台湾の人材に舞台を
幾度も台湾に招かれてスタートアップグループと交流している曾浄沢は「台湾のチームは戦闘力が足りない」と指摘する。市場を台湾だけに絞っていては、海外のベンチャーキャピタルの目に留まることはないからだ。受託生産が主流の台湾は、自分のブランドや技術に自信が持てないのかもしれない。だが、プログラム言語は世界通用で、テクノロジーに国境はない。台湾の情報工学は世界中で認められているのだから、台湾には世界に出て行く資格がある。
曾浄沢によると、ASEAN10ヶ国と台湾と香港は同じベンチャーキャピタルのエコシステムに属している。シンガポールは英語が普及していて税制優遇措置があり、法律も健全なので、多くの国際的なベンチャーキャピタルが同国にアジアの拠点を置いており、そのためシンガポールのスタートアップ企業は他の国より目に留まりやすいのである。台湾のスタートアップ企業が、慣れ親しんだ場所を離れてシンガポールに拠点を設け、またはシンガポールのスタートアップイベントに参加すれば、投資家の目に触れる機会が増える。
もう一つのスタートアップ、CloudMile万里雲が台湾から積極的に海外へ出て行った事例を見てみよう。
2017年設立のCloudMileは、主にクラウドマネジメント‧アプリケーション‧サービスを提供し、AIとビッグデータを用い、企業のビジネス予測やレベルアップに協力する。例えば、和明紡織と協力し、過去に生産した生地のサンプルをデジタルファイル化して機器に技術を学習させ、生地サンプルの識別システムを構築した。これによってデザイナーはデータバンクの中からすぐに特定の生地を選び出せるようになり、それまでデザインからサンプル生地の提供まで一ヶ月半かかっていたところが3日に短縮できたのである。
CloudMileを創設した劉永信CEOは、以前は外資系企業で技術部門の管理職を務めていたが、当時、外資系ではエンジニアの給与を、インド人、台湾人、欧米の一般エンジニアとトップエンジニアで、1対3対7対10とランク付けしていた。台湾人1人の給与でインド人が3人雇え、欧米のエンジニアは台湾人の2~3倍の給与で雇うという意味だ。だが、劉永信は台湾人が他に劣るわけではなく、他人に価値を決められるべきではないと考え、海外へ出ることにした。
昨年、CloudMileは香港での運営を開始して3ヶ月で十数の新規顧客を開拓し、さらにシンガポール進出の準備を開始した。
シンガポール国立大学のEMBAに通うことが、劉永信のシンガポール進出の第一歩だ。この国のトップクラスの人材に触れ、人脈を作るのである。シンガポール政府はスタートアップ企業の海外展開を奨励しており、本部をシンガポールに置いていれば、海外拠点を開設するたびに10万シンガポールドル(約230万台湾ドル)の助成金が支給される。劉永信によると、これは新しいチーム運営の初期費用に相当する金額で、シンガポール政府の積極的な態度を感じさせるという。将来は本部をシンガポールへ移し、台湾を開発センターにする考えの劉永信は、シンガポールは競争が非常に激しく、そういう環境で人材を育成してこそ海外へ展開する力が養えると考えている。
スタートアップ企業CloudMile万里雲は、台湾、香港、シンガポールでテクノロジーフォーラムを開き、積極的に海外市場を開拓している。(CloudMile提供)