違いを受け入れる優しさ
林幸萩の経歴を聞くと、童里のビジネスモデル選択の理由が見えてくる。
1999年に淡江大学フランス文学科を卒業した彼女は、フランス語書籍専門店「信鴿法国書店(Librairie Le Pigeonnier)」に就職、社長のフランソワーズ・ジルベルベルグ(漢名は施蘭芳)の信頼を得て、同店の設立期から経営が軌道に乗るまでの運営や管理、海外との取引き、会計、公式サイトのバックエンド、イベントや展示会企画をこなし、あらゆる仕事の基本を身に付けた。
個性的な考えを持ち、話し方も率直な林幸萩は、かつての社長のこととなると思いがこもる。かなり癖の強い性格をした自分をジルベルベルグが寛容に受け入れてくれたおかげで、生まれて初めてありのままの自分でいられたと林は言う。
そこで受けた優しさはまるで植えられたタネのように、やがて彼女の中で芽を出した。2016年、彼女は独立を決意。視覚芸術が好きだったのと、人々との対話の機会も持ちたかったので、絵本を扱う道を選んだ。
海外の出版社や創作者とも長く関わってきたので、主流の有名な児童書は避け、芸術性や文学性、哲学性の高いマイナーな作品を厳選できた。
彼女はそれぞれの絵本がどれほど美しいかを語る。例えばフランスのデビッド・サラによる新たな解釈の『美女と野獣』は、クリムトの絵を思わせる豪華な箔押しが施されている。フランスの著名な絵本作家、レベッカ・ドートゥルメールの『MIDI PILE ; une aventure de Jacominus Gainsborough(正午ちょうど ジャコミヌス・ゲインズボロの冒険)』は、精緻な重ね切り絵によって、映画さながらのラブストーリーが展開される。ほかにも、まるで手帳に気ままに落書きしたかのような独創的な内容で、パンデミックの間によく売れたオリヴィエ・グランソンの『Le nageur solitaire: Voyage en 2020 Année hystérique(孤独なスイマー ヒステリックな年の旅)』もある。
色彩やデザイン、装丁のどれもが「童里」に並ぶ本はユニークだ。「違うことが私は好きです。人はみな違うのですから」と林幸萩は言う。かつて優しく受け入れられた経験によって、今やほかの人に優しく枝を伸ばす大樹となり、読者と創作者にとっての「夢の時間」を創り出す。
本棚に書籍をぎっしり並べるのではなく、それぞれ個性ある表紙が見えるように絵本は平置きされている。