「炭素」が大きなテーマとなった21世紀、注目の技術もIT(情報技術)からET(エネルギー技術)へと移行した。
新聞や雑誌には次々と炭素に関する新たな言葉が登場する。商品の「カーボンフットプリント(炭素の足跡)」表示が新たな趨勢となり、台湾の産業は将来的に国際的な「炭素税」による貿易障壁に直面する可能性がある。温室効果ガス排出量に関する法制度が確立すれば「排出量検証」が実施され、今後20年、世界の「排出権取引」市場は3兆米ドルに達すると見られる。また、台北県坪林は「カーボンニュートラル」コミュニティを目指していく、といった話題もある。
この半世紀で急増した温室効果ガス(二酸化炭素を主とする)が地球温暖化と気候変動を促しており、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のレポートによると、人類が21世紀を生き延びるには、2050年までに地球の気温上昇を2℃以内に抑えなければならず、そのためには大気中の二酸化炭素濃度を450ppm以下にしなければならない。二酸化炭素排出量に換算すると、2050年までに70億トン減らすということで、人口成長を考慮すると半減に等しい。
世界中が低炭素社会の実現に努力し始める中、消費者からの要求にしろ、貿易制裁にしろ、政府による規制にしろ、あらゆる要求はまず産業界に向けられる。それに対し、危機を解決して排出量削減技術やエネルギー技術を発展させ得るのも産業界なのである。
低炭素社会への転換が求められる台湾において、長期的なビジョンを持つ大企業は、すでに積極的にグリーン競争力の向上に力を注いでいる。設計から購買、生産、輸送、リサイクルまで、すべての工程において「排出量削減」と「省エネ」が考慮されており、そうして生まれた製品は、企業に有形無形の利益をもたらすとともに、社会全体の意識をも高めている。
2009年末、世界が注目する中で、気候変動枠組条約の締約国会議(COP15)がコペンハーゲンで開催されたが、具体的な合意に達しないまま、非難の声の中で幕を閉じた。だが、中華民国永続発展(持続可能な発展)協会の黄正忠秘書長は、この会議は台湾では大いに注目され、それが大きな動きをもたらしたと言う。
「これは、昨年の台風8号が台湾に甚大な災害をもたらしたこととも関係しているかもしれません」と黄正忠は言う。いずれにせよ、気候変動に対する台湾企業の関心は明らかに高まり、中小企業からの問い合わせも増えた。これは、彼が二酸化炭素排出量削減を推進し始めて7〜8年来で初めての反響だったという。
旧正月前には多数の企業から講演に招かれ、「東元や大同などの家電メーカーの販売店パーティでもCOP15が話題になるほどでした」と言う。これは、低炭素化という思考の「内在化」には大きな助けになる。
黄正忠によると、世界中で気温上昇2℃以内、二酸化炭素濃度450ppm以下という限界が共通認識となったことで、すでに排出量削減のスケジュールは明確になっている。「京都議定書」の定める2012年までの後も2020年までに世界で二酸化炭素を20〜30%削減しなければならないのである。
物質文明を大幅に後退させることなく、この困難な任務を少しでも早く達成するには、「革命的な新エネルギー」の出現を待つよりも、企業に対して技術的にエネルギー効率を高めるよう(スマート家電や高効率モーターなど)要求するべきであろう。世界が手を取り合ってこうした努力を積み重ねることで、地球を危機から守っていかなければならない。

マザーボード数百枚で作ったアート。台北関渡のASUS(華碩)本社で訪問者の目を引く。
実際のところ、エネルギー効率の向上は、ここ10年、世界の産業発展における主要課題とされてきた。早くも2002年に、メリルリンチやゴールドマンサックス、HSBCなどの投資機関が発起してカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)が設けられた。各国の大企業に対して毎年アンケート調査を行ない(2010年は4500社を対象)、企業の二酸化炭素排出量情報とリスク管理の実績を理解し、投資家の参考に供するというものだ。
ロンドンに本部を置き、57兆米ドルの資産を動かすこのNGOからアンケートを求められている台湾企業は30社余り、電子関係が半数、従来型産業が25%、金融が25%だ。
CDPは企業が自発的にディスクローズする(明らかにする)ことを原則としており、炭素審査の流れも始まったばかりだったため、最初の頃、台湾企業は積極的に対応していなかった。しかし、今では二酸化炭素排出量に関する情報が、企業の「将来性」評価の重要な指標となったことから、TSMCやAUOをはじめとする台湾のエレクトロニクス大手のほとんどが、カーボン・ディスクロージャーの列に加わっている。
液晶パネル大手のAUO(友達光電)環境安全部の林立偉マネージャーによると、企業自身による温室効果ガス排出量の検証は、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)とWRI(世界資源研究所)が1998年に作成した「温室効果ガス排出量算定ガイドライン」か、ISO14064の標準に則って行なわれている。製造工程、工場業務および管理部門(オフィスの消費電力、出張、通勤など)、そして外部委託生産および労務(輸送や廃棄物処理など)の三大分野に別れており、すべての分野でのエネルギー消費量と温室効果ガス排出量を算出しなければならない。
「検証の結果、液晶パネルの製造工程で出るフッ素化合物のパーフルオロカーボン(PFC)が最大の課題であることがわかりました」
林立偉によると、PFCは自然界には存在しない人工的な温室効果ガスで、SF6の温室効果は二酸化炭素の2万2800倍に達する。PFCを除去するためにAUOは8億台湾ドルを投じてこれを別の気体へと分解する設備(新工場建設時に設置する必要がある)を導入してきた。これによって、総排出量は2〜3割削減できたと言う。

ASUSは各ブランドのパソコンを回収修理して弱者団体や僻遠地の学校に寄贈し、さらにフィリピンでも回収システムの教師を育成している。自社と他者と地球の三者にやさしい行為と言える。写真はASUSの修理を引き受ける訊峰資訊社。
カーボンディスクロージャープロジェクトによって、企業は温室効果ガス削減を重視するようになると同時に、世界的に製品別の評価も始まり、企業はますます省エネと低炭素化に力を注ぐようになった。
例えば、2005年にEUで打ち出されたEuP指令(エネルギー消費型製品に対するエコデザイン指令)は、製品のエネルギー使用効率と環境への配慮を高めることを求めている。この標準に達しない製品はEU市場から排除されることとなる。アメリカでは「エネルギースタープログラム」の第二段階としてデジタル製品類の電力消費量の上限を定め、2006年にはEPEAT(電子製品環境評価基準)において、政府による電子製品の「グリーン調達」基準を定めた。このように数々の規範が設けられ、それぞれが企業活動と緊密に結びついているため、少しでも注意を怠ると企業には不利なこととなる。
また、CDPは大企業のカーボンディスクロージャーだけに満足せず、2007年にSCLC(サプライチェーン・リーダーシップ・コラボレーション)を発起した。大企業が率いる形でサプライヤーやサテライト工場の温室効果ガス排出削減を進めていくというものだ。SCLCでは会員の追跡と管理に協力し、サプライチェーン全体のカーボンフットプリントを計算する。
SCLCという新しいモデルが登場すると、パソコンのデルやHP、家庭用品のP&G、流通業のテスコやウォルマートなどがこれに応じ、現在すでに40社ほどが「リーダー」として加入している。これらリーダーのサプライチェーンとして世界の数十万社が影響を受けると見られている。
全体を見渡すと、SCLCは国際的大手企業の信頼性を問う形で打ち出され、EuPやEPEATは消費者や政府による購入の基準として位置づけられている。こうして多方面から同時に圧力がかかり、世界中の各種産業が温室効果ガス削減へと動き始め、誰も無関係ではいられなくなったのである。

今年初め、アメリカ最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートは、5年後に同社が扱う商品にはすべて「カーボンフットプリント」表示を義務付けると発表し、大きな衝撃をもたらした。ウォルマートには世界の十万社が商品を納めているが、そのすべての原材料から生産、輸送、使用、そして回収までのライフサイクル全体における炭素の足跡を明確にし、しかもそれを等級分けして消費者の評価を受けなければならないのである。
昨年9月にカーボンフットプリント認証を取得したASUS(華碩)のN51V型ノートパソコンの場合、その炭素の足跡を算出するために、自社製マザーボードの部品から製造工程、アセンブリまでにわたる二酸化炭素排出量を計算するだけでなく、世界各国から輸入する2000種余りの部品やコンポーネント(マウスや筐体、モニターなど)についても、一つ一つメーカーから部品や生産工程のデータを集めなければならず、それは驚くべき作業量だったと言う。
「当社では、数十人を投入して1年余りをかけてようやく世界初のノートパソコンのカーボンフットプリント認証を取得しました」とASUSの最高品質責任者・林全貴は語る。
「これまでのビジネスでは、納期と価格と協力度が基本条件でしたが、今後は炭素情報もその条件に加わります」と話すのは、政府経済部工業局の委託を受けて企業に省エネと低炭素化を指導する財団法人産業サービス基金会のマネージャー馬勝雄だ。排出量削減はもはや道徳や倫理の問題ではないと馬勝雄は言う。今後、カーボン情報を開示できない企業は、市場で生き残れないのである。

100キロワットのソーラーインバーターは、デルタ電子の新たな製品だ。写真は同社の総裁・柯子興。
今後、ブランドを持つ企業や流通業界は、サプライヤーに排出量削減を要求することとなる。だが、カーボンフットプリントの算出は、どの工程の排出量が多く、どこに削減の可能性があるかを明らかにするための準備作業に過ぎない。本当の課題は、その後の実際の「削減」にあるのだ。
さらに、世界的に強いブランドを持つ企業ほど、自社の決意を表明するために非常に困難な「削減目標」を発表する。例えば、世界の20億人が利用し、サーバーの消費電力量が最大のGoogleは先頃、同社は2008年にすでに「カーボンニュートラル」を達成したと発表、さらに数億米ドルを風力・太陽光発電に投じ、クリーンエネルギー生産によって排出権を購入したいとしている。
マイクロソフト社も昨年、2012年には排出量を2007年の7割まで削減すると発表、HPは2004〜2010年の間、排出量を毎年3割削減したとしている。台湾の大手各社も類似した数字を発表している。このようにブランド企業による大胆な発表が続く中、苦労しているのは川上のサプライヤーである。特に台湾は世界的な主要産業のサプライチェーンの一環に位置するため、その圧力は大きい。
だが、これまで数々の競争に勝ち抜いてきた台湾企業は、10年前の京都議定書議決当初から省エネと排出量削減に着手してきた。一つにはグローバル社会の一員としての責任から、もう一つは市場を確保するため、もう一つは「省エネはコスト削減」という考えからである。原価削減につながるということから、すでに省エネに努力してきたのである。
以下に、台湾の電子産業がグリーン競争力を高めてきた5つの秘訣をご紹介する。
1.製造工程
TSMC(台湾セミコンダクター)のICウエハー工程に必要なクリーンルームでは、大量の空調設備によって空気清浄度を維持しなければならない。「以前は空気中の浮遊粒子を除去するために、循環システムは大量の空気を採り入れて排気する必要がありました」と話すのはTSMC環境安全処の許芳銘副処長だ。この電力消費を低減するために、TSMCでは十数年前から「最小化」を進めてきた。つまり、設備とウエハーが接触する空間やウエハーを移動させる空間を最小化し、その範囲内だけで最高の清浄度を保ち、周囲の室内空間の清浄標準を下げるという方法だ。
「TSMCが先頭に立ってこれを実施した結果、他のウエハー工場もこれに倣い、今では世界標準となっています」と許芳銘は言う。ここまで細部の省エネに努力しても、TSMC全体の1ヶ月の電力使用料は60億台湾ドルを超える。クリーンルームのドアから空気が漏れるのを防ぐため、人手を使って隙間をふさぐだけで10%の空調ロスを改善できるという。
2.グリーン設計
このように製造工程の改善によって排出量を削減することができる。だが、近年は製品ライフサイクルのカーボンフットプリント検証を通して、多くの電子・家電製品は使用時間が長い(多くの人は携帯電話を24時間オンにしている)ことから、使用段階での排出量が最も多いことがわかった。それは製造工程における排出量を超えることもある。
ASUSのN51Vを例に製品ライフサイクルにおける二酸化炭素排出量を見ると、使用段階が約4割(家庭用は37%、業務用は48%)を占める。AUOが受託生産する、カーボンフットプリント認証を取得した32インチの液晶テレビは、使用段階での排出量がライフサイクル全体の6割を占める。

企業の二酸化炭素排出量削減は電子産業が競争力を高めるためだけのものではない。従来型産業やサービス業もこの課題がもたらすリスクとチャンスを直視する必要がある。写真はセブン-イレブンが林口に設立した、太陽光と風力(中央のプロペラ)によって電力を供給する店舗。
「メーカーは自分には要求しますが、消費者の使用習慣まで変えることは困難です」とASUSの林全貴は言う。しかし、最先端の製品設計によって消費者が使用する際の消費電力量をコントロールすることはできる。「製品のライフサイクルにおけるカーボンフットプリントの多寡は、設計段階で決まるのです」と言い切る。
ASUSでは「グリーン設計」を重要な理念としている。有害物質の排除という面ではEUによるRoHS指令より何倍も厳格な基準(RoHSでは6種の物質の使用を禁止しているが、ASUSでは自主的に57種を管理)に則るだけでなく、省エネと高効率の面でも非常に優れた設計を行なっている。
当初は主にマザーボードを製造していたASUSは、マザーボード上にスーパー・ハイブリッド・エンジンを設け、使用状況に合わせて電力を有効に使用している。使用者の電力ニーズを精確にとらえて16段階に分けて動態的に微調整するものだ。例えば、パソコンをワープロとしてのみ使用する時は最小の電力で済み、音楽を聞いたり映像を見たりする時は消費電力がやや多くなり、ゲームをする時には全開にする。
「消費者の使用状況が100単位の電力しか必要としない時に150単位を与えることはしません」と林全貴は言う。この設計によって、エネルギー効率は一挙に33%高まった。
この他に、設計段階でリサイクルに配慮するのもエネルギー効率アップの手段だと言う。
林全貴によると、2000余りの部品を組み合わせたASUSのパソコンにネジは一つも用いておらず、分解しやすいよう、すべて凸凹で組み立ててある。溶接を用いないのは、相異なる材質(プラスチックと銅など)が融合すると、分類回収できなくなるからだ。

台湾の七大エネルギー集約型産業のエネルギー消費量 / 資料:エネルギー局2007年エネルギー・バランスシート
ASUSはマザーボードで節電を実現したが、電源ユニット大手のデルタ電子(台達電)は変換効率を向上させることで、世界の2億台に上るパソコンおよびサーバーのエネルギー効率を向上させた。
電源ユニットは、110Vの交流を安定した直流(12V、5V、3.3Vなど)へ変換するものだが、その際に不要な熱などの無駄が発生する。この変換効率を向上できれば、無駄を削減でき、大量の電力を使って放熱する必要もなくなる。
2002年に世界最大の電源ユニットメーカーとなったデルタの製品は、世界のノートパソコンとサーバーの半分、それにデスクトップの4分の1に採用されている。
「当社は毎月約1700万点の電源ユニットを生産していますから、変換効率を1%向上させるだけで、年間合わせると60万キロワットの発電所を1基減らすことができます」とデルタ電子総裁の柯子興は言う。同社の製品はこの5年、毎年0.5〜1%ずつ変換効率をアップさせてきた。
デルタ電子董事長の鄭崇華は、長年にわたって企業界に環境への配慮を呼びかけてきた。新エネルギーの開発にも早くから取り組み始め、2004年には旺能光電を設立して太陽電池の開発製造を開始、近年は風力発電機のインバーターや電気自動車の電力系統部品の開発なども行なっている。
最近はさらに「代々受け継がれる」テレビの設計も考えていると言う。筺体の大部分は長期間使用でき、コントロールパネルなどの消耗財を交換し、新しいソフトウェアを入れればアップグレードし続けることができるというものだ。このような、市場の原則に反する、買い替えを奨励しない設計は「揺りかごから揺りかごへ」という精神に基づくもので、これが消費者に受け入れられれば、省エネ・低炭素化にとっては最高のモデルとなるだろう。
3.サプライチェーン
製品のライフサイクルという角度から見ると、使用期間中の二酸化炭素排出量を削減するには、メーカーに業界を超えた努力を求めなければならない。また、使用期間に次いで排出量の多い部品供給面でもメーカーが統合して努力しなければならない。しかし、この分野には困難が多い。部品は種類が多くて複雑である上、サプライヤーの規模は大小さまざまで統合が難しいのである。
「部品製造段階での二酸化炭素排出量の削減こそ、最も頭の痛い課題です」とAUOの林立偉は言う。液晶パネルの部品にはガラス、プラスチック、金属フレーム、液晶、LED、冷陰極管などがあり、大小さまざまな500を超えるサプライヤーを相手に、炭素の足跡のデータを提供してもらい、さらにその削減を進めていくには大変な気力と労力が必要となる。
その話によると、世界市場を寡占している大手部品メーカーの中には、注文が引きも切らないという強みから、初歩的なカーボンフットプリントの数字さえ出さないところもあるという。例えば、ガラス基板の原価では電力と燃料費が大きな比率を占めているが、ガラス基板メーカーから提供される数字は公開されている原価明細と同じだ。日本のある化学品メーカーも同様だという。
こうした問題に遭遇した場合、現在のカーボンフットプリント準則では、同類製品の数字(他社または他国のガラス基板のデータ)で代替することができるが、こうしたデータを、製品ライフサイクルにおいて二酸化炭素排出量が10%以上を占める部分に用いることはできないのである。
このような国際大手の非協力的な態度とは違い、一般の中小の電子部品メーカーは、供給業者間の競争が激しいため、一つ一つルールに従うことを要求できる。しかし千社を超えるサプライヤーの管理方法こそ、サプライチェーンとその中心に位置するメーカーとが同時に低炭素化できるかどうかのカギを握っている。
「各サプライヤーに1人ずつ担当者を置いてもらっています」とASUS最高品質責任者の林全貴は言う。彼らは、コンピュータ上の発注システムがサプライヤー向けの技術規範サイトへリンクするようにしている。サプライヤーはネットで受注を確認する時に「強制的に」ASUSの最新の省エネ技術規範を読まされることとなり、必ずこの規範に従った製品を供給しなければならない。「知らされていなかった」という言い訳はできないのである。
4.輸送も大きなカギ
「以前は15インチのノートパソコンの梱包材が890グラムだったのを620グラムまで減量しました」と林全貴は言う。梱包材の減量と設計改良(外箱をやめて内箱の強度を高めるなど)を経て、それまでは航空用パレットに54台しか積めなかったところを78台まで積めるようにした。コンテナ用パレットには90台だったのが130台積めるようになり、ひとつのコンテナで840台多く運べるようになった。輸送効率は45%アップ、二酸化炭素排出量だけでなく、輸送費も大幅に削減できたのである。
これ以外に、輸送経路の短縮や合併も有効だ。特に製品のライフサイクルにおいて輸送が大きな排出量を占める場合は一層重要になる。
例えば、農産物は生産過程は単純だが、地球の裏側まで輸送すればカーボンフットプリントは激増し、将来的には販売に不利になる。
5.リサイクル
最後に、部品や製品がリサイクルできるか、回収した部品は何回使用できるか、廃棄物としての処理はどうするか、などもカーボンフットプリントに大きく影響する。この部分が良ければ、前段階のカーボンフットプリントから数字を差し引くことも可能なのである。
「リサイクル利用を可能にするには、川下のリサイクル業界にとって、経済規模があり、十分な誘因がなければ長続きしません」と話すのはTSMCの許芳銘だ。「環境にやさしい」という理念の下、TSMCでは競争ではなく協力を強調しており、近年は新型のリサイクル工場と協力している。
許芳銘は「静電気防止プラスチック袋」のリサイクルを例に挙げる。TSMCは毎月5トンの静電防止袋を製品の包装に使用している。アルミ素材を含有しているため本来はリサイクルできないのだが、国内の半導体および光電産業だけで毎月100トン近くと使用量が膨大で、体積も大きい。台湾ではゴミ埋立処理場を増やし難い現状と、世界の半導体業界では最終埋立量が回収率に取って代わろうとしていることから、TSMCではリサイクル技術の開発を指導することにした。
TSMCの支援の下、リサイクル企業はわずか200万元の投資でアルミとプラスチックを別けることに成功した。アルミはアルミ錠として再利用でき、プラスチック部分はプラスチックシューズの原料として利用できることとなった。TSMCは、同業者やサイエンスパークにもこの技術を紹介し、リサイクルを呼びかけている。
「二酸化炭素排出量を削減するには、一社の努力では足りません。産業界全体や国全体が取り組んでこそ成果が上がるのです」と許芳銘は強調する。
リスクか、チャンスか台湾経済の屋台骨である電子産業のこうした努力は高く評価できる。しかし、台湾が得ているカーボンフットプリント認証の半数以上はこの業界に集中しており、CDPのアンケート調査を見ると、従来型産業の回答率は低く、金融業に至っては1社しか回答していない。台湾の産業界全体における温室効果ガス排出削減の意識はまだまだ低いことがわかる。
「台湾では炭素税は実施されていませんし、温室効果ガス削減法も立法院で3年も棚上げされているため、EUのように総量規制ができないのです」と話すのは台北科技大学環境工学・管理研究所教授の胡憲倫だ。飴も鞭もなく、誘因も圧力もないまま、台湾の産業界は問題を先送りしているのである。
胡憲倫によると、総量規制が始まったら、産業界ではそれぞれの割当枠を交渉しなければならず、炭素税が課されれば自ずと「排出権取引」のメカニズムが形成されるという。
1997年の京都議定書により、各国は2012年までの削減目標を定めた。イギリスやドイツでは2005年に前倒しで目標を達成した後、新たな目標を定めて努力を続けている。政府が先頭に立って推進することで、新たな技術や代替エネルギーが多数開発され、それらが今では他国にはない強い競争力となっているのである。
低炭素経済が本格化する中、台湾の政府と企業はそのリスクとチャンスを直視し、自社と台湾のさらなるピークを目指して努力しなければならない。