全てがつながっており、徐嘉凱は源流の映画のコンテンツを制作進度に従って一つずつ掘り下げて拡大していくことを考えている。『聖人大盗』は三部作の第一作であり、単独で完結しているし、続く作品とも呼応する。各地に分散する映画のセットはビジネス用途に転換でき、映画を観た人はそこで消費できる。
すでに多くの人から「夢が大きすぎ、難しすぎる」と忠告されており、彼自身プレッシャーを感じているが、引き下がるつもりはない。
「正しいこと、できることならやるべきです。でなければ、何のために生きているのでしょう」「人はいつか必ず死ぬのですから、死ぬのを待つのと、懸命に生きるのと、どちらがいいでしょうか」と、彼は力を込めて問い返す。
まさに『聖人大盗』の中で引用される言葉と同じように、最初の一歩を踏み出すのは難しいが、決して後へ引くことはない。
それはヴォルテールの言葉だ。——「人は行動するために生まれてくる。それは炎が上へ向かい、石が海に落ちるのと同じで、行動しなければ存在しないのと同じである」
未来の世界では現実と仮想現実が逆転すると考える徐嘉凱は、その考えを映画の中でも貫く。
ベテラン俳優の曾志偉(右)は徐嘉凱の志を認め、自ら出演するだけでなく、資金を出すとともにプロデューサーも買って出た。
着実に夢を実現させてきた徐嘉凱は三つの会社を率いている。そのメンバーは同世代で、若者の野心を感じさせる。(林旻萱撮影)
バーSELF OASISに入ると、「S」字型の大型オブジェが目に入る。これは映画『聖人大盗(The Last Thieves)』に幾度も登場する重要な道具である。
徐嘉凱は没入型エンターテインメントを作り上げ、ビジネスモデルによって台湾の映画産業を変えたいと語る。
かつての映画のセットが今ではSELF Bar(私室)という店になっている。