茶山ある所には霞がかかり、荘厳たる山の雰囲気が漂う。そこで育まれた茶葉の一枚一枚には、尽きせぬ魅力がある。
1枚の茶葉に揉み込まれる台湾の風土。ひと口啜れば、匠が集う製茶工場が織りなす味わいが広がる。
台湾烏龍茶は、150年前から海外へ輸出されており、その独特な味わいが「台湾茶」の名を轟かせた。いま台湾茶は一級品となり、特色ある茶畑が育まれ、海外からの観光客にとって必須のお土産となった。
台湾国産のお茶を買うなら、原産地証明マークやトレーサビリティコードを参考にして、産地を判別すると良いだろう。さらに、台湾・農業委員会の茶葉改良場(TRES)では、土壌の養分を利用した「多重元素分析テスト」を研究・開発しており、「どこで栽培されたか」を知ることができる。これで、台湾独特の味わいを守っているのだ。
標高2000mの梨山では、晴れた空に突然霧が立ち込め、霧雨が降り始めたかと思えば、5分後には太陽が顔を覗かせたりする。梨山の茶畑の天気は頻繁に変わるのだ。そんな梨山で栽培される青心烏龍茶の葉は厚みがあり、上品な香りとまろやかですっきりした味わいが特徴だ。100年の歴史をもつ華剛茶業(HGT)・五代目の杜蒼林さんは、梨山で高山烏龍茶と梨山紅茶を栽培しており、2018年から3年連続で、フランスのAVPA主催の国際コンテストにて金賞を受賞している。
張芸綺さん・立欣さん姉弟は、標高約1400mの苗栗県泰安郷の高山にて青心烏龍を栽培している。張姉弟は、無農薬栽培と優れた製茶技術で、2019年開催の同国際コンテストの烏龍茶部門にて金賞を受賞した。高山紅茶も、紅茶部門にて金賞という輝かしい成績を残した。
今年(2023年)から、農糧署が国産茶のトレーサビリティの義務付けを推進しており、産地に「台湾」が含まれる場合、トレーサビリティコードを貼付する必要がある。スマホで読み取れば、販売者の情報がわかる。
台湾茶の歴史
台湾茶業の歴史は17世紀のオランダ統治時代に遡り、この頃に茶の木が入植・栽培された記録が残っている。1869年、イギリス人のジョン・ドッド(John Dodd)と台北大稻埕の豪商の李春生が、台湾烏龍茶を「Formosa Oolong Tea」と名付けてアメリカのニューヨークへ輸出すると、その独特な風味で国際的地位を確立した。日本統治時代になると、茶葉は最も多く輸出される品目となった。
1980年代に貿易が盛んになると、一部の台湾企業は茶の木、製茶技術、人材を低コストの国へ移してお茶を製造するようになり、台湾国産茶の市場も、国内市場へと転換した。とはいえ、農業委員会・農糧署の作物生産組・副組長である蘇登照さんは「各地方の環境と気候条件に合わせて、国内での栽培と製茶技術を改良し続けたことで、多様で特色ある風味のお茶が開発されました」と話した。
農業委員会・TRESの副場長である邱垂豊さんは、次のように語った。「茶の木は暖かく湿った環境を好み、酸性の土壌を必要とします。台湾では、多くが丘陵地や山腹、高山帯で栽培されており、標高は10mから2,650mまでと様々です。標高が高くなるほど気温は低くなり、茶葉に含まれるカテキン量を減らすことができます。これで苦味や渋みを抑えながらも香りは豊かになり、より飲みやすくいお茶に仕上がります。また、栽培地ごとにも異なる魅力があります」
台湾大学・農業化学学科の許正一教授によると、台湾最古の土壌は林口台地にあり、約80万年前に形成されたという。土壌内の鉄・アルミニウムが、高温多雨の状況下で酸化することで赤土になるが、このような酸性の土は茶の木の栽培に最適である。これがまさに、台湾茶を世界に推し広める理由の一つだ。
TRESの副場長・邱垂豊さんは、台湾の茶畑は平地から高山にかけて分布しており、その異なる気候や環境が、多様で独特なお茶を生み出すと語った。
台湾国産茶に磨きをかける
茶葉は、茶の木の芽や若葉を原料とし、製茶工程を経てそれぞれの風味に仕上がる。したがって、茶の木の品種や土壌、気候、製茶方法がお茶の風味に大きく影響する。
邱垂豊さんは台湾茶について詳しく説明した。発酵させない碧螺春緑茶のほか、発酵度の低い順に文山包種茶、高山烏龍茶、凍頂烏龍茶、鉄観音茶、東方美人茶、紅烏龍茶、そして完全に発酵させた紅茶の8種類に分類されるという。
「お茶の生産国トップ10では、インドやスリランカ産の紅茶、日本産の緑茶など、ほとんど単一の茶種に偏っています。台湾のように小さな島で緑茶、高山茶、烏龍茶、紅茶を生産している国は他にありません。異なる気候や環境が、栽培地の多様性や独特の魅力をもたらしたのです」と邱垂豊さんは語った。
茶葉の一枚一枚に茶山の濃緑や山の偉大さを揉み込み、茶師の技術を注入することで、優雅な香りと繊細でほのかに甘い余韻が生まれる。まさに土地と人が織りなす逸品だ。
台湾茶を一級品へ
150年前に初めて世界の舞台へ降り立った台湾烏龍茶。一体どんなお茶なのだろうか。
邱垂豊さんによると、台湾烏龍茶は発酵度と焙煎度から「清香型」と「焙香型(熟香型とも呼ばれる)」に分類されるという。高山烏龍茶をはじめとした、清香型烏龍茶の茶葉は丸みを帯び、淹れると明るくツヤのある透き通ったお茶になる。茶葉から爽やかな花の香りが立ち上り、味わいは甘くまろやかで余韻が残る。このタイプの茶葉は近年開発されたもので、技術にこだわっており、最も生産の難しい茶葉である。
一方、焙香型烏龍茶は凍頂烏龍茶、鉄観音茶や紅烏龍茶などがあり、その名の通り香ばしくコクのある味わいが特徴だ。凍頂烏龍茶は芳醇で、長い余韻が楽しめる。鉄観音茶は、赤みを帯びた琥珀色のお茶だ。フルーティーな風味が淡く漂い、微かな渋みの中に柔らかな甘さがある。紅烏龍茶は水出し・お湯出しどちらでも楽しめる、これまでにない特徴を持ったお茶だ。
ここ数十年、農業委員会は製茶コンテストを通じ、茶業における職人文化の確立を促すほか、農家や茶商も、台湾茶を懸命に世界へ推し広めている。「台湾茶」というブランドに磨きをかけているのだ。中でも、南投県政府は、鹿谷凍頂烏龍茶と名間埔中茶を無形文化遺産に登録している。伝統的な手もみ茶職人の蘇文昭さん、陳茂淳さんはこの文化遺産を守っている。また、鹿谷と名間郷にて、お茶作りに尽力した人々の歴史を一冊の本『茗茶秋毫』にまとめ、貴重な製茶技術と文化を後世に伝え続けている。
お茶は嗜好飲料であり、味わいや風味の好みは人それぞれだ。
科学で知る茶葉の産地
「台湾茶は長らく高い評価を得ています」と蘇登昭さんは言う。台湾で生産・製造された台湾茶を飲んでもらう為に、TRESは十数年前から、茶葉が土壌内の養分を吸収する原理を利用し、「多重元素テスト法」を研究・開発している。まず、茶葉をすり潰して粉末状にしたものから、溶液を分離・抽出する。次に、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いてリチウム、バナジウム、クロム、銅、亜鉛など14種類の微量元素の特徴と含有量を分析する。最後に、各国の茶葉を集めて作成した茶葉の微量元素データベースと照らし合わせると、茶葉の原産国が分かるというしくみだ。
邱垂豊さんは次のように話した。「お茶は嗜好飲料で、国によって食文化も違いますから、それぞれに良い所があります。台湾は烏龍茶で有名で消費量も最大の品種です。したがって、多重元素テスト法も、台湾で広く栽培・生産されている青心烏龍と台茶12号(金萱)品種の烏龍茶(高山茶、凍頂烏龍茶)を優先して、国産か海外産か調べています。現在、TRESが作成したデータベースは国内外の700種以上の茶種を網羅し、判別の正確率も98%に達しています」
また、国立中興大学・生物科学技術学科研究所の曽志正教授は、「輸入した烏龍茶と国産茶の茶の木を比較すると、その品種もDNAも同じですから、ここから国産か海外産を判別するのは困難です。そこで、土壌内の微量元素を利用すれば、原産地を判別できるというわけです」と話した。
国立中興大学・分子生物学研究所の頼建成教授も次のように語った。「植物の養分の多くは、土壌に由来するものですから、植物内に含まれる少量あるいは微量の元素は、土壌内の成分に正比例します。土壌は世界各地で異なり、各々の微量元素や濃度グラフを有しているため、植物内の微量元素から茶葉の原産地が判別できるのです」
原産地証明マーク
台湾茶を見分けるもう一つの方法として、「原産地証明マーク」がある。蘇登昭さんによると、第三者による検査に合格した商品にのみ貼られるそうだ。
農薬の安全使用、栽培地の管理、食品安全・衛生の管理が検査の対象となるほか、お茶の味、香り、色、茶殻などの官能検査も行って品質を管理している。
現在、原産地証明マークは鹿谷凍頂烏龍茶、阿里山高山茶、梨山茶などを含め、15の地域で生産されるお茶に登録されている。
今年(2023年)の元旦から、農糧署が「国産茶のトレーサビリティシステムの義務付け」を推進している。「台湾」を原産国と表示している未浸出の茶葉には、トレーサビリティコード(QRコード)か原産地証明マーク(生産・販売履歴)または有機マークのうち、どれか一つを表示する必要がある。国産茶と海外産のものを配合したお茶であれば、原産国を、全体に占める割合の大きいものから順に表示しなければならない。蘇登昭さんは「政府が技術、法令、行政の面から原産地表示を推進しているのは、消費者の権利を守るためなのです」と話した。
山に恵まれた台湾には、品種の多様性や標高ごとに異なる山の雰囲気、そして匠による製茶技術がある。これにより、台湾茶は他とは一味違う香りを醸し出しているのだ。
小さな玉状の茶葉に茶山の濃緑や、山の偉大さを揉み込み、さらに現地の人々が磨き続ける技術と精神を注入する。こうして、優雅な香りと繊細でほのかに甘い余韻が生まれるのだ。台湾に来たら、台湾茶を味わう絶好の機会を逃さないように。
TRESが研究・開発した「多重元素テスト法」は、すり潰して粉末状にした茶葉から、溶液で元素を分離し、ICP-MSを用いて微量の元素成分や含有量を分析するものだ。分析後、各国の茶葉を集めて作成したデータベースと照合すると、茶葉が国産か海外産か分かる。
茶葉の味わいや口当たりは、茶の木の品種や栽培管理、製茶技術と密接に関係している。
茶の木は土壌から養分を吸収するため、その葉を摘み取って加工された茶葉からは、ふるさとの味がする。
TRESは革新と創造性を取り入れ、時代を画する茶系飲料を研究・開発している。