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市民科学の「新年バード‧カウント‧カーニバル」プロジェクトでは、台南の七股でユリカモメとダイサギの姿が確認された。(呂翊維撮影)
「路殺社」と「路透社(ロイターの中国語)」、「慕光之域」と吸血鬼映画「慕光之城(邦題は「トワイライト」)」は関係があるのだろうか。ネット上でこのようにユーモラスに話題になっているのは市民科学団体である。これら市民科学団体を推進しているのは、生態保全の重責を担う研究者たちである。彼らがネット上で呼びかけると、千人単位の人々を動員できる。すべては生物の記録を残し、その命を守るためだ。
2019年の夏、農作物の大敵とされる害虫のツマジロクサヨトウが西南からの気流に乗って台湾へ飛来し、農家も農政部門も臨戦態勢に入った。世論が騒ぎ立てる中、ネット上にはこんな噂が流れ始めた。——「ツマジロクサヨトウは初めて台湾に来たわけではなく、十年前から台湾にいる」というのである。
そこで、特有生物研究保育(固有生物研究保全)センターの副主任で、市民科学団体「慕光之城-蛾類世界」の創設者でもある林旭宏が、2010年以来の25万件(2022年10月現在は51万件)にのぼる台湾のガ類調査資料を取り出してみると、そこにはツマジロクサヨトウに関する記録は1件もなく、科学的根拠を持って噂を打ち消すことができた。
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全国各地でボランティアが調査することで、それまで研究員が単独で行なっていた調査のデータ量を大幅に増やすことができる。(呂佳家撮影/BBS Taiwan提供)
一般市民の貢献
市民科学(シチズン‧サイエンス)とは、一般市民が科学者と協力して科学研究を行なう方法の一つである。この言葉は1995年にイギリスの社会学者アラン‧アーウィンが提唱し、後に各種科学調査研究に運用されることとなった。自然生態調査のほかに、気象、天文、環境保全などの分野でよく行なわれている。
「情報の提供者は、同時に使用者でもあるというのが市民科学の特徴です」と特有生物研究保育センター研究助手の林大利は説明する。例えば、車を運転している人が交通事故を目撃したら、ラジオ局に電話をして知らせるように、郊外に遊びに行って、目にした動植物を写真に撮る時に、それを特定のプラットフォームにアップする。市民科学のデータの源は、こうした一般の人々のひと手間から来ているのである。個人で記録するのと違うのは、これらのデータが公開‧整理されてビッグデータとなり、さらに解読されることでユーザーが恩恵を受けるだけでなく、思いがけないところで大きな役割を果たすことだ。
米国コーネル大学「鳥類学研究室」が打ち出した鳥類のオンラインデータバンク「eBird」は、世界に知られる市民科学プロジェクトの一つだ。この世界最大の鳥類情報プラットフォームには、世界中のバードウォッチャーからデータが送られてくる。長年にわたってビッグデータが蓄積されており、バードウォッチャーは地域や鳥類ごとに調べることができ、さらに気候変動が生物種にもたらす影響の研究にも役立つ。
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「慕光之城-蛾類世界」を立ち上げた林旭宏。
鳥類に関する四大市民科学プロジェクト
一般市民にとって、鳥は美しく、観察しやすい生物であり、生態観察の中でも最も盛んな活動の一つである。これは世界中どこも同じだ。そこで特有生物研究保育センターでは、ここから着手することとし、計画的に鳥類を対象とする四つの市民科学プロジェクトを開始した。「四つの順番は戦略的なものです」とプロジェクトの責任者で生態組の組長である林瑞興は言う。
まず打ち出したのは、「台湾で繁殖する鳥類の大調査」(BBS Taiwan)である。計画の初期は林務局のサポートを得て台湾大学生態学‧進化生物学研究所が全台湾の調査サンプリングエリアと研究方法を計画した。それを特有生物研究保育センターが引き継ぎ、中華民国野鳥学会の協力を得て、バードウォッチャーのボランティアを集めた。毎年3~6月の繁殖の季節になると、ボランティアはサンプリングエリアへ行き、標準化された方法で野外の繁殖数を調べるのである。
BBS Taiwanの基礎の上に、続いてさらに上級の「台湾鳥類生産力および生存率監測」(MAPS Taiwan)が行なわれた。これはより難易度が高い。鳥を捕獲してタグをつけて解放するという作業を含み、繁殖期の繁殖進度と生存状況を観察するものである。
参加者をバードウォッチャーから一般大衆にも広げるために、2013年からさらに留鳥と冬の渡り鳥を中心とした「台湾新年バード‧カウント‧カーニバル」(NYBC Taiwan)を行なっている。元旦前後に172のエリアでボランティアチームが鳥の数を数えるというもので、毎年1000人以上が参加している。
2015年8月、特有生物研究保育センターはコーネル大学鳥類学研究室の同意を得て、中国語版の「eBird Taiwan」をアップした。台湾の鳥類に関するデータが国際的なプラットフォームにつながり、林瑞興は、これは台湾の鳥類市民科学インフラの最後の一歩だと語る。
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「台湾で繁殖する鳥類の大調査」や「新年バード‧カウント‧カーニバル」など、特有生物研究保育センターが中心になって行なっている大規模な鳥類市民科学では、毎年データを整理して年度報告書を出し、市民と共有している。
路殺社:もう一つの生態学観察
鳥類に関する市民科学が特有生物研究保育センターの主導の下、トップダウンで行なわれているのに対し、「路殺社」の市民科学はボトムアップで行なわれている。「路殺社」の正式名称は「台湾動物路死観察網」、創設者は特有生物研究保育センター動物組研究助手の林徳恩だ。
両棲爬虫類を研究する林徳恩は、SNSが盛んになった2011年、フェイスブックに爬虫類調査ボランティアが交流する「四処爬爬走」を開設した。ある夜、彼が路上で死んでいた蛇の写真をアップすると、翌日には同じく路上で死んでいた動物の写真が100枚近くアップされていて、その反響の大きさに驚いた。林徳恩は「動物の交通事故に関心を持っている人が大勢いることを初めて知りました」と言い、同僚の冗談から交流会の名前を路殺社に変えた。「路透社(ロイター)の知名度を借りようと思ったところ、本当に有名になりました」と言う。
路上で死んでいる動物を記録し採集することは、重大な感染症の調査や野生動物保護などに役立つ。(黄惠敏提供)
路上で死んだ動物の意味
SNS上の反響が増え、さまざまな分野の生物学の専門家も加わり、路殺社はデータ収集を行なうようになった。デジタル写真から実際の死体まで、対象の動物も爬虫類から鳥類や哺乳類へと広がった。
2022年9月現在、路殺社はすでに23万件に上るデータを蓄積し、思いがけない貢献をしてきた。例えば2012年、ボランティアが大量のイタチアナグマが死んでいるのを発見した。路殺社と特有生物研究保育センターの獣医や動植物防疫検疫所が協力して調べたところ、野生動物救急ステーションの固体から台湾では100年以上見られなかった狂犬病が検出されたのである。
動物が車にぶつかって死ぬというテーマに戻ろう。数年にわたって蓄積されてきたデータの分析と専門家の意見から、路殺社は特に事故が多い138ヶ所を選び出した。そして国立公園や林務局、公路局などと協力して標識や、垣根、地下道などを設置してリスクを低減している。これらのデータはIT企業や自動車メーカーにも採用され、ナビゲーションシステムもこれらのエリアを通る時に注意を促すようになった。
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標本採集袋の中の動物の死体は特有生物研究保育センターが統一管理する。これらの標本は思いがけない重要な役割を果たすこともある。
理念から実践へ、傍観から参画へ
林瑞興によると、市民科学の成否は社会の発展レベルと正比例を成すという。経済が一定レベルまで発展して情報通信設備が完備していること、民主的で開放的な社会であること、市民が積極的に参画すること、そして最も重要なのは、自然保護に対する人々の意識が高いことが挙げられる。これらの条件がすべてそろっているからこそ、特有生物研究保育センターのような機関の統合の下、市民科学が順調に推進でき、大きな力を発揮するのである。「国の偉大さと道徳的発展は、その国における動物の扱い方でわかる」とガンジーが言った通り、台湾の市民科学の成功は誇れるものであり、世界とシェアする価値がある。
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鳥類に関する多くの市民科学計画に協力している林瑞興。
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「台湾鳥類生産力‧生存率監測」プロジェクトでは、訓練を受けたボランティアが鳥にタグをつけて放す作業をしている。(蘇美如撮影/MAPS Taiwan提供)
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路殺社を運営する林徳恩。
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注意を促す道路標識で野生動物を守り、運転者のリスクを減らすこともできる。(林徳恩提供)