オリンピックの表彰台へ
2022年のアジア選手権で、頼主恩は63.5キロ級の銅メダルに輝いた。これは台湾の男子ボクシング競技にとって11年ぶりのアジア選手権でのメダルとなった。そして彼は羅尚策に「コーチ、僕がオリンピックに連れて行ってあげますよ」と豪語したのである。
2023年の杭州アジア大会で、頼主恩は驚くべき持久力と精神力を発揮した。イランやキルギスなどの強敵を相手に、負傷して疲労が限界に達した第3ラウンドで勝ち、銀メダルに輝いたのである。これは台湾の男子ボクシングにとって同大会での53年ぶりのメダルだった。台湾ボクシング界にとって栄光の歴史となり、オリンピックでのメダル獲得への道を示すものとなった。
オリンピックのリングに立つこととなった頼主恩の強みは、素早い動きとパンチである。左利きの彼のパンチは相手の肝臓に当たり、立ち上がれないほどのダメージをあたえることができる。そして現在の彼の動きは、以前よりきめ細かく繊細になっており、集中力も高まっている。
羅尚策によると、一般のスポーツでは血が出るとすぐにストップするが、ボクシングだけは血を流していても続けなければならない。「私たちは今までに十分に負けており、失敗こそ最大のギフトなのです」と言う。失敗の中から学ぶことで、頼主恩は成熟した選手へと生まれ変わった。「悔いの残らない戦いをして、台湾ボクシングの可能性を世界に見せるつもりです」と言う。
「ボクシングは私の人生です」と語る頼主恩は闘い続けることで人生の物語を綴っていく。
長年にわたって頼主恩に寄り添ってきた羅尚策コーチは、ともに生活の困窮に向き合い、壁を乗り越え、人生の新たな意義を見出してきた。