漢学は近代化の障害とはならず
唐奨教育基金会が漢学賞を設立したのは、現在の国際的学術賞の項目に取り上げられていないこともあるが、東洋文明における重要な学問であり、中国研究の最大かつ共通テーマである漢学を西洋世界に知らしめるためでもある。漢学をより広い視野から長い歴史の流れにおいて眺め、唐奨漢学賞を世界的な賞に引き上げようという目標がある。今回の受賞者ウィリアム・T・ド・バリー教授は、実践的に東西の学界の流れをリードし、現代の儒学と世界とを結ぶ橋となっている。
コロンビア大学名誉教授で97歳と高齢のド・バリー教授は、70年近い研究生活において30冊余りの専門書を出版し、中国儒学思想研究の紹介に卓越した貢献があり、欧米の儒学研究を開いた代表的人物である。
第二次大戦に従軍したド・バリー教授は、太平洋地域の軍事情報に関与し、東アジア文化に精通していた。戦後は母校のコロンビア大学に戻り、1953年に博士号を取得して母校の教壇に立ち、アメリカの東アジア研究に大きな影響を与えた。1990年に退職した後は名誉教授となり、2013年には米国人文科学勲章を授与された。
ド・バリー教授は明末清初の儒者黄宗羲の大著『明夷待訪録』を研究し、西洋の理論と価値観ではなく、中国史の内部から中国の問題を理解しようとした。1950年代には、アメリカの新儒学研究をリードした。
ハーバード大学の東アジアと比較文学講座の王徳威教授は、ド・バリー教授はコロンビア大学で東洋の古典書籍翻訳プロジェクトを主導し、150冊以上の古典を翻訳してアメリカのアジア研究に基礎を築いたと言い、「非華人系学者の中国の伝統に対する情熱、その信念と批判精神を教授から体得することができました」と語っている。儒学研究を推進する教授の姿勢は、単に中国文化を評価あるいは批判するだけではなく、西洋文明に欠けた部分を補完する重要性を指摘し、東西の対話を世界に拡大しようというものである。
90歳を超えた高齢でも、ド・バリー教授は2013年に『偉大な文明的対話(The Great Civilized Conversation: Education for a World Community)』を出版し、人類文明の対話を進めてきた。中央研究院の王汎森元副院長は、教授の漢学観をについて、西洋に新しい視点を導入し、その影響を華人世界にまで広げたと評価する。中でも『Sources of Chinese Tradition』は再版を重ね、多くの漢学研究者必読の一冊となっている。
高齢のド・バリー教授に代って、コロンビア大学アジア・中東委員会の鄭義静主任が受賞式に出席し講演を行った。教授の教え子でもある彼女はそこで、教授の漢学研究の核心となる視点は、漢学は近代化の障害とはならないというところにあると語った。
97歳と高齢のド・バリー教授に代り教え子が講演を行なったが、賞を受けたのは息女のブレット・ド・バリー氏である。彼女も父の東洋研究への情熱に深い影響を受け、現在はコロンビア大学アジア学科で教壇に立ち、日本比較文学、現代文学を専攻しているという。
全米工学アカデミー(NAE)会員のアショカ・ガドギル氏が、持続可能な発展賞を受賞したアーサー・ローゼンフェルド氏に代わって演説を行なった。