「アシスト」であること
しかし、自転車製造は機械工学の分野なのに対し、電動アシスト車は電機と電子との組み合わせだ。つまりバッテリーやモーターの製造、電子制御やプログラミングなど、2分野にわたる細かい工程がある。「分野をまたぐのではなく、まったく異なる世界です」と林鳴皋さんは言う。
電動アシスト車の場合、出力の原理は実は複雑ではない。難しいのは適切なタイミングに適量のアシストが行えるかだ。この点が電動アシスト自転車と電動バイクの大きな違いだ。「どちらも電力で動くとは言え、異なるロジックで動かします」と林鳴皋さんは言う。
電動バイクの運転は単純で、手でハンドルのアクセルを回せば前進し、速度も制御できる。一方電動アシスト車は、両足でペダルを漕ぐのが前進の主力で、アシストシステムによる動力は「補助」に過ぎない。
我々は中部サイエンスパークに赴き、ジャイアント・グローバル本社の隣にあるYouBikeステーションから電動アシスト車に乗ってみた。ペダルを漕いで進むと、補助動力の入り方はとても自然で感じないほどだったが、坂道でもスイスイ進むのが新鮮な驚きだった。
大切なのは「アシスト」であることだ。「加速して補助動力が加わっても、スムーズな乗り心地は変わらず、がくんと進んだりしません」これが蘇雍翔さんの定義する「優れた電動アシスト車」だ。
しかしどうやってこれを可能にしたのだろう。「電動アシスト車には、少なくとも三つの主要パラメータ、つまり速度、トルク(ペダルを回す力)、回転数が必要です」と、林鳴皋さんは補助出力の基本原理を説明する。
コンピューターにとって、これらのパラメータにはそれぞれ意味がある。走行中、トルクが急に増加して速度が遅くなるのは、ペダルを強くゆっくり漕いでいることを意味する。これは体力が低下したか、或いは坂道を登っているためなので、より多くの電力を出してアシストする。反対に、トルクが急減して速度が増した場合は、下り坂を走っている可能性があり、運転者の安全を守るために出力は減少させる。
人間の行動をコンピューターが読み解く。この「ヒューマンファクター・エンジニアリング」は今や自転車製造における重要なノウハウだ。
林鳴皋さん率いるパシフィックサイクルズは、規模は小さいとはいえ確かな設計能力を誇る。