人形は多くの人にとって子供時代の思い出であり、一緒に育った友だろう。今、フィギュアが子供だけのものでなく、大人を癒し、ステータスを象徴するコレクションにもなっている。
台湾では「公仔(フィギュア)」が人気キーワードとなり、企業のマーケティングツールとして、文化クリエイティブの産物として、美術館の殿堂入りも果たし、ファンに愛される。フィギュア文化が反映する社会の意味は何だろう。台湾人はどれほどフィギュアに惚れ込んでいるのか。
猛暑の中、第9回台北トイ・フェスティバルは人気爆発、香港流行フィギュアデザイナーのケニー・ウォン(王信明)のブースには人が押し寄せ、サイン待ちの列ができた。台北怪獣公司が主催するフェスティバルは、初回の2003年の入場者数4000~5000人から、今年は2万~3万人に達した。入場者層は25~30歳から12歳までと幅広い。
日・米系玩具を専門に代理する台北怪獣公司・総監の黄仁寿は、玩具店経営の利益でフェスティバルを開催した。一度きりのはずが回を重ねるたびに大規模になり、台湾のファンだけでなく、香港、日、米、仏、西、中、韓のデザイナーが自費で出展する。「今やアジア太平洋地域で最も重要なフィギュアデザイナーの交流の場です」と黄仁寿は笑う。

五月天のドラマー・冠佑と香港のトイ・デザイナー、ウィリアム・ツァン(曾志威)のコラボによる12インチのフィギュア。
わずか数年で「公仔」は台湾の人気キーワードになった。公仔とは香港で人形を指す言葉である。台湾の玩具産業は米・日・香港の影響を受けてきた。 1967年バービー人形のマテル社が台北県泰山郷(現新北市泰山区)に美寧工場を設立した。当時世界最大のバービー製造工場として、日産2万体を超えた。美と流行を一身に集めたバービーは1960~70年代生れにとって憧れの人形だった。
近年『パイレーツ・オブ・カリビアン』『バットマン』『トランスフォーマー』『アイアンマン』『キャプテン・アメリカ』等のハリウッド映画がヒットし、中年世代が昔を思い出すとともに、眠っていた人形が一躍ホットなコレクションに変身した。
「アメリカ系玩具はヒーローやミリタリーキャラが人気で、表情がリアルなほどコレクション価値が高くなります」フィギュア企画経験十数年の香港豊朶公司マーケティング総監・詹;嘉慧はいう。日本のアニメや漫画に深く影響されている台湾人は、ハロー・キティ、ドラえもん、ちびまる子ちゃん、鉄腕アトム、ワンピース等なら誰でも知っている。日本は毎年新しい漫画や動画、映画と関連商品を生み出し、フィギュア人気を高め、キュートなキャラほど人気が出てよく売れるという。
ストリート系フィギュアは香港で生まれた。1999年、香港のマイケル・ラウ(劉建文)が12インチのGardenerフィギュア1000体を限定販売した。スケートボード、サーフィン、バスケットボール等のストリートスポーツや、タトゥ、ピアス、ストリートファッションで、香港のストリート文化をリードする形になった。詹;嘉慧によると、マイケル・ラウやケニー・ウォンは当初、日本のデザイナーと協力し、カリスマ的魅力を生み出して高校・大学生をターゲットに急速にヒットした。
台湾は米・日・香港のフィギュア文化のエネルギーを融合したが、金型開発とオリジナルブランド創作には多大な費用がかかるため、台湾のデザイナーにはまだ努力が必要だった。現在国内でポテンシャルのあるフィギュア人材としては、漫画家の阿推、「キャプテンバター」のニックネームをもつ玩具構造デザイナーの林孟志、音楽CDジャケットデザイナーの李明道等のフィギュアに人気がある。
玩具を熱愛する林孟志は、台湾芸術大学彫塑学部に進み、卒業後は自らデザインしたフィギュアで志望どおり玩具メーカー台湾最大手の凱華実業に入社した。日系キャラクターの製作に携わったが、ドラえもん、キティ、ちびまる子ちゃんを描くばかりの毎日に耐えかね、辞職を決心する。最愛のハンバーガーでフィギュアをデザインし、国内デザイナーもオリジナルブランドを立ち上げることを願った。

詹嘉慧がセブン-イレブンのために企画したスヌーピー台湾周遊とちびまる子ちゃんのスタンプは、コンビニのポイント収集ブームに火を付けた。
フィギュアブランドを立ち上げるのは容易ではない。赤いヘッドギアにクリクリの目、ラグビーボールを抱えた大同宝宝は、家電メーカー大同が1969年に作ったキャラクターで、台湾最初のフィギュアといえる。一時は人気を誇ったが、バービーやキティ、ドラえもんのようなロングランにはならなかった。フィギュア文化がまだ育っていなかった。
2003年にコンビニが実施したポイントを集めてフィギュアをもらうキャンペーンでブームが起き、フィギュア文化が定着した。コンビニは相変わらず日系と米系キャラの天下だった。2004年に詹;嘉慧はセブン-イレブンのスヌーピー台湾周遊シリーズを企画した。60万体準備したフィギュアが1ヶ月で58万体出た。
「オープンちゃん」は国内オリジナルフィギュアが成功した数少ない事例である。企業マスコットから国際化した台湾初のキャラクターであり、ファミリーは現在7名で台湾最大の人気を誇る。2005年にセブン-イレブンが行ったシールを集めるとオープンちゃんストラップがもらえるキャンペーンでは、30万個が一週間で品切れになった。翌年、勢いに乗じてオープンちゃんクッションを399元で売り出すと、2週間で2万個を完売した。
銘伝大学商品デザイン学科助理教授・陳娟宇によると、米・日フィギュアは、漫画からアニメに発展し、表情や個性やストーリーが与えられてから関連商品が派生して、市場における寿命を維持している。一方セブン-イレブンは、まず企業のマスコットフィギュアがあり、知名度を確立してからファミリーとストーリーを展開して育成し、将来はアニメを制作する。新たな手法といえる。
フィギュア文化の流行で、コレクターがそこに思い出を見出す心の拠り所となっていった。
社会に出て収入ができると、林孟志は計画的にフィギュアを収集し始めた。兵役を終えて家に戻ると、子供の頃の玩具が母に全部捨てられていた。そこで「自分への償い」として収入の大部分を玩具の購入に充てることに決めた。「フィギュアをコレクションするのはプレミアのためでなく、気分がよくなるからです。誰でも心に子供が住んでいるはず」と笑う。
詹;嘉慧も、子供時代の不満への穴埋めやレトロブームが、フィギュア流行の推進力だという。1960~70年代生れが親しんだ『ガッチャマン』『マジンガーZ』『鉄腕アトム』『スマーフ』等、数量限定フィギュアが出るたびにコレクターを刺激する。
今年50歳になる黄仁寿は、高校の初恋の彼女にもらったミッキーとミニーのフィギュアを大切にしている。当時2人で映画を見に行ったロマンチックな思い出がよみがえり、幸せな気持ちになる。

映画「アイアンマン」からインスピレーションを得たフィギュア。
フィギュアは癒しの効果だけでなく、所蔵価値もある。特に海外の著名デザイナーの作品は、希少性とデザイン性で所蔵価値と値上りが見込める。フィギュアが値上りする二大条件は、数量限定で商品ではなくアートと見なし、コレクター独自のセンスを強調できること、次にデザイナーのネームバリューで、ストリートブランドやタレントとのコラボなら更に価値が上がると陳娟宇は話す。
詹;嘉慧によると、投資価値のある玩具は、世界的な定番玩具、流行デザイナーの限定版、アーティストデザインである。数が多いコンビニやファストフードのおまけは投資価値が低い。
日本のアーティスト奈良美智の新作品「森ガール」の場合、一体15万元、台湾は10体限定で7月25日発売の一ヶ月前に予約完売している。4~5年前に黄仁寿が4万元台で購入した「リトルワンダラー」は奈良美智の直筆サイン入りで、オークションサイトで60万元、11倍に跳ね上がった。
ニュース性のあるテーマも所蔵価値が上がる。陳娟宇の研究では、欧米で高価格のフィギュアは、ドクロや凶悪な表情や反逆的な造形である。レゴブロックのビン・ラディンやブッシュ、金正日、カダフィ等は政治的パロディの意味合いが強い。

今年の台北国際トイ・フェスティバルに展示された台南科技大学の王毓安らの作品。台湾の夜市をテーマとした台湾らしいフィギュアである。
台湾の国内玩具市場は、企業フィギュアとデザイナーフィギュアの二大主流に分類できる。
セブン-イレブンのオープンちゃんファミリーの場合、2005年の発売以来、千種類以上のライセンス商品が生れている。セブン-イレブンの統一超商整合マーケティング部長・劉鴻徴は、オープンちゃん関連のライセンス商品の収益は昨年12億元に達し、今年は15億元を超えるという。高単価のライセンス商品に的を絞り、自動車メーカーの中華汽車や裕隆日産と協力し、電動バイクとMARCHに図案をつける。
一方、デザイナーズフィギュアは玩具、商品からアート、絵画のレベルに昇華し、芸術品オークションで作品価値も上がっている。2006年ケニー・ウォンは経験からインスピレーションを得て、金髪、青い目、口をとがらせた女の子Mollyを創作した。数年で名が売れ、シンガポール、台湾、マレーシアに多くのファンを擁する。今年、台北トイ・フェスティバルに出展した20作近いモリーの油絵は、瞬く間に予約完売した。
詹;嘉慧によると、村上隆、奈良美智、草間禰生、マイケル・ラウ、KAWS等がデザインしたフィギュアは公認の芸術品とされる。マイケル・ラウは当初、フィギュアを日本のデパートや流行ショップで販売していた。2007年にスポーツブランドのナイキに依頼され、NBAのスター選手コービー・ブライアント、ブラジルのサッカー選手ロナウジーニョ、テニス王ロジャー・フェデラー等の限定版フィギュアをデザインし、ナイキのチャリティオークションでのみ販売されたため、マイケル・ラウとその作品の価値が高まった。
フィギュア文化の発展で、素材もテーマも造形もスタイルもますます多様化している。ぬいぐるみ、人形、ガンダム、トランスフォーマーもひっくるめて、フィギュアが玩具の代名詞になっている。
香港のリチャード・ウォンとバンダイとがコラボしたガンダムシリーズフィギュアは、世界で150万体以上売れている。Mr.ジョー・モデルスタジオの林子喬によると、バンダイは32年間でガンダムプラモを数万キット販売しているが、フィギュアとプラモの違いは自分で作る達成感にあるという。

海賊バーガーは、デザイナーの林孟志(キャプテンバター)が3年間も毎日ノートにイラストを描き続けて構想した末に誕生した。
文化産業を研究する台北市文化局局長・劉維公は、フィギュアは歴史文化と時代様式の縮図だという。自身はフィギュアは集めないが、ガチャポンにハマっていたことがあると言う。勉学に苦労したドイツ留学時代、ガチャポンを買いに行く習慣ができた。何が出てくるか分からない刺激もあった。「カプセルを振って中身を当てました。一度に3つも5つも買っては痛快な気分でした」ガチャポンを1個買えば関連する記憶も一緒に買ったように、ドイツと深い繋がりを持てた。
劉維公は学生からガチャポンを贈られたことがある。中身は困ったような眉のトーフのフィギュアで、新世代の寂しさが垣間見えた。「今時は一人親家庭やひとりっ子が多いので、玩具で自分の世界を作る必要がもっとあるのです」
デザイナーにとってもコレクターにとっても、フィギュアは子供のオモチャだけではない。無限のデザインが生み出す幻想の世界こそが、フィギュア最大の魅力として人を惹きつけている。

ガンダム・モデルの達人、林子喬が「2011年ガンプラビルダーズワールドカップ」台湾大会で優勝した作品。

香港と日本のデザイナーが共同デザインしたMollyとトーフ親子は東南アジアに多くのファンを擁する。

香港のケニー・ウォン(王信明)が創作したMolly。恐竜の着ぐるみが可愛らしい。

すでに40代のケニー・ウォン(右ページ写真の左)と黄仁寿(同右)は今も子供の心を失わず、フィギュアの世界に浸っている。