淡江大学華語センター提供
多くの人は「華語」は世界で最も難しい言語のひとつだと考えている。しかし、3100の漢字さえ学べば、母語話者と同等の華語能力が得られることをご存じだろうか。
世界中で華語ブームが起きる中、教育部は「華語教育2025プラン」を打ち出し、関連機関とともに「華語ナショナルチーム」を結成、海外で華語を学ぶ人や、華語教育に従事する教員や機関のために、一連の「ツールボックス」を打ち出した。国際的な華語能力試験にも対応した、年齢やレベル別のデジタル学習リソースや教材を提供することで、台湾を華語学習のトップブランドにしようとしている。
台湾財団法人高等教育国際合作基金会の副執行長・張于忻によると、世界では約11.18億人が華語を使用している。華語を母語とする9.2億人を差し引くと、1.9億人が華語を学習していることになる。
華語学習には年単位の時間がかかり、学校で正式に学ばなければならないのだろうか。
高等教育国際合作基金会の張于忻副執行長は、台湾は他の国に比べても質の高い華語教師や教材を提供でき、海外の多くの名門校が台湾との協力を選択していると語る。
気軽に入門
アプリ「華語101」を開き、「How much does this cost?」をタップすると、女性または男性の声で「請問這個多少銭?」と華語で読み上げてくれる。華語の基礎がない人にふさわしいこの「華語101」のウェブサイト版のユーザーはすでに30万人、利用者のトップ3は日本、韓国、アメリカで、アプリ版も1.7万人が利用している。
「これらオンラインのリソースは、華語が決して難しいものではないことを証明しています」と話すのは『華語101』教材を編纂した張于忻だ。台湾を訪れる観光客の多くがこの教材を利用しており、アプリ版は東南アジアの人々に人気がある。そのうちトップはミャンマー人だ。ミャンマーでは華語能力がある人は良い就職先がみつかり、またタイでは華語ができると給与が2000~3000バーツ高くなるのである。
このほかに、入門者の学習にふさわしい「300句説華語(Mandarin in 300 Sentences)」、基礎を学んだ人向けの「零到一学華語(Learning Chinese:Start from Scratch)」、台湾文化に興味がある人のための「可愛的台湾」「FLTA華語自学絵本書(FLTA Story Book Series)」などが無料で利用できる。これらはすべて「学華語到台湾」サイト(lmit.edu.tw/zh/)からアクセスでき、十数の言語に対応しており、この2年でのべ250万人が利用している。また、僑務委員会でも言語別、年齢別に「学華語向前走」「来!学華語」などの教材を打ち出しており、これらは「全球華文網」(www.huayuworld.org)からアクセスできる。
淡江大学華語センターでは、カスタマイズしたカリキュラムも提供している。(淡江大学華語センター提供)
華語学習なら台湾へ
これらのオンラインリソースは、短期的に台湾を訪れる外国人が利用できるだけではない。華語学習に興味を持つ人々に、台湾で華語を学んでもらい、あるいはオンラインカリキュラムを受けてもらいたいのである。アメリカの少なからぬ保護者は、これらのリソースを見て、夏休みなどに子供を台湾での華語学習に参加させている。
台湾には華語文センターが60あり、それぞれにフレキシブルなコースや多様なカリキュラムを打ち出している。書や絵画、カンフーなどの文化カリキュラムを組み合せ、台湾で華語を学ぶと同時に豊富な体験ができるようにしている。
例えば、老舗の台湾師範大学国語教学センターでは春夏秋冬の短期コースもある。台湾大学も短期で高い効果を上げるコースを設けており、話すことを通して、聴く、読む、書く能力を身につけられる。このコースはアメリカのアイビーリーグの学生が多く履修している。
学生募集数が2番目に多い淡江大学華語センターでは、奨学金や個別指導で注目を集めているほか、デジタル教育も行ない、7校で共同開発した教材『時代華語』を利用している。これは試験にも対応できる教材で、海外での華語教育にも活用できる。
淡江大学華語センター主任の周湘華によると、アメリカの国務省や国防省などの政府機関も毎年学生を派遣してきている。8週間のカリキュラムで高齢者や子供の発音の違いも聞き取れるようになり、アメリカの試験「Oral Proficiency Interview」に合格できる。ここからもわかる通り、台湾の華語教育の教員とカリキュラムは非常に優れており、旅行や文化カリキュラムなど生活面でのケアも十分に行き届いている。
台湾の優位性
僑務委員会の委員長に就任して間もない徐佳青はこう語る。台湾は民主的で自由、多様な文化があり、活発な教育資源があるため、本当に華語を学びたい人は台湾に来るべきである。台湾で華語を学ぶと三つのメリットがあると徐佳青は言う。一つは正体字が使われていることだ。正体字を学んでこそ、古典文学が読め、古文物を理解できる。もう一つは学習効率である。正体字を学ぶのは最初は難しいかもしれない。しかし「海外に留学していた時に気付いたのですが、中国から来た学生は正体字が読めないのに対し、私たちはすぐに簡体字が読めるようになるのです」と言う。正体字を学ぶことで、後が楽になり、簡体字もすぐに理解できるようになるのである。
言語は文化を伝えるものでもあり、僑務委員会の教材は時代の変化に対応して調整されてきた。徐佳青は次のような例を挙げる。例えば、男性はいつもグラウンドでスポーツをしているわけではないし、女性はいつも木陰でおしゃべりをしているわけではない。父親は仕事、母親は家事というルールがあるわけでもない。現代社会では夫婦ともに働き、一緒に子育てをするというのが男女平等の普遍的な価値である。「これも台湾の優位性です。私たちと同じように、これらの価値を重視する外国人にとっては、台湾の自由と民主主義の価値、多様な文化を受け入れる態度は、受け入れやすいのです」と言う。
20年前に海外で華語を教えていた張于忻は、台湾の優れた点は、さまざまな文化や思想を受け入れる点だと考えている。華語――Mandarinは中国人だけの言語ではなく、香港・マカオ、東南アジア、シンガポールなどでも使われていて、少しずつ相違があるだけだ。重要なのは、台湾で華語教師としての訓練を受ける時、クロスカルチャーの教育能力を求められることである。学生一人ひとりによって異なる文化を理解・尊重し、互いの相違を尊重し合えることが重要なのである。
台湾は自由かつ民主的で、安全な雰囲気がある。さらに台湾では正体字も簡体字も教えることができる。だからこそ、台湾の華語教師は海外で歓迎されるのである。
台湾は世界中の華語学習市場のニーズを受け止めることができると語る僑務委員会の徐佳青委員長。
華語学習の基礎を確立する
台湾を世界の華語学習の中心とするために、教育部は2025プランを打ち出し、世界中で応用できる華語文教育システムを確立している。昨年9月に誕生した「華語文能力基準応用参考ガイドライン」は『台湾華語文能力基準(TBCL, Taiwan Benchmarkes for the Chinese Language)』 に対応するものだ。
張于忻によると、華語には万を超える漢字があるが、このシステムは国家教育研究院の研究に基づき、3100字を学ぶことで1万4425の単語に組み合わせることができ、基本的な母語話者に相当する能力が得られるとしている。
国家教育研究院が構築した検索サイトからは、単語や語法、同義語や反義語を検索でき、世界の華語教師の教材作成や試験、授業にも応用が可能である。
自分の華語能力のレベルを知るにはどうすればいいのだろう。華語文能力試験は今年、無料のスクリーニング模擬試験(http://cloudmock.sc-top.org.tw/m/)を打ち出した。これを利用すれば30分でヒアリングとリーディングのレベルを測定できる。これと言語データベース、カリキュラムガイドライン、オンラインカリキュラムなどを合わせ、「華語ツールボックス」として世界的な使用を推奨している。
僑務委員会による海外華語文センターは、伝統文化と台湾の優位性を継承する任務を負っている。(僑務委員会提供)
華語を世界に
台湾を世界の華語教育の中心地にするために、教育部と僑務委員会は力を合わせて世界への働きかけを進めている。
昨年8月、教育部は高等教育国際合作基金会に台湾華語教育リソースセンターの引継ぎを依頼した。そして部門を超えた協調を進め、全国に90近くある華語教育機構のリソースを統合して世界に進出しようとしている。
では、世界の華語学習者を増やすにはどうすればいいのだろう。台湾はさまざまな奨学金制度やプランを提供している。華語文奨学金や、学校と学校が共同で出す「優華語プラン」奨学金、短期学生グループ補助金などがあり、欧米から華語学習のために台湾に来る人々をひきつけている。2022年には7022人が台湾の大学付設華語センターで学んだ。また、中原大学や成功大学、文藻大学は共同でインドネシア、タイ、ベトナムなどに100名の華語教師を送り出しており、今後はさらに拡大していく予定だ。
最も初期に華語教師として海外に派遣された張于忻によると、以前、海外で華語を教える際は孤軍奮闘しなければならなかったという。それが今では、海外で勤務する華語教師の手当も増え、教育部と僑務委員会による教育訓練も受けられる。これによって教える能力は高まり、学生も進歩するので、やりがいがあると言う。
2021年には僑務委員会の台湾華語文学習センターが正式に開幕し、2023年にはすでに66ヶ所に設けられている。アメリカに54ヶ所、ヨーロッパでは9ヶ国に合計12の華語文センターがオープンした。徐佳青委員長によると、今後4年以内にオセアニアやアジアなどに100ヶ所設ける予定である。華語文センターの主な対象は、華語を母語とする人ではなく、現地の18歳以上の学習者だ。
昨年ヨーロッパを訪問した徐佳青は、ドイツのハンブルグにある台湾華語文センターに、現地のエンジニアを対象にしたコースを設けるよう提案した。台湾では風力発電を積極的に進めており、半年から一年、台湾で働く外国人エンジニアが多いからだ。彼らが先に華語を学んでおけば、台湾での仕事や生活に役立つことだろう。
また、世界でトップのシェアを誇る台湾の自転車メーカーGIANTは、オランダだけでなく、ハンガリーにも大きな工場を設けており、そこでは東欧出身の従業員が大勢働いていて、言葉の壁が管理上の課題となっている。そこで徐佳青は、ハンガリーに駐在する台北代表処の劉世忠大使の手配でGIANT社を訪れ、人事などの管理部門に対して、華語学習コースを設けることを提案した。教員は僑務委員会が派遣でき、これは社員への福利厚生にもなる。
「台湾は、世界の華語学習市場のニーズを受け止めることができます」と徐佳青は言う。台湾では経済発展によって海外に工場を設立している企業が多く、そこには華語学習の需要があるだけでなく、華語人材の不足も問題となっている。
徐佳青は、30年前にドイツに留学していた際、20ヶ国余りを旅したが、当時は台湾を知る人は非常に少なかったと言う。それが昨年、2度にわたってヨーロッパを訪問し、12ヶ国を回った時には、行く先々で例外なく各国の官僚や市民から歓迎され、関心を寄せられ感動したと言う。台湾は新型コロナのパンデミックの際に多くの国にマスクを寄贈し、また半導体チップの製造能力でも脚光を浴び、ウクライナの戦争から台湾海峡情勢も注目されるようになった。世界市場に大きな変化が起こり、台湾の注目度が高まっているのである。アメリカのカリフォルニア州のある市からも、台湾による華語学習の「市役所コース」を設けてはどうかという話が出ている。「台湾は絶えず経験を蓄積しており、すでに準備はできています。Taiwan can help。華語を学ぶなら台湾に来てください」と徐佳青は語った。
海外の華僑学校における華語課程では、生き生きとした授業を通して学習意欲を高めている。(僑務委員会提供)
淡江大学華語センター提供
台湾に華語を学びに来れば、台湾の文化や地理、社会なども理解できる。(僑務委員会提供)
レベル別、言語別に編纂された華語教材。