ビジュアルデザインの展覧会
「デザインのないところはない」という理念から、広報誌自体もビジュアルアートの展覧であると考える。そこで編集部のデザインチームも大胆に創意を発揮し、毎号さまざまな実験的チャレンジをしている。例えば創刊号の表紙はスクラッチくじになっている。第2号は「愚人‧娯人」というタイトルで、一部の読者は一冊全て真っ白いページの広報誌を受け取ることとなった。これはエイプリルフールのいたずらなのである。
さらに第9号では点字を用いて「溝通」(コミュニケーション)の二文字を刻み、触覚、視覚、あるいは純粋な感覚による読者とのコミュニケーションを試みた。第10号の「声音」では実際に大きな音を出してほしいと考え、表紙にかけたカバーで紙鉄砲を作れるようにした。
デザインを担当する王慧絹は、『本事』は時には繊細に、時には無骨にするという。繊細なものとしては第3号の「迷不迷、信不信」が挙げられる。表紙の網点にデザインを施し、表紙カバーの位置をずらすことで立体的な幻影が見えるような錯覚を起こす仕組みになっている。一方、第6号の「工具美」は敢えて無骨なデザインを採用した。留め具がむき出しの装丁にし、付録の「工具」を使って読者が開いていくという仕組みで、アンカットの本に仕上がる。第8号の「大王時代」はすべて漫画の一冊だ。
世界各地の有名ホールで活躍してきた名指揮者でもある簡文彬は「子供の頃から絵は大の苦手だった」が、『本事』第4号のために、宇宙人へのメッセージとしていたずら書きを寄せた。
衛武営には『本事』を求める電話が多数かかってくるため、第2号からは贈呈ではなく、誠品書店や独立書店での販売に切り替えた。今年は香港の書店も扱うようになり、人気を博している。
毎号序文を寄せている簡文彬はこう話す。「この小冊子は衛武営の一部分であり、読者に鑑賞していただきたいのです」『Amazing』と『本事』は、衰退しつつある印刷媒体が今も力強いメッセージを伝えていることを示している。
『本事』の編集理念は衛武営国家芸術文化センターの建築理念と同じで、人とアートとの境界を打ち破るというものだ。
衛武営エグゼクティブ・ディレクターの簡文彬は、『本事』は鍛えぬいた人、事、物を表現する一冊だと考えている。
衛武営の広報誌『本事』は創意に満ちていて、デザイン面でもさまざまなチャレンジをしている。
オニオンデザインの編集チームは、『本事』の編集は玉山に登るようなものだと考えている。毎回もう二度と来たくないと思いつつ、その達成感から何度も試みるのである。
屏東県広報誌が「柚園生態農場」を紹介したのは「場所が遠いところほど紹介し、知る人の少ない『良いもの』ほど紹介する必要がある」という考えからだ。