.jpg?w=1080&mode=crop&format=webp&quality=80)
滅火器バンド(Fire EX.)の「海上的人」という曲は出稼ぎで働く者の心情を歌っているが、それはまさに、海外から台湾にやって来た労働者たちの思いでもあるだろう。だが、台湾での彼らの生活はあまり知られておらず、目に見えない存在となってしまっている。
今年(2021年)国家人権博物館が外国人労働者の現状を知ってもらおうと、国内のNGO15団体を招いて「移住労働者の人権」特別展を企画した。社会全体の人権意識を高めてこそ、外国人労働者の権利向上を進められるからだ。
2019年、国際人権博物館連盟アジア太平洋支部(FIHRM-AP)が国家人権博物館(以下「人権館」)に設立された。これは、人権促進における台湾の努力が肯定され、人権尊重の実践において台湾が重要なプラットフォームとなったことを意味する。この重責を担った人権館は、アジア太平洋における人権問題を思索しながら、国内外の博物館やNGO、そして人権のために働く人々と連携し、展覧会や講座、芸術活動などを開催することで、いわば「人権の文化的景観」を作ろうとしている。
2020年「国際博物館の日」のテーマ「平等のための博物館、多様性とインクルージョン」を受け、人権館が最初に扱うテーマとなったのが、人々の移動によって異民族間のふれ合いが生まれる中での「移住労働者の人権」であった。台湾人の生活に深く関わりながら、目を向けられることの少ない人々——外国人労働者に焦点を当て、博物館ならではの手法で社会の偏見やその克服といった問題を考えるものだ。

ワークショップのたびにNGOは移住労働者が直面する課題を観察し、キュレーションチームがそれらをわかりやすくまとめる。多くの人と一緒に外国人労働者の課題について解決策を見出したいからだ。(国家人権博物館提供)
共同で可視化に取り組む
昨年(2020年)人権館は、国内の15の博物館と、台湾国際労工協会(TIWA)、桃園市群衆服務協会、越在嘉(ベトナム在嘉義)文化桟、1095文史工作室など外国人労働者のために活動を続ける15のNGOを招き、外国人労働者についてそれぞれが注目する問題をシェアし合い、議論しながらともに学ぶ場を設けた。そして今年、特別展を催すことで、どうすれば社会が外国人労働者の声に耳を傾けられるか、そのコミュニケーションの可能性をともに考える。
今回は従来の方法を脱し、昨年からのNGOがともに学ぶという精神を継続させた。つまり展覧会の企画や情報のまとめを、原則としてNGOが集まる「展覧企画ワークショップ」主導で行うものとしたのだ。展覧会のデザインを担当した「害喜影音綜芸」社は、まずNGOを一つ一つ訪ねて話し合い、その結果100余りのキーワードをリストアップし、それらをNGOによるワークショップで討論できるようにした。いずれも外国人労働者の権利獲得に長年取り組んできたNGOなので、毎回ワークショップには討論のための豊富な材料が提供され、その結果をキュレーターの林正尉と「害喜」のスタッフがまとめた。こうした作業が繰り返された結果として、台湾人のニーズ、外国人労働者の労働現場、労働者の基本的要求、労働者の採用と管理の仕組み、NGOの「補完的」役割といった、外国人労働者問題の背景をまとめた展示が企画された。
「害喜」のスタッフによれば、当初は、漁船で働く様子や車椅子を押す姿など、外国人労働者の生活風景を組み合わせた展示を考えていた。だが話し合いが進むにつれ、「台湾人の日常生活における彼らの姿」にした方がよりコンセプトに近づけると気づいたという。各家庭、高齢者施設、山地の畑、工場など、至る所に彼らの姿があるからだ。またテーブルに並ぶ魚介類、スマホに内蔵されたチップ、高層ビル、電車などの存在も彼らの労働のおかげであり、彼らは3K労働の人手不足を補って台湾人の生活に多く貢献している。ところが、多くの人にとって外国人労働者は外来者であり、彼らのニーズや労働環境には注意が払われていない。そこで「害喜」は、台湾人の暮らしの至る所に存在する彼らの姿を、マップ方式で展示することにした。展示ルームを移動するにつれ、身近な生活から仕事、政策へとテーマが移り、「おぼろげだった彼らの姿がはっきりと見えてきます」と林正尉は言う。

移住労働者人権特別展
気づかれない差別
特別展を見に来る人について話が及ぶと、人権館展示教育組の張文馨はこう語った。「NGOとの話し合いでは『人権教育は子供たちから』という認識を確かめ合いました。だから、今の子供たちを教育することは、将来の雇用主を教育することになるのかもしれないと、笑い合ったものです。労働環境の多くの部分は、雇用主の態度で決まるものなのです」
台湾のように民主主義を大切にする国で、自分が人権をおろそかにしていると思う人はいない。だが、気づかない差別は生活の中に常にある。外国人労働者問題に長年関わってきた台湾人権促進会の施逸翔‧事務局長は、最近報道されたこんなニュースを例に挙げた。それは、外国人労働者が格好よく改造した電動二輪車を乗り回しているというニュースだった。報道では、改造二輪車を取り締まる法律がないことや、外国人労働者が改造に大金を使っていることなど、マイナス面が強調されていた。だが施逸翔は大学でメディアリテラシーを教える際に学生にこう注意を促した。報道には労働者自身の声が出てこないし、実際に歩行者にどのような影響があったのかも調べていない。それに改造車の優れたデザイン性や高い性能から見て、彼らが業界にとって強力な人材となる可能性もある。物事は異なった角度から見る必要があると。
新型コロナ対策のため、自治体が最近始めたのが「外国人労働者への特赦」だ。元の職場から失踪していてもとがめないというもので、名乗り出て検査を受けるよう促しているのだ。一般の人はそれを普通に受け止めるが、宜蘭県漁工職業組合の李麗華‧事務局長は「職場を離れても、逃げたわけではなく犯罪でもないのだから『特赦』の必要もありません」と異なる見方をする。嫌な仕事や雇用主に出会えば台湾人は自由に仕事を変えられる。だが台湾の外国人労働者は契約上、自由に職場を変えることができない。しかも雇用主と仲介業者は「失踪したら通報する」と言って従わせようとする。反対に外国人労働者が雇用主について通報したくても手続きは格段に難しい。そのため、耐え難い職場から逃げ出すしかないのだ。「失踪した外国人労働者」というレッテルの陰には複雑な構造的問題があり、なぜ逃げ出したのか、彼らの側に立って考える必要がある。
.jpg?w=1080&mode=crop&format=webp&quality=80)
外国人労働者の保護に人生をかける李麗華(右から2人目)は、漁船員のために冬服を募り、労働者の権益を守るために力を注ぐ。外国人労働者の問題を前面に打ち出すことで、自分の困難や不安を忘れることができるという。(李麗華提供)
彼らの状況を身近なものに
台湾人の意識を呼び覚ますことが今回の特別展の目的なので、外国人労働者の人権という硬い問題を、情緒に訴える手法で展開した。張文馨は笑ってこう言う。どのNGOもその道のプロで、どう展示すれば理解されるかをよくわかっていた。例えば、工場で台湾人と外国人とでは安全装備が異なることを示し、外国人労働者が労働災害のリスクにさらされていることをわかりやすくした。また、漁業労働者の船上での生活空間の狭さを棺桶に模した。ほかにも、個人の家庭で介護に従事する場合、浴室や部屋を施錠してはいけないと要求されるなど、プライバシーのない状況を再現したり、玩具や衣類をいっぱいに詰めたケースによって労働者の故郷への思いを表現したりした。これらによって外国人労働者の状況を身近なものに結び付け、外国人労働者も等しく人権を享受すべきことを理解してもらう。
目が向けば何らかの行動が起き、変化のきっかけになる。李麗華が労工保険局の仕事を辞めて漁工職業組合の無給の職に就いたのも、外国人労働者が援助もなく弱い立場に置かれているのを見たからだ。彼女は桃園から宜蘭に引っ越し、台湾初の外国人漁業労働者の組合を設立した。地元の権力者に対してもひるまず、外国人労働者に寄り添って権利獲得のために闘う。米コーネル大学の産業‧労使関係学部博士課程で学ぶ高燕迪(Andi Kao)は、ネットで李麗華の取組みを知り、台湾での実習を申し込んだ。台湾に来る前にわざわざインドネシア語も勉強し、宜蘭の組合事務を手伝うほか、基隆港で外国人労働者とともに暮らしながら基隆でも外国人労働者が組合を持てるよう支援している。二つ目の組合が設立すれば、国際運輸労連(ITF)に加入できるかもしれないと宜蘭の組合も期待している。そうすれば国際的支援をより多く受けられるからだ。
林正尉は何年も前に東南アジアの国々で活動した時の経験を語った。町には労働者派遣仲介業が林立し、タクシーに乗っても運転手が「自分の周囲の者も台湾に出稼ぎに行き、台中や基隆の工場で働いている」と親し気に語る。東南アジアの人々にとって台湾はとっくに馴染みある外国なのに、台湾人のほうは東南アジア諸国をよく知らないと改めて思い至った。
今年後半に開催される「移住労働者人権」特別展では、台湾での展示だけでなく、国際人権博物館連盟アジア太平洋支部を通じ、国外の団体との対話が生まれることが期待されている。これまで外国人労働者が台湾で働くことを選んできたのは、身近な人が台湾に出稼ぎに行って家計が大きく改善されたのを見たからかもしれないし、外国人労働者の常として良いことだけを報告し、台湾での暮らしがつらかったことなどはあまり言わないので、台湾でどのような現実が待っているのか知らないことも関係しているだろう。そこで、人権館ではこの展覧会を外国人労働者たちの故郷でも開き、彼らとの対話のきっかけになればと考えている。より多くの人に外国人労働者の問題にふれてもらい、議論を交わし、改善の道をともに考えられればと願うからだ。
.jpg?w=1080&mode=crop&format=webp&quality=80)
外国人労働者は、高齢者介護や労働集約型産業などにおける人手不足を補ってくれる。彼らの生活環境を改善することは労働環境全体の改善につながり、それによってともにより良い明日へと向かうことができる。