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産業イノベーション

世界をリードする台湾の再生繊維

世界をリードする台湾の再生繊維

Ecomax社の緑の奇跡

文・陳群芳  写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

10月 2019

993年、富勝紡織(Ecomax)が台湾で初めてペットボトル再生繊維の開発に成功し、他の繊維メーカーもこれに続いた。(林格立撮影)

1993年、富勝紡織(Ecomax)は台湾初のペットボトル再生繊維PETSPUN®の開発に成功し、他社が続々とこれに続いた。現在では服飾、靴、バッグ、家庭用品などに広く用いられ、人々の暮らし活かされている。国際的なスポーツウェアブランドの多くも台湾製のペットボトル再生繊維を使用しており、かつて斜陽産業と言われた繊維業界は新たな道を切り開いた。

20年にわたり、富勝紡織はさまざまなリサイクル繊維を開発してきた。廃棄される籾殻や酒粕を利用した繊維や、安全ガラスの中間膜を再利用した人工皮革などである。さらに最近は世界に先駆けて海洋ごみの再生繊維を開発し、廃棄された漁網に新たな生命を吹き込んだ。エコロジーを理念とする富勝紡織は、世界に台湾の「緑の奇跡」を見せつけている。

富勝紡織(Ecomax)の展示ルームに入ると、並んでいる帽子やTシャツ、バッグ、ぬいぐるみなどは、すべてペットボトル再生繊維で作られたものだ。「椅子やソファー、クッション、それにこのサッカーワールドカップ記念ボールの補強布にも、私たちのPETSPUNが使われています」と、製品を自分の子供のように紹介してくれるのは、富勝紡織の二代目、柯漢哲董事長だ。

ワールドカップ記念ボールの補強布にも富勝紡織(Ecomax)のPETSPUNが用いられている。

台湾初のペットボトル再生繊維

彰化県伸港郷にある富勝紡織は、かねてより「織姫の故郷」と呼ばれてきた和美鎮の近くにあり、この一帯は台湾の繊維産業の中心地でもある。富勝に向う途中で聞いたタクシー運転手の話によると、かつてここには100に上る小規模工場があって大いに賑わっていたそうだ。その後、90年代に工場の海外移転が始まって彰化の工場も一つひとつ消えていったが、富勝はここに残った数少ない工場の一つだ。

富勝紡織は1968年に柯漢哲の父である柯金錫が創設し、レーヨンの織りを得意としていた。柯漢哲は幼い頃から生産工程と技術に親しんでおり、兵役を終えるとすぐに会社を継いだ。その繊維工場が世界から注文を受けるエコ繊維メーカーへと転換したきっかけは、仏教の慈善団体である慈済の講演会だった。

1990年、柯漢哲は慈済の創設者である証厳法師の講演を聞く機会があり、法師の「その手を環境保護のために使ってください」という言葉に強い感銘を受けた。彼は、子供の頃に遊んだ近所の小川が今はごみでいっぱいになっていて、誰かがきれいにしてくれればいいのにと思ったことを思い出した。その思いがよみがえり「一生、証厳法師についていこう」と決意したのである。

では、環境のために繊維産業に何ができるのだろう。そう考えている時、飛行機の機内誌でペットボトルを原料にしたアメリカのジーンズを紹介する記事を読んだ。「固いペットボトルがどうしてジーンズになるのだろう」と好奇心を持ち、そこから歩むべき方向を見出したのである。プラスチックに関する知識がまったくなかった彼は、研究に取り組み始める。その頃は1990年代、台湾の繊維産業は低迷し、工場は人件費削減のために次々と海外へ出ていったが、彼は大量の時間と資金を未知の技術に注ぐこととなり、父の柯金錫の理解も得られなかった。「本当につらかったです」と語るが、台湾にもできることを証明するために、歯を食いしばって研究を続けた。

回収したペットボトルを分類、洗浄、粉砕、溶融してチップ状にし、そこから紡糸、紡織を行なうという工程と技術を一つひとつ開発していった。こうして3年、1993年に台湾初のペットボトル再生繊維の生産に成功し「PETSPUN」という商標を登録した。「当時、世界でペットボトル再生繊維を作っていたのはアメリカの1社、ドイツの1社、日本の2社だけで、富勝は世界で5番目に再生技術を開発した会社でした」と柯漢哲は誇らしそうに語る。

職人の精神を持ち、全力で環境にやさしい繊維製品を開発する柯漢哲。

イギリスで注目を浴びる

PETSPUNの開発には成功したものの、その後の経営は決して順調ではなかった。ペットボトルの回収から分類、洗浄、粉砕、チップ化、製糸と、どの段階にも高度な技術が求められる。洗浄だけでも幾度も繰り返さなければ不純物のない原料を得ることはできない。製造工程は長く、求められる技術も高く、原価は従来のポリエステルより3割高くなるため、顧客も二の足を踏んでしまうのである。

そこへ現われたのが、イギリスのチェーン店、マークス&スペンサーだった。台湾にペットボトル再生繊維があると聞き、同社は協力の可能性を話し合うために彰化まで訪ねてきたのである。「ヨーロッパでは早くから企業の社会的責任を重視しており、多少原価が高くても、環境に役立つことをしたいという意欲があるのです」と柯漢哲の長女で三代目の柯莞庭は説明する。

そしてマークス&スペンサーの社長が100%PETSPANで作られた服を着てBBCのニュース番組に出演し、リサイクル製品推進の5か年計画を発表すると、台湾から40フィートコンテナで運ばれた衣服はイギリスで瞬く間に完売し、富勝はようやく黒字転換へのきっかけをつかむことができたのである。

これを目にした台湾の他の繊維メーカーも、次々と再生繊維の開発や利用に取り組み始めた。柯漢哲に教えを請いに来るものもあれば、富勝の製品を使って最終商品を製造するものも出てきた。慈済が災害支援に使用するリサイクル製品の多くも富勝が製造している。長年にわたって実力を蓄積してきた台湾メーカーが作るペットボトル再生製品は品質が良く、その応用範囲も世界をリードすることとなる。現在では世界のペットボトル再生衣料市場の半数以上に台湾の製品が用いられている。こうして柯漢哲は、かつて証厳法師に誓った「人類のために奉仕する」という決意を実現し、より多くの人を環境に貢献する仕事に導き入れることができたのである。

PETフレーク

奇跡の転換

ペットボトル再生繊維の開発に成功した経験から、柯漢哲は新たに富勝紡織の目標を定め、2000年には英語の社名をEcomaxへと改めた。環境のために最大限の努力をするという意味が込められている。

そこで柯漢哲は廃棄される籾殻や高粱酒の酒粕、カキ殻などの研究を開始した。これらをナノメートルの分子に処理してPETSPUNと結合させることで再利用しようというのである。

「侮ってはいけません。これらの廃棄物を利用した再生製品は身体にも良いのです」と、柯漢哲は夏掛け布団を手に説明する。これは回収した籾殻と高粱酒の酒粕、カキ殻を焼却分解し、ペットボトルから作ったPET樹脂と合わせた繊維で作られている。高粱酒の酒粕と炭化した籾殻は二酸化ケイ素を含み、多孔性、吸着性などの性質を持つことから、吸湿、消臭、そして遠赤外線放射といった機能が得られる。またカキ殻に豊富に含まれる炭酸カルシウムは燃焼を経て酸化カルシウムに変化し、抗菌効果が得られるとする研究報告もある。「忙しい現代人がこの夏掛け布団を使えば、身体の湿気が吸収されて血液の循環が良くなり、さまざまな病気の予防にもなります」と柯漢哲は言う。

多くのメーカーが海外に拠点や工場を置いているのに対し、富勝は一貫して「台湾製」であることを誇りとしてきた。長年にわたる業界での実績から、富勝は川上から川下までのサプライチェーンを統合する能力を持ち、品質の向上にも努めてきた。こうした経緯から国際見本市でも常に注目されている。例えば、2019年のアジアパシフィックレザーフェアでは、安全ガラスの中間膜を再利用した富勝のリサイクル繊維製品が「最優秀サステナブル・マテリアル賞」に輝いた。

安全ガラス(合わせガラス)は、二枚のガラスの間にPVB(ポリビニルブチラール)の膜を挟んで貼り合わせたものだ。自動車の廃棄とともに出るこの廃棄物は、通常は焼却または埋立処分され、環境にダメージをおよぼすこととなる。そこで富勝紡織はこの中間膜を脱色分離、純化して環境にやさしい生地に接着することで、合成皮革を生み出したのである。そこにさらにさまざまな模様を型押しすればバッグやハイヒール、ソファーなどにも応用できる。動物の革を使わずに済み、環境にもやさしい。

チップ

世界初−海洋ごみの再生繊維

富勝紡織の工場には太陽光発電設備が設けられており、トイレには回収した雨水を利用している。また顧客には、なるべく生成りの生地を用いるよう勧め、染色が必要な場合も染料を用いるのではなく、デジタルプリントを勧めることで、可能な限り大量の水を使わないようにしている。また、同社の社員は出かける時には自分のマグボトルを携行する。柯漢哲も、もう何年も市販のボトル飲料を飲んでいないと言って笑う。富勝にとって、リサイクル繊維の開発は環境配慮を謳ったマーケティング手法ではなく、また利益を上げるためのビジネスでもなく、すでに内在化した生活哲学なのである。

数年前、柯漢哲はディスカバリーチャンネルで遠洋漁業による海洋生態破壊を扱ったドキュメンタリーフィルムを見て、海洋ごみの研究を始めた。そして2013年には廃棄された漁網を使ったリサイクル繊維の開発を開始した。漁網を使用して細い糸を作るためには、付着したタールや浸透した塩分を除去するために繰り返し洗浄しなければならず、その工程は繁雑で時間がかかる。その研究に取り組んでいる頃、アメリカに招かれて大麻の茎から未来の衣料を開発するプロジェクトに加わるよう求められたが「海洋ごみは差し迫った重要な課題なので、あと3年待ってもらうようお願いするしかありませんでした」と言う。

こうして大量の資金と時間をかけ、2015年、彼はついに海洋ごみのリサイクル繊維の開発に成功し、これをバッグや服飾に応用できるようにした。最近は、海洋プラスチックごみ問題を改善するために台湾西海岸の漁港を訪ね歩いて漁業者の話を聞き、また漁網を海に廃棄しないよう求めている。「台湾は宝の島です。私たちは世界で初めて海洋ごみの再生繊維を生み出した企業として、これからはビーチクリーン活動や国民教育を支援していき、海岸の美を守り、いつか世界中の人々が台湾という浄土を訪ねてくるようにしたいのです」と柯漢哲は言う。

研究開発の話になると柯漢哲は目を輝かせ、まるで冒険家のように一つひとつの素材の物語を語ってくれる。成功するか否かはわからなくても、向かう方向は常に明確で「地球環境に関心を注ぐことこそ富勝の研究開発哲学の核心です」と語る。富勝は業界の先頭に立ち、職人の精神で環境にやさしい繊維製品を生み出し、私たちに緑の繊維の無限の可能性を見せてくれる。

ファイバー

紡績糸

ペットボトルから再生繊維まで、すべての工程で高度な技術が求められる。

台湾はリサイクル技術が高く、さまざまな材質のプラスチックボトルがそれぞれ再利用されている。

長年にわたり、富勝紡織は台湾製であることを誇りに彰化工場を守り続けてきた。PETSPUNを生み出し、生産してきたのもこの工場だ。(Ecomax提供)

安全ガラスの中間膜を用いた富勝の人工皮革は、2019年のアジアパシフィックレザーフェアで最優秀サスティナブル・マテリアル賞に輝いた。

しっかりしたエコバックから軽くて柔らかいシフォンまで、富勝のペットボトル再生繊維PETSPUNは多様な応用ができる。

しっかりしたエコバックから軽くて柔らかいシフォンまで、富勝のペットボトル再生繊維PETSPUNは多様な応用ができる。

地球環境に関心を注ぐ柯漢哲は世界に先駆けて海洋ごみの再生繊維を開発し、台湾の美しい海を世界の人々に見てもらいたいと考えている。

地球環境に関心を注ぐ柯漢哲は世界に先駆けて海洋ごみの再生繊維を開発し、台湾の美しい海を世界の人々に見てもらいたいと考えている。