ユニークな見解で古を知り今を語る
漢学賞を受賞した歴史学者・王賡武氏は、中国と東南アジア関係研究の専門家である。中国の歴史における南方隣国との複雑な関係を詳細に究明し、ユニークな視点で中国を捉える。従来の中国内部の視点や西洋の相対的な視点で中国を見るのではなく、豊かで多様な視角から世界秩序を見つめる。関連分野では海外華人のリーダー的な存在である。
王氏は1930年オランダ領東インドのスラバヤ(現在のインドネシア)に生まれた。両親とも中国人である。英国で高等教育を受け、その後、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、米国で研究の道を歩み、香港大学では9年間学長を務めた。唐奨審査委員会は、多彩な文化の洗礼により、氏が中国儒家文化と英国アカデミズムを兼ね備えた「インサイダー」となり、なおかつ外部から中国を見る「アウトサイダー」にもなったと評している。
王氏は厳しい目で二項対立の枠組みを超え、外地に仮住まいする「僑」の流動の歴史をさかのぼり、「海外華人」の概念を提出して華人の多様なアイデンティティを訴えた。東南アジア諸国史に精通する王氏は、古今の海外華人が地域で演じてきた役割を詳細に吟味しており、著作はその分野のバイブルとなっている。
王氏と、第一回漢学賞受賞者・余英時氏、第三回の斯波義信氏は共に1930年に生まれ、動乱の時代を経験し、厳しい態度で研究に臨み、漢学研究の視点を充実させ、古今に通じていると陳振川は指摘する。
唐奨では、賞金に加え研究費として1,000万元が補助される。受賞者が影響力を発揮して、学術交流を進めることに期待する。陳振川によると、第一回持続可能な発展賞を受賞したグロ・ハーレム・ブルントラント氏は、ケニアの象の保護、グリーンエネルギーによる水と電力の供給、開発途上国の女性科学者による公衆衛生研究の水準向上に経費を投入している。漢学賞受賞者の余英時氏は余英時文学研究賞を設立し、華人の若い研究者を支援している。法治賞受賞者のアルビ・サックス氏は信託ファンドを設立した。南アフリカにおけるアパルトヘイト撤廃後の新憲法制定の過程の記録と、刑務所を憲法裁判所に改築することを目的とている。法治賞のルイーズ・アルブール氏とジョセフ・ラズ氏はそれぞれカナダと英国の大学の法治研究に寄付している。
唐奨は、受賞者の研究成果が、社会に実質的に貢献していることを重視する。恐れと変動に揺れ動く世界で、人類の相互支援における受賞者の努力と輝きは、世界秩序を再構築し持続可能な発展の新たな方向を探り当てている。これこそが唐奨の精神である。善と美に至る行ないを称え、共存共栄のビジョンを追い求めていく。
唐奨教育基金会の陳振川CEOは、唐奨は華人による世界への還元であり、これによって世界における台湾の認知度も高まると語る。(林旻萱撮影)
王賡武氏は政治大学で開かれた唐奨「漢学」マスターズフォーラムにオンラインで参加し、漢学の多様化は新たな課題に直面していると語った。(林旻萱撮影)
台湾大学で行われた唐奨「法治賞」マスターズフォーラムには、同賞受賞者のほかに台湾の非政府組織やソーシャル・イニシアチブの代表者などが招かれ、市民社会におけるNGOの役割について議論された。
唐奨第一回の「持続可能な発展賞」を受賞したグロ・ハーレム・ブルントラント氏は、賞金をケニアのゾウの保護に投じた。これにより、密猟を恐れて夜間に活動するようになっていたゾウが、今では人類と共存できるようになった。(Milgin Trust提供)