
Moonsiaの『星咒之絆』(Line Webtoon提供)
2022年に『光華』が台湾の漫画市場を報道した頃、2010年から兆しを見せ始めた台湾漫画の「第三派黄金時代」が本物かどうか、多くの人がまだ答えを出せずにいた。しかし、今はその到来を確信できる。
台湾の漫画はかつて最良の時代を2回、最悪の時代を2回経験してきた。最良の時代の第一波は1950~60年代、この時期は葉宏甲、陳海虹、許貿淞、劉興欽らの武侠漫画が中心だった。第二波は1980~90年代、代表的な漫画家としては朱徳庸、蔡志忠、敖幼祥、蕭言中、鄭問などが挙げられるだろう。
しかし、政府の政策や時代の変化などによってこの2回の台湾漫画隆盛の時代は終焉する。第一波の黄金時代は「編印連環図画輔導弁法」という政策の下で下火になり、第二波は、インターネットの普及で消費や娯楽の習慣が大きく変わったことで衰退していった。
ミレニアム以降のネットの時代、ゲームや映画などのエンターテインメントが盛んになって台湾の漫画は大きく衰退した。それに加えて版権を取得すれば翻訳出版できる日本の漫画が大量に輸入されるようになり、読者は国産漫画の存在を忘れてしまった。それが2018年になって、故宮博物院が初めて漫画作品の特別展を開催した。鄭問の作品をテーマとする『千年一問:鄭問故宮大展』である。油絵と中国画の撥墨の技術を融合させた鄭問の原画の美しさは人々を驚かせ、3ケ月の展示期間中にのべ10万人が足を運んだ。そして「これほど繊細な作品を台湾の漫画家が描いたのか?」「私たちはなぜそれを知らなかったのだろう?」という声が上がったのである。
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大辣出版の黄健和編集長。漫画出版に携わって35年、まさに台湾漫画史の生き字引である。
漫画の価値を初めて国が認める
かつて台湾の漫画は政策や環境の影響を受けてきた。一般の人々も、伝統文化や洗練された芸術こそ価値のある表現方法だと考えており、漫画は通俗的で幼稚なもので、芸術の殿堂に入れるものではないと考えてきた。
しかし時代は移り、社会の雰囲気も大きく変化した。かつて漫画を読んで育った世代が経済力のある消費者になり、あるいは創作者や研究者になった。社会の美意識も向上し、年齢を分かたず楽しめる漫画という表現方法があらためて評価されるようになったのである。
鄭問の展覧会が国立の故宮博物院で開かれたこともその一例であり、蔡英文前総統も、台湾におけるコンテンツ産業の重要性をしばしば語っていた。蔡英文前総統は2020年、日本の男性向け漫画雑誌『ビッグコミック』の表紙を飾ったこともある。そして2019年に台北の華陰街に「台湾漫画基地(コミック・ベース)」がオープンし、2023年末には長年をかけて準備されてきた国家漫画博物館が台中で幕を開けた。いずれも、国が漫画の価値を認めた重要な出来事であった。
こうして、歴史的にも初めて政府から高い評価を受けた台湾の漫画は、空前絶後の黄金時代を迎えている。「漫画の社会的地位や文化的価値などが初めて国の力によって向上したのです」と語るのは、台湾動漫(アニメ漫画)推広協会の蘇微希理事長だ。
光華取材班は文化部(文化省)人文及出版司の楊婷媜・司長にお話をうかがった。その話によると、オープンしたばかりの国家漫画博物館の中にある書店は、わざと昔の貸本屋のような形にしてあるそうだ。少なからぬ人は、幼い頃にこっそり漫画の貸本屋に行った思い出があるからだ。こうした記憶が国立の博物館の中に再現された。人々に懐かしさを感じさせることで、歴史的な評価の逆転がより際立ち、訪れた人々は思わず笑みを浮かべるのである。
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台湾漫画の第二波黄金時代は紙媒体から始まり、誰もが知る数々の名作が生まれた。(荘坤儒撮影)
漫画はコンテンツ産業の牽引車
行政院の鄭麗君副院長は、かつて文化相だった時に「漫画をストーリー産業の牽引車にする」と語ったことがある。楊婷媜によると、コンテンツ産業において、漫画はキャラクターやストーリーボード、語りなどの条件をもともと備えており、異分野への展開が容易であるため、文化産業を推進するうえで重点項目になっているのだと言う。
では、産業の環境を整備する政府は、近年どのようなことをしてきたのだろう。
楊婷媜は次のように語る。2018年、政府は前瞻計画の中に漫画助成金を設け、新人作家の参入を奨励してきた。また2010年からは政府文化部が「金漫賞(ゴールデン・コミック・アワード)」を設けて国として優秀な漫画作品や関係者を表彰してきた。金漫賞の開催に当たっては、表彰式の中継を台湾テレビ(TTV)に依頼することで、従来の「三金」(金馬賞、金鐘賞、金曲賞)と並び立つ業界の栄誉と位置付けたのである。
国家漫画博物館準備諮問委員を務めた蘇微希によれば、政府はコンテンツ産業や知的財産権産業といった角度から、創作者を奨励し、出版社や読者の育成、プラットフォームの確立、周辺産業の開発、国際ライセンス、映像産業の異業種展開などを視野に入れ、産業全体の向上と発展を大きく促してきた。
漫画助成金を例に取ると、奨励対象は作者だけでなく、出版やマーケティング、異分野への展開なども対象に入っている。金漫賞の授賞項目も、作者に贈る「漫画新人賞」や「年度漫画賞」の他に、「漫画編集」や「異分野応用」などがある。海外へのライセンス契約については、外国の出版社が翻訳料不足に陥っている時は、文化部の「翻訳出版奨励プラン」に経費を申請できる。
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2018年、漫画家・鄭問の特別展が故宮博物院で開催された。故宮では初めての漫画家特別展だった。(荘坤儒撮影)
奇跡の2010年
台湾の漫画が復活し、繁栄へと向かい始めた要因は、もちろん政府の力だけではない。
「2010年にはたくさんの出来事が同時に発生しました」と、大辣出版社編集長の黄建和は台湾漫画の第三派黄金期の到来を語る。
1966~1989年と2000~2010年、台湾の漫画は暗黒の時代を過ごし、その隙間を埋めるように日本の漫画が大量に輸入された。一見すると台湾漫画の出版ルートが不足していたように思われるが、物語を語りたいという作家たちの強い思いが消えることはなかった。
読者も離れることはなかった。台湾でも、日本の同人誌即売会(アニメ・漫画愛好者が交流し、二次創作の漫画やファンアートを売買する場。漫画アニメ・フェアとは異なる)を模した大規模な同人イベントが続いていたのである。
例えば2002年に始まった「開拓動漫祭(Fancy Frontier,FF)」や、2002年に「同人誌即売会(CW)」から転換した「台湾同人誌即売会(Comic Word Taiwan,CWT)」など、入場者も次々と過去最多を記録し、にぎわいを増していた。
続く2009年には、中央研究院の「デジタルコレクション計画」を推進するために宣伝物や漫画刊行物『Creative Comic Collection(CCC)創作集(以下、CCC創作集)』が刊行された。
コミックマーケットと『CCC創作集』は密接なつながりを持つこととなった。『CCC創作集』の温淳雅・編集長によると、当時、一般の出版社が掲載を依頼する漫画家は非常に限られていたため、編集チームは同人イベントで創作者を探すほかなかったのである。そして人気のある著名漫画家の作品が掲載されていた『CCC創作集』は、ビジネス化されていなかった初期(1~4号)の間に、動漫祭(漫画アニメフェス)やコミックマーケットで無料配布することとなった。それが思いがけないことに、毎号5000部も印刷していた『CCC創作集』はこれらの会場ですぐに捌けてしまい、有料でもいいから再版してほしいという声も上がったのである。
そこで、当初は1期だけの予定だった『CCC創作集』は長期的に出し続けることとなった。好評が続いたことから、2012年、中央研究院はこの刊行物の出版権を蓋亜文化社に移転し、正式に商業出版物となったのである。
漫画アニメフェスの執行長を務める蘇微希は、こうした経緯を振り返り、新人漫画家がデビューするルートが非常に限られていた当時、同人誌即売会やコミックマーケットは作家育成の重要な役割を担っていたと指摘する。作家はこれらイベントの機会を借りて自分の作品を描いて製本し、自ら販売し、腕を磨いていったのである。「そのため、この時期にデビューした作家は市場の嗅覚に優れています。良くない作品や自己満足の作品は誰も買ってくれないことを知っているからです。ですから彼らは自分の創作理念を強く持つと同時に、読者の好みも掌握しているのです」
こうした特質が、次の台湾漫画黄金時代の伏線になっていくのである。

金馬賞、金曲賞、金鐘賞と並ぶ「金漫賞」は台湾の漫画業界にとって最高の栄誉である。(文化部提供)
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漫画はもともとキャラクターやストーリーボード、語りという基本条件を備えているため、異分野へ展開しやすいと語る楊婷媜。
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台湾漫画の第三波黄金時代の到来を促してきた『CCC創作集』。
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同人誌即売会には人気作家が集まってくる。自身のファンを多く抱える有名作家たちは創刊当初の『CCC創作集』の注目度を高めた。(Fancy Frontier開拓動漫祭提供)
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台湾ではコミックマーケットの人気が高く、漫画家を育てる重要な場とされている。(Fancy Frontier開拓動漫祭提供)