茶に花の香りを
焙煎師の周潔鈴が簡単なハクモクレン烏龍茶の作り方を教えてくれた。ハクモクレンの花6輪と烏龍茶60グラムをガラスの皿に交互に重ね、アルミ箔で覆って電気釜で30分加熱、それを浅い鍋で炒って乾かし、3日寝かせれば完成だ。
これは古くから伝わる花茶の作り方で「窨」(yinまたはxunと読む)と呼ばれる。工業化で失われた古い製茶工芸だが、近年は一部の若者がこの技術をよみがえらせた。
茶の産地、嘉義の「丁式茶」でも独特の花茶を作っている。
「彼女がキンモクセイ烏龍茶が好きなのがきっかけでした」と丁式茶を経営する鍾明志は言う。茶農家の後継ぎである彼は、家に残る古い農業文献をあさり、ついに参考になる資料を見つけた。
西洋のフレーバーティーの多くはエッセンスオイルを吹き付けたもので、美観のために少量の花びらやドライフルーツが加えられている。しかし「台湾は湿度が高いので、花弁は変質しやすく、果物を入れれば虫が湧いてしまいます」と鍾明志は言う。
彼が見つけた中国古来のكJ工芸の資料によると、まず雑味を除くために花の茎や萼を取り除き、茶と花を幾重にも重ねて加熱する。加熱することで花の香りが放出されるが、茶葉が湿気てしまうため温度を管理し、加熱と冷却と乾燥を3〜5回繰り返さなければならない。
丁式茶ではキンモクセイとジンジャーリリー、ガンショウカの3種の花茶を作っている。花茶と言うと多くの人がジャスミンティを思い浮かべるが、台湾では茶の中でも花茶の地位は低く、花茶には質の悪い茶葉が使われていると言われることさえある。
こうした言い方に反発し、鍾明志は実家が梅山郷太和村で生産する高山烏龍茶をベースにしており、丁式茶ではこの花茶をメイン商品にしている。伝統的な茶葉専門店が林立し、カフェが100軒を超える激戦区の嘉義市内にあって、丁式茶は独特の存在だ。
カウンターに座って花茶をいただくと、白い花の清々しさと高山茶の優雅な香りが相まってとまらなくなる。
鍾明志は、製茶の秘訣は茶葉をよく見て茶葉にふさわしい茶にすることだと言う。花茶も同じである。「すべての茶葉が花茶に向いているわけではなく、すべての花が花茶にふさわしいわけではありません」と言う。
キンモクセイとガンショウカには、アプリコットやバナナ、パイナップルなどの甘いフルーツのような香りがあり、クリームの香りがする金萱烏龍茶がよく合う。新ショウガの穏やかな辛味を感じさせるジンジャーリリーには蘭の香りを感じさせる青心烏龍がマッチする。
花茶を淹れると、熱いうちは茶の香りが立ち、少し冷めてくると今度は花の香りが際立ってくる。いずれもベースは馴染みのある台湾烏龍だが、茶の香りと花の香りが交互に来て、お茶の楽しみが増すというものだ。
実は、鍾明志は実家の茶畑が好きでもあり嫌いでもある。子供の頃、学校が休みになっても友達のように遊びに行くこともできず、いつも茶畑の仕事を手伝わされたからだ。「ですから、大学受験の時は、家から一番遠い学校を選んだほどです」と言う。
その後、十年前の八八水害(2009年の台風八号)で茶畑は大きな被害に遭い、彼は帰省して家業を引き継ぐことを決意した。彼は父親が築いた家業を基礎に新たな道を見出し、オリジナルのティーブランドを打ち出した。失われていた製茶技術を再現して現代的な茶館を開いたのである。考え方の違いから、以前は家族と衝突することも多かったが、今は誇れる業績も上げられるようになった。「お茶がおもしろいのは、千変万化するところです」と、かつて茶畑から逃げ出したくてたまらなかったかった子供が、今は心からそう語るのである。
魅力的なフレーバーティーは、若い世代を茶の世界に引き入れるきっかけとなる。
茶は味わうだけでなく、暮らしの中にゆったりとした時間をも たらしてくれるものでもある。
茶農家の二代目である鍾明志は、小さな店で自分のブランドを打ち出した。
丁式茶は和洋折衷の店構えで珍しい窨花茶を扱っている。茶葉専門店が林立する嘉義でファッショナブルな一軒である。