移民の島に集まる多彩な文化
しかし、洪晧倫が工房の庭で栽培する「チョウマメ」は、タイやマレーシアによくみられ、近年台湾でも流行している。花はアントシアニンが豊富に含まれる最高の天然染料で、東南アジアでは食用とされるが、洪は顔料の原料にしている。こうしたことから、大地の環境から来た自然の色彩も、変わり続けていることがうかがえる。
昔の人は、色を手に入れるためにあらゆる苦労を重ね、代価を惜しまなかった。科学技術が発達し、交通も情報交換も便利な今日、どんな珍しい色も不思議ではない。色彩の百花繚乱は、グローバル化の結果であり、それぞれの文化が互いに刺激しあい、交流していることを表している。
何でも選べるなかからどんな色彩を好むかは、世代による審美眼のギャップだけでなく、文化の脈絡と生命の経験への共感に、より多く依存する。四百世帯未満の馬祖‧南澳集落で特定の色彩の使用を推進するに当り、「北緯26度の島の色」チームは、時間と手間をかけて住民と話し合いを重ねたのだった。
各地からの新旧の移住者が集まり、高度に発達した経済都市は、法規制が無ければ、それこそ百花繚乱の景観になるだろう。台北を歩いてみれば、清代の「和璽彩画」で官の色彩をもつ故宮博物院や国立シアター‧ミュージックホールがあり、日本統治時代に日本人が建設した赤‧白‧灰の三色からなる総統府、戦後に建てられモダニズムの影響を深く受けた白いオフィスビル、さらに住商混合の集合住宅、様々な色使いの外壁レンガ、看板、雨除けの庇、トタン屋根などがある。
一層多様な現代の材質、産業も背景も異なる人々が一つの地に共存する色とりどりの眺めが、台湾人の日常である。「良く言えば、民主主義です」と文化遺産を研究する凌宗魁が言う。
日本文化の「和の色」のように、歴史ある国には、色彩において極めて明らかな好みと表現がある。だが広く移民を受け入れてきた台湾には、代表的な色彩といえるものがない。この現象が映し出すものこそ、台湾文化のユニークさである。小さな島に、わずか数百年の間に異なるエスニックが融合し、それぞれ異なる出自や背景をもちながら、一つの地に暮らす。すべてを圧倒する権威ではなく、それよりは流動する中にあって、調和と融合の力が強まっていった。だからこそ「台湾の色はどんな色?」と振り返って問うとき、この色鮮やかな国で、すべての色彩はどれも欠かせない存在なのである。
タイワンコマツナギの葉を洗い、濾し、乾かし、挽くことでインディゴ染料を取ることができる。
「台湾土地紀行シリーズ」(洪晧倫/台湾大地原色工作室提供)
「ギンコウボク01」(洪晧倫/台湾大地原色工作室提供)
「暮光——野草」(洪晧倫/台湾大地原色工作室提供)
「杉林渓——植顔」(洪晧倫/台湾大地原色工作室提供)
自然界から得たさまざまな顔料は、台湾の豊かな自然資源と多様な文化や歴史を象徴している。
「植物を用いて植物を描く」「地のものを用いて地のものを描く」というのは芸術家のロマンと言えるだろう。