アーチェリーはメンタル
東京五輪のアーチェリー会場は夢の島公園に設けられており、風向きが変わりやすかった。台湾チームは新型コロナウイルスの影響で、この2年ほど海外での競技に参加していなかったため、むずかしい状況と言えた。
一回戦を振り返り、魏均珩は「現場で適応し、できることをやるだけでした」と穏やかに語る。1射目は風向きを掌握できず、7点しか取れなかったが、しだいに軌道に乗っていった。同じく調子を上げていった湯智鈞は「すでに射た矢については考えず、常に今が1射目という気持ちでやりました」と言う。冷静な鄧宇成はチームの中で最初に9点を取った。「たしか風は左から吹いていたと思いますが、大切なのはすべての動作を完璧に行なうことです」と言う。
対戦相手とタイとなった緊迫した状況でも、台湾チームは笑顔と視線で互いに声援を送り合った。「いつも『プレーを楽しもう』と言っている言葉が生きていました」と林政賢は言う。
今回の東京五輪に向けての練習では、常に選手の自信とメンタルに重きを置いていた。トップクラスの選手にとって最も重要なのはテクニックではなく心理状態だからだ。そのためコーチ団は、改善点を指摘する際にも「引手にもう少し力を入れた方が、流れがもっと良くなる」などとポジティブな言い方をする。「そうすることで頭の中にイメージが残り、重要な時に思い出すのです」と林政賢は言う。選手に異常が見られる時は、直接問いかけるのではなく、専属の心理カウンセラーに注意するよう依頼する。
チームのカウンセラーを務める陳若芸は、いつも練習場で様子を見守り、選手の表情や動きの変化から心理状態を観察する。シューティングが一巡して、選手たちが70メートル先の標的まで矢を抜きに行くたびに彼らと一緒に歩いて声をかけ、話をする。「選手たちにはチームメイトを観察するように伝えています。人は自分の悪いところは見えますが、他者を観ることで自分の良い点にも気付くからです」と言う。