
シンガポールと言えば、多くの人は経済発展と国際都市をイメージするだろう。ここでは華人、マレー系、インド系の人々が平和に共存しており、その文化的多様性も魅力の一つである。今月号では「光華」とともに、南国のかおりがするシンガポールを訪ね、台湾との緊密な関係に触れていただきたい。
台湾から4時間半、3000キロのフライトの末、ようやくシンガポールのチャンギ空港に到着した。空港の壮大なロビーのいたるところに英語の案内板があり、周囲からはさまざまな言語が聞こえてきて、華人が多数を占めるものの、台湾とはまったく違う国に来たことを感じさせる。

常夏のシンガポールでは食べ物も建築物も南国らしさを感じさせ、五感を通してその魅力に触れてみたくなる。
多様な文化を受け入れる国
シンガポールの人口は約400万人、華人が全体の75%、マレー系が13%、インド系が9%を占める。このほかに、さまざまな国から来た人が164万人暮らしている。台湾では外国人をたまに見かけて意識するが、シンガポールでは当たり前の存在である。
ちょうど元宵節(旧暦1月15日)が終わったばかりで、シンガポールのチャイナタウンには提灯が飾られていた。通りには漢方薬や粥、潮州の肉骨茶、台湾の干し肉の店などが並び、祠や廟も多く、看板は中国語がメインだ。
だが、そこから地下鉄で3駅行くと、まったく雰囲気の異なるリトルインディア(インド人街)がある。カラフルな建物が特色で、ヒンドゥー教のスリ‧ヴィーラマカリアマン寺院には多くの観光客が訪れる。
リトルインディアから東へ向かうと、金色の屋根が美しいサルタン‧モスクが見えてくる。おみやげの香水を売る店が軒を連ね、中東にいるような気分になる。シンガポールでは角を一つ曲がっただけで違う国の雰囲気が味わえ、さまざまな国から来た人々がここに根を下ろしている。

華人、マレー系、インド系、そして世界各地から来た外国人が平和に共存することで、シンガポールの多様な文化が形成されている。
英語を中心としたバイリンガル教育
シンガポールの公用語は英語、華語、マレー語、タミル語の4言語。いわゆるバイリンガル教育は英語を中心としており、それぞれの生徒の母語と並行して学ぶ。
シンガポールは1965年に独立し、翌年からバイリンガル政策を開始した。当時は英語が主流とされたが、授業をする言語は自由に選べ、華語教育を行なう華人学校もあれば、マレー語を使う学校もあった。後の1979年から英語が主要言語となり、子供たちは英語をメインとする環境で育ち、異なる民族同士のコミュニケーションのツールともなったのである。
南洋理工大学付属国立教育研究所アジア言語文化学部の陳志鋭准教授は、二ヶ国語の間を自由に行き来してきた。大学は台湾で国文学を学び、シンガポールの大学院でイギリス文学を研究した。「言語は一つの扉を開いてくれ、別の文化への好奇心を持たせてくれます」と言う。子供の頃から中国語と英語の書籍を読み、どちらの文学にも通じている。
シンガポールのバイリンガル教育を高く評価する人がいる一方、母語の衰退も心配されている。そのためシンガポール政府は各母語の文化を推進しており、毎年各エスニックの芸術祭を開催し、また作家フェスティバルも英語、華語、マレー語、タミル語の4言語で行っている。

華人、マレー系、インド系、そして世界各地から来た外国人が平和に共存することで、シンガポールの多様な文化が形成されている。
東南アジア市場の中心
国際都市として英語の普及は大きな強みである。交通や医療など日常生活においてもすべて英語が通用するし、法令が明確で治安や衛生状態も良いため、シンガポールはECAインターナショナルの「アジアの駐在員が最も住みやすい都市ランキング」で14年連続トップにランクされ、多くの外国企業がここに拠点を置いている。
台湾は2013年にシンガポールと貿易協定を交わし、二国間の貿易関係はさらに緊密になった。駐シンガポール台北代表処の梁国新代表によると、シンガポールは台湾にとって6番目に大きい貿易パートナーで、シンガポールにとって台湾は5番目に大きい貿易パートナーである。両国の年間貿易額は260億米ドルに達し、シンガポールと近隣のインドネシアとの貿易額を超える。
シンガポールに進出する台湾企業は、70年代は従来型の製造業、90年代はエレクトロニクス産業が多かったが、いまではスタートアップや金融、サービス業が進出している。
梁国新によると、シンガポールはエスニック面での優位性があり、もともとASEANの他の国々との往来が盛んなので、台湾にとって重要なのはシンガポールをASEAN進出への拠点とすることである。例えば、台湾の銀行がシンガポールに支店を開設し、インドネシアに大型融資を行なう協調融資団に参加すれば、単独で融資するリスクが避けられ、シンガポールの銀行とウィンウィンの関係が築ける。シンガポールを中心に東南アジア市場を開拓できることが、多くの外国企業がここに本部を置く最大の要因である。

華人、マレー系、インド系、そして世界各地から来た外国人が平和に共存することで、シンガポールの多様な文化が形成されている。
留学経験から親台派に
経済関係の他に、両国の関係を深めている要因として、台湾留学経験があるシンガポール人の存在が挙げられる。
昔から、台湾の書籍や映像作品、舞台芸術などは常にシンガポールやマレーシアに輸出されてきた。台湾人作家が招かれて講演することも多く、シンガポールの人々は広く台湾の文化を受け入れている。1980年代、シンガポール政府は華文教員を育成するために優秀な若者を台湾へ留学させた。これらの留学生が台湾の豊かな創作や文学から受けた影響をシンガポールへ持ち帰っている。「中学の華語の授業で、先生は徐志摩の詩をそらんじたり、席慕蓉の作品を通して、隣りのクラスの生徒との500年来の縁を形容したりしました」と、陳志鋭は、台湾大学中文科で学んだ中学の李白楊先生の授業を思い出す。そのロマンチックな授業から彼は華語文学に興味を抱き、台湾にあこがれを抱くようになったという。
陳志鋭によると、柯思仁、殷宗瑋、蔡深江など多くのシンガポールの作家はいずれも台湾留学の経験がある。彼らは台湾での経験にインスパイアされており、行間に台北への思いがにじみ出ているという。大学一年の書道の授業、宿舎で書いた詩、友人との議論など、キャンパスの文化的雰囲気が色濃く感じられる。「私の創作や書道、篆刻なども、当時の影響です」と言う。
近年、陳志鋭は再び書道に励むようになり、南洋理工大学でも書道の授業が復活した。若者は書道には興味を持たないだろうと思われたが、多くの学生が履修している。陳志鋭はこの授業で二ヶ国語でさまざまなエスニックの学生たちに教えている。一学期の授業を終えると展覧会を開くが、習い始めたばかりの作品とは思えないほど素晴らしい出来で、この地で中華文化が枝葉を伸ばしていることが感じられる。

シンガポールの建築物はそれぞれ特色があり、思わずシャッターを切りたくなる。
両国の懸け橋となる台湾人
台湾出身でシンガポールのチャンギ空港のインフォメーションセンターで働くEvitaは、シンガポール人は想像していたよりずっとよく台湾のことを知っていると言う。台湾のニュースが新聞に載ることも多く、若い人も台湾の歴代総統の名前を言え、まるでシンガポール全体が台湾に注目しているかのように感じる。それに対し、台湾人はシンガポールのことをよく知らないため、彼女は「星馬和牛Evita」の名で、YouTubeに動画を発表している。
彼女はシンガポールの市場を訪ねたり、両国の春節の習慣の違いを紹介したり、通行人にインタビューしたりする。例えば、大学生に中国語の同字異義語を質問してみたり、好きな台湾のバラエティ番組を答えてもらったりする。時には自分の職場やアパートを借りたときの経験などをシェアする。生き生きとした動画がシンガポールと台湾の両国で注目されている。
給与水準が高く、国際化が進んでいるシンガポールは多くの台湾人のあこがれで、多くのネットユーザーがEvitaにシンガポールでの就職について質問してくる。オーストラリア留学経験がある彼女によると、オーストラリアは生活のリズムがゆったりしているが、シンガポールは生活のリズムが速く、社員が積極的に働いて1ヶ月で一人前になることが求められる。多くの人がシンガポールの高い給与にあこがれて、ワーキングホリデーのような気分で働きに来るが、すぐにあきらめてしまうという。シンガポールで働くには、雇用主と1~3年の契約を結ばなければならないため、明確な目標を定め、また騙されたりしないよう、シンガポールの求人サイトなどで給与水準を調べてから来るべきだとアドバイスする。
Evitaによると、インフォメーションセンターの仕事は空港の広報担当とも言え、VIPや旅行者に空港ガイドサービスを提供するが、さまざまな国の旅行者にサービスを提供するために、各国出身の従業員が働いている。シンガポールでは毎日、文化や言語、バックグラウンドを異にする人と出会えるので、英語によるコミュニケーション能力を高められ、国際的な視野を広げることができると言う。
シンガポールの華人文化、食の多様性、衛生や安全といった面は、台湾人に近しさを感じさせる。台湾とシンガポールは似ているようで、それぞれに優れた点を持つ国であり、梁国新がthe home away from homeと言う通りである。

シンガポールの建築物はそれぞれ特色があり、思わずシャッターを切りたくなる。

台湾留学経験のある陳志鋭は、その書や教育、創作に台湾で受けた文学教育を活かしている。

シンガポールの魅力は経済的繁栄と国際化だけではない。その豊かな文化にもぜひ目を向けてみたい。

シンガポールでは頭上の空間まで緑化が施されている。

Evitaがアップする動画は、自然な形で両国国民の距離を縮め、相互理解に貢献している。

放射状に東南アジアとつながるシンガポールは、台湾の重要なパートナーである。