脚本人材の育成
物故した演劇の大家・李国修は「ドラマは人生の物語を濃縮し映し出すもの」と語った。では、人生の物語を語る脚本家は、どのように人を感動させるべきなのだろう。
「脚本家は、物語を語るのが大好きでなければなりません。おもしろい物語を思いつき、それを視聴者もおもしろいと思ってくれたらと思うと、すごく興奮します」と、ドラマ『我的野蛮千金』の脚本家、王瑋は語る。
『白色巨塔(ザ・ホスピタル)』で金鐘賞最優秀ドラマ脚本賞を受賞した呉洛纓は、今年は『我願意(The Amazing Grace of ∑)』の脚本と撮影、マーケティングに加わった。ここ数年は、国立台北芸術大学や台湾大学で脚本を教え、実務経験を伝授している。学生の中には、すでに短編の助成金を受けた人もいれば、俳優を目指しながら脚本も兼務したいと考える人もいる。
『光華』取材班が訪れた日、呉洛纓はアメリカのテレビドラマ『ブレイキング・バッド』を題材に、30歳のマフィアの女性ボスがどのように手下を管理するかについて討論させていた。ドラマの中にどのように衝突を取り入れ、どのように人物のギャップを配置するか、どのように魅力的な物語やエピソードを作るか考えさせる。
呉洛纓によると、脚本の課程では登場人物の役割設定、ストーリー展開、構造、大綱まで系統立てて教えている。「開始、衝突、結末」という三幕のドラマから教え、最終的には脚本を一本書き上げる。内容の濃い脚本を書くためには豊富な生活経験やフィールドワークの能力が必要だ。
彼女は、医者が権力と名声を奪い合うテレビドラマ『白色巨塔』を例に説明する。当時彼女は32歳で、2人の子育て中だった。結婚と離婚、そしてガン罹患という人生の転換期を経験してきたため、ドラマの中の医療という仕事や人生の意義、人道や倫理といったものには自分の思いがあったという。しかし、台湾の教育環境では大多数の人が進学、就職というレールに乗って人生を歩むため、独特の生活体験が欠けていると彼女は考える。「どうして、まず働いてから学校へ戻らないのでしょう」と問いかける。
呉洛纓は、自分は子供の頃「とにかく映画を見まくっていた」という。大量に映画を見ることで目が開かれ、創作能力が蓄積されていった。彼女は、毎日書くことで執筆を習慣化し、勇敢に冒険や旅に出て、生活経験や人脈を広げることで脚本を書く実力を育むべきだとアドバイスする。
現在、台湾では脚本家の養成や企画提案には多様なルートがある。例えば政府文化部(文化省)では、優良脚本コンクールや、短編、長編の助成金制度があり、また台北市と高雄市では現地で撮影した映像のコンクールや報奨金制度があるなど、脚本家を志す人には力を試す多様な場が提供されている。
一方、文化内容策進会は2019年11月に、文化部から国家発展基金と民間の資金を導入し、映画やアニメ、ドラマなどの製作や新人の発掘にフレキシブルに資金を投入し、文化コンテンツ産業を育成することとなった。台北芸術大学の大学院生で『親愛的我』で短編助成金を獲得した陳家宜は、「政府の助成制度は非常に多く、中国大陸や韓国と比べてもかなり優位です」と言う。
脚本人材を台湾にとどめ、プロフェッショナルな人材の権益を保障するために、中華編劇協会、文化部、台北市芸術創作者職業組合などの機関は、「パフォーミングアーツ脚本・監督契約書」の見本作成を推進している。また、脚本家や振付師、監督・演出家などの工数や報酬、著作権の帰属などを定め、産業の労働条件を少しずつ健全化しようとしている。
台湾の脚本の課題
人材育成や国際プラットフォームからの投資などが進んでいるが、これが将来も継続できるかどうかはまだ観察しなければならない。
王瑋は、台湾の映画やドラマでは昔から文化的素養が重視されて来ており、アメリカや韓国、香港のドラマが感覚的な刺激を重んじるのとは大きく異なると言う。台湾ドラマが国際市場で競争に直面した時、これらの強力な競争相手と戦えるかどうかが問題だ。ストーリー、題材、美意識が共感を得る作品でなければならない。
2022年、文化内容策進会はハリウッドのイマジン・エンターテインメントとアジアの制作会社Sixty Percent Productionsを招き、共同で「EMERGE華語オリジナルコンテンツ開発計画」を推進することとなった。ハリウッドのプロデューサーやベテラン脚本家が産業化された企画や国際市場への観点を提供して国内の生産モデル構築を促進する。さらに台湾の脚本学習者とともに、国際的にビジネスポテンシャルのある華語オリジナルコンテンツを作っていく。
自由で民主的な台湾ではドラマの題材が不足することはない。呉洛纓は、努力していけば台湾ドラマは世界に出ていけると信じている。