百花斉放の台湾文学
天野健太郎さんの美しい翻訳と、日本の大衆をターゲットとした選書により、長年にわたって耕してきた市場でようやく成果が出始めた。
現在、日本の図書市場では毎年30部ほどの台湾の本が翻訳出版されており、小説のほかに、分衆向けの推理や妖怪物、文化歴史関連の作品も次々と出版されている。
この交流はコロナ禍でも途絶えることはなかった。2021年、数々の国際的な文学賞に輝き、「台湾の村上春樹」と呼ばれる呉明益の作品5部が次々と刊行された。『苦雨之地(雨の島)』、『複眼人』、『睡眠的航線(眠りの航路)』、『天橋上的魔術師(歩道橋の魔術師)』、『単車失窃記録(自転車泥棒)』の5部で、出版社はKADOKAWA、河出書房、白水社、文芸春秋の4社だ。さらに珍しいことに出版社が共同で呉明益と書評家の豊崎由美さんの対談をオンラインで配信し、大変な好評を博したのである。
同じくコロナ禍いおいて、台湾の「IT大臣」唐鳳(オードリー・タン)氏が大変な注目を集めた。日本の多くの出版社が取材に訪れ、インタビュー内容を本にまとめて次々と出版した。タン氏の母親の李雅卿氏が著した子育てに関する本も日本語に翻訳され出版された。こうして日本の出版市場にはオードリー・タン氏に関連する書籍が10部以上出回ることになったのである。
天野健太郎氏が亡くなった後、黄碧君さんは著作権エージェントと作家事務所の「太台本屋tai-tai books」を設立した。黄碧君さんの他に台湾と縁の深い日本人3人が、今も日本市場での台湾書籍出版に力を注いでいる。
太台本屋は出版社ではないが、「出版以外のことは何でもする」。彼らは出版業界の最前線に波を起こす。まず台湾の作品を選んで日本の出版社に推薦し、それから版権代理、翻訳を行ない、出版後はイベントを企画するなど、オンラインからオフラインまでを駆使し、日本市場で次々と台湾の話題を盛り上げている。
例えば、楊双子が翻訳調の文体で日本統治時代の台湾を描いた『台湾漫遊録(台湾漫遊鉄道のふたり)』は、日本ですでに四刷を重ねている。プロレスをテーマにした林育徳の『擂台旁辺(リングサイド)』は、日本のプロレスファンの間でも大きな話題となった。出版からすでに10年以上たっている紀蔚然の『私家探偵(台北プライベートアイ)』は、日本の読者投票で欧米文学を抜き「翻訳ミステリー大賞」に輝いた。
大衆文学へのニーズが高い台湾のマーケットは、こうして分衆化が成熟した日本の市場にかき回されることとなり、世に出て久しい数々の作品が改めて話題になることが増えてきた。これは台湾の大衆文学の作家にとって大いに励みになることであり、台湾文学の土壌にも新たなエネルギーが注がれている。
台湾の出版市場に精通した外国人翻訳者たちが、台湾を世界へと伝えてくれる。写真は2016年に開かれた「台湾文学外国語翻訳フォーラム」。天野健太郎氏(左端)と呉明益氏(右端)らが一堂に会した。(太台本屋提供)
2021年、日本で呉明益の小説5部が刊行された。人気作家とは言え、前代未聞のことである。(太台本屋提供)
日本の出版業界の第一線で活躍する黄碧君さん。日本での台湾の存在感を大いに高めている。
洪愛珠の『老派少女購物路線(オールド台湾食卓記――祖母、母、私の行きつけの店)』が太台本屋を介して日本で刊行され、東京の書店でイベントが開かれた。(太台本屋提供)