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加法の美学

加法の美学

魅力あふれるブレンド茶

文・蘇俐穎  写真・莊坤儒 翻訳・山口 雪菜

3月 2019

茶は味わうだけでなく、暮らしの中にゆったりとした時間をも たらしてくれるものでもある。

台湾は世界に知られる茶の産地だが、外国人観光客に、台湾の茶文化を体験したいと言われたら、あなたならどのようにアドバイスするだろう。

観光客でにぎわう台北の永康街。公園の傍らに静かにたたずむ「不二堂」には、朝の開店と同時に多くの人が詰めかける。

店内を眺めると、壁面には美しい茶筒が整然と並んでいる。紅色の茶筒には紅茶や鉄観音などの全発酵茶、山吹色の茶筒には半発酵の烏龍茶、青緑色の茶筒には碧螺春や包種などの未発酵茶が納められている。数十種類におよぶ茶葉が、台湾茶の地図を完璧に描き出す。

海外のティーブランドの多くは、ブレンドとフレーバー ティーで独自のイメージを打ち出している。(林格立撮影)

国境を越える味覚の冒険

若い世代に台湾茶を広めることを志すこの店では、「お茶は年寄りくさい」と思う若者の先入観を覆すために、さまざまな取り組みをしている。

伝統的に台湾では複数の茶葉を混合することはないが、不二堂ではいくつかのブレンド茶を提供している。

ブレンドした茶は、ストレートのようにシャープではなくマイルドだ。「緑茶の香りと紅茶の豊潤さを同時に味わえます」と不二堂プロジェクトマネージャーの王慧敏が取り出したのは、藤色の茶筒に入った「台湾郎」だ。阿里山の翠玉烏龍と日月潭の紅韻のブレンドで、この店の代表作である。

これだけではない。不二堂は今年、日本の老舗ブランド「辻利」と共同で「北緑抹茶」を打ち出した。台湾茶の三峡四季春緑茶と、日本の抹茶をブレンドしたもので、口に含むとまず緑茶の軽やかな香りが広がり、喉を通った後、控えめな抹茶の味わいが後から追いかけてくるというブレンド茶の魅力が味わえる。

「不二堂」は伝統を打ち破り、現代的手法で台湾茶文化の美を紹介する。

調合で世界を魅了

台湾人はブレンド茶に馴染みがないが、海外では早くから産地や品種の異なる茶葉に、花やフルーツ、ハーブ、カラメル、チョコレートなどの味や香りを加えたブレンドティーが普及している。

その歴史は第二次世界大戦直後にさかのぼる。当時、戦争中に売れ残った茶葉を売りさばく必要があったが、古くなった茶葉は雑味があり、それを消すために西洋の茶商は異なる食材をブレンドするようになったのである。同時に、戦後の荒廃から立ち直ろうとする消費者も、新しいブレンドティーに新たな時代の到来を感じ、大流行した。

また、西洋では生産されない茶葉を世界に売り込むために、西洋の茶商は品質の揃わない「農作物」にさまざまな調合を施すことで品質と価格を安定させ、さらに独特の風味を持たせて「商品化」に成功したのである。

だが現在のブレンドティーは、このような質の悪いものではなく、世界に名だたるブランドやロングセラーも多い。

茶は世界で飲まれているが、台湾では今もストレートが主流で、ブレンド茶は粗悪品だと考えられがちだ。

「台湾人はストレートティーを飲み慣れていますが、それは台湾が茶葉の産地だからです」と紅茶専門家の楊玉琴は言う。台湾では茶葉が簡単に手に入り、大،ي嶺、梨山、杉林渓など、好みの産地で選ぶ人が多いのである。

おじいさん、おばあさんが大きなテーブルを囲み、大勢で熱いお茶を飲むという光景は、多くの人の記憶にある。こうした「老人茶」のイメージを払拭し、世界で流行しているタピオカ入りミルクティーのように新たな道を開くには、「加法」を利用してブレンド茶を作り出すのも一つの手段であろう。

「不二堂」は伝統を打ち破り、現代的手法で台湾茶文化の美を紹介する。

台湾の風土をブレンド

新しい方法で台湾茶を発展させようと考えているのは不二堂だけではない。小雨の降る朝、私は台北西門町にある「八拾捌茶輪番所」を訪ねた。

西門町の西本願寺広場、その横にある茶館は、かつて日本人住職の宿舎だった建物で、外国人観光客が多いエリアにあって、禅の雰囲気を感じさせる。台湾の代表的な茶をベースに、さまざまな飲み方を紹介しており、旅の疲れをいやしてくれる。

八拾捌茶では、台湾産の烏龍茶、紅茶、緑茶をベースにして30種近い台湾の農産物をブレンドする。キンモクセイやハクモクレン、バラ、マンゴーやバナナなどは想像の範囲内だが、この他に先住民が使う香辛料のカラスザンショウやアオモジ、それに台湾の代表的な樹木であるヒノキやショウナンボクもある。

茶葉に他の食材をブレンドすれば、台湾らしい滋味が生まれる。

茶に花の香りを

焙煎師の周潔鈴が簡単なハクモクレン烏龍茶の作り方を教えてくれた。ハクモクレンの花6輪と烏龍茶60グラムをガラスの皿に交互に重ね、アルミ箔で覆って電気釜で30分加熱、それを浅い鍋で炒って乾かし、3日寝かせれば完成だ。

これは古くから伝わる花茶の作り方で「窨」(yinまたはxunと読む)と呼ばれる。工業化で失われた古い製茶工芸だが、近年は一部の若者がこの技術をよみがえらせた。

茶の産地、嘉義の「丁式茶」でも独特の花茶を作っている。

「彼女がキンモクセイ烏龍茶が好きなのがきっかけでした」と丁式茶を経営する鍾明志は言う。茶農家の後継ぎである彼は、家に残る古い農業文献をあさり、ついに参考になる資料を見つけた。

西洋のフレーバーティーの多くはエッセンスオイルを吹き付けたもので、美観のために少量の花びらやドライフルーツが加えられている。しかし「台湾は湿度が高いので、花弁は変質しやすく、果物を入れれば虫が湧いてしまいます」と鍾明志は言う。

彼が見つけた中国古来のكJ工芸の資料によると、まず雑味を除くために花の茎や萼を取り除き、茶と花を幾重にも重ねて加熱する。加熱することで花の香りが放出されるが、茶葉が湿気てしまうため温度を管理し、加熱と冷却と乾燥を3〜5回繰り返さなければならない。

丁式茶ではキンモクセイとジンジャーリリー、ガンショウカの3種の花茶を作っている。花茶と言うと多くの人がジャスミンティを思い浮かべるが、台湾では茶の中でも花茶の地位は低く、花茶には質の悪い茶葉が使われていると言われることさえある。

こうした言い方に反発し、鍾明志は実家が梅山郷太和村で生産する高山烏龍茶をベースにしており、丁式茶ではこの花茶をメイン商品にしている。伝統的な茶葉専門店が林立し、カフェが100軒を超える激戦区の嘉義市内にあって、丁式茶は独特の存在だ。

カウンターに座って花茶をいただくと、白い花の清々しさと高山茶の優雅な香りが相まってとまらなくなる。

鍾明志は、製茶の秘訣は茶葉をよく見て茶葉にふさわしい茶にすることだと言う。花茶も同じである。「すべての茶葉が花茶に向いているわけではなく、すべての花が花茶にふさわしいわけではありません」と言う。

キンモクセイとガンショウカには、アプリコットやバナナ、パイナップルなどの甘いフルーツのような香りがあり、クリームの香りがする金萱烏龍茶がよく合う。新ショウガの穏やかな辛味を感じさせるジンジャーリリーには蘭の香りを感じさせる青心烏龍がマッチする。

花茶を淹れると、熱いうちは茶の香りが立ち、少し冷めてくると今度は花の香りが際立ってくる。いずれもベースは馴染みのある台湾烏龍だが、茶の香りと花の香りが交互に来て、お茶の楽しみが増すというものだ。

実は、鍾明志は実家の茶畑が好きでもあり嫌いでもある。子供の頃、学校が休みになっても友達のように遊びに行くこともできず、いつも茶畑の仕事を手伝わされたからだ。「ですから、大学受験の時は、家から一番遠い学校を選んだほどです」と言う。

その後、十年前の八八水害(2009年の台風八号)で茶畑は大きな被害に遭い、彼は帰省して家業を引き継ぐことを決意した。彼は父親が築いた家業を基礎に新たな道を見出し、オリジナルのティーブランドを打ち出した。失われていた製茶技術を再現して現代的な茶館を開いたのである。考え方の違いから、以前は家族と衝突することも多かったが、今は誇れる業績も上げられるようになった。「お茶がおもしろいのは、千変万化するところです」と、かつて茶畑から逃げ出したくてたまらなかったかった子供が、今は心からそう語るのである。

魅力的なフレーバーティーは、若い世代を茶の世界に引き入れるきっかけとなる。

茶は味わうだけでなく、暮らしの中にゆったりとした時間をも たらしてくれるものでもある。

茶農家の二代目である鍾明志は、小さな店で自分のブランドを打ち出した。

丁式茶は和洋折衷の店構えで珍しい窨花茶を扱っている。茶葉専門店が林立する嘉義でファッショナブルな一軒である。