彼らの状況を身近なものに
台湾人の意識を呼び覚ますことが今回の特別展の目的なので、外国人労働者の人権という硬い問題を、情緒に訴える手法で展開した。張文馨は笑ってこう言う。どのNGOもその道のプロで、どう展示すれば理解されるかをよくわかっていた。例えば、工場で台湾人と外国人とでは安全装備が異なることを示し、外国人労働者が労働災害のリスクにさらされていることをわかりやすくした。また、漁業労働者の船上での生活空間の狭さを棺桶に模した。ほかにも、個人の家庭で介護に従事する場合、浴室や部屋を施錠してはいけないと要求されるなど、プライバシーのない状況を再現したり、玩具や衣類をいっぱいに詰めたケースによって労働者の故郷への思いを表現したりした。これらによって外国人労働者の状況を身近なものに結び付け、外国人労働者も等しく人権を享受すべきことを理解してもらう。
目が向けば何らかの行動が起き、変化のきっかけになる。李麗華が労工保険局の仕事を辞めて漁工職業組合の無給の職に就いたのも、外国人労働者が援助もなく弱い立場に置かれているのを見たからだ。彼女は桃園から宜蘭に引っ越し、台湾初の外国人漁業労働者の組合を設立した。地元の権力者に対してもひるまず、外国人労働者に寄り添って権利獲得のために闘う。米コーネル大学の産業‧労使関係学部博士課程で学ぶ高燕迪(Andi Kao)は、ネットで李麗華の取組みを知り、台湾での実習を申し込んだ。台湾に来る前にわざわざインドネシア語も勉強し、宜蘭の組合事務を手伝うほか、基隆港で外国人労働者とともに暮らしながら基隆でも外国人労働者が組合を持てるよう支援している。二つ目の組合が設立すれば、国際運輸労連(ITF)に加入できるかもしれないと宜蘭の組合も期待している。そうすれば国際的支援をより多く受けられるからだ。
林正尉は何年も前に東南アジアの国々で活動した時の経験を語った。町には労働者派遣仲介業が林立し、タクシーに乗っても運転手が「自分の周囲の者も台湾に出稼ぎに行き、台中や基隆の工場で働いている」と親し気に語る。東南アジアの人々にとって台湾はとっくに馴染みある外国なのに、台湾人のほうは東南アジア諸国をよく知らないと改めて思い至った。
今年後半に開催される「移住労働者人権」特別展では、台湾での展示だけでなく、国際人権博物館連盟アジア太平洋支部を通じ、国外の団体との対話が生まれることが期待されている。これまで外国人労働者が台湾で働くことを選んできたのは、身近な人が台湾に出稼ぎに行って家計が大きく改善されたのを見たからかもしれないし、外国人労働者の常として良いことだけを報告し、台湾での暮らしがつらかったことなどはあまり言わないので、台湾でどのような現実が待っているのか知らないことも関係しているだろう。そこで、人権館ではこの展覧会を外国人労働者たちの故郷でも開き、彼らとの対話のきっかけになればと考えている。より多くの人に外国人労働者の問題にふれてもらい、議論を交わし、改善の道をともに考えられればと願うからだ。
外国人労働者は、高齢者介護や労働集約型産業などにおける人手不足を補ってくれる。彼らの生活環境を改善することは労働環境全体の改善につながり、それによってともにより良い明日へと向かうことができる。