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スペイン商務弁事処のエドゥアルド・エウバ処長。
かつてポルトガル人やオランダ人が台湾のことを「フォルモサ」と呼んだのに対し、16世紀のスペイン人は「エルモサ」と呼んだ。いずれも「美しい島」という意味だ。
数百年後、一人のスペイン人外交官も台湾の美しさや人々の温かさに魅了され、海外赴任先の第一希望に迷わず台湾と書いた。
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新北市金山海岸の清掃活動に参加したエウバ氏とEU加盟国駐台弁事処の代表者たち。(スペイン商務弁事処提供)
台湾が第一の選択
「ここは休日には多くの人出があり、人々はサイクリングや散歩、テニス、バスケットボールなどを楽しんでいます」と言うのは、スペイン商務弁事処(在外公館)のエドゥアルド・エウバ処長だ。スポーツウェアに身を包み、台北のあちこちで見かけるレンタサイクルYouBikeを押しながら、基隆河16号水門の外側にある「美堤河浜公園」を紹介してくれた。
2020年に台北のスペイン商務弁事処に赴任してすでに3年余り、忙しい公務の合間に読書や料理、登山、サイクリングも楽しむ。
住まいからわずか10分ほどのこの緑地は彼がよく運動に来る場所で、ここから自転車で淡水や南港へ行く道にも詳しく、話を聞いていると彼が遥かスペインから来ていることを忘れそうだ。
スペインの国際経済関係部門で働いて約30年、これまでトルコのアンカラ、セネガルのダカール、中国の上海に赴任経験があり、台湾は四つ目の赴任先だ。
「派遣先の希望を書く時、台北は唯一かつ最優先の選択肢でした」と、エウバ氏は笑顔を浮かべて語り始めた。
赴任以前にも台湾を訪れていた。1度目は10年余り前に台湾外交部(外交省)の招きで台北に出張、2度目は上海赴任時代の休暇で旅行に来ており、この2度の訪問が深い印象を残した。「台湾の温かい人々と美しい風景に深く魅了されました」とエウバ氏は言う。
赴任後の生活にもとても満足している。「台湾では困ったらすぐ誰かが助けてくれます。これは台湾に来た外国人なら誰もが同意するでしょう」。世話好きで知られるスペイン人がこう言うのだから間違いないだろう。
では自然景観はどうだろう。ヨーロッパにもスペインにも世界に名高い景観がある。だが、エウバ氏はこう言う。スペインのマドリッドにいる人が大自然の中でリラックスしようと思うと、移動に少なからぬ時間が取られるが、台北ではほんの10分ほどで山や川辺に行ける。最も良い例が先ほどの美堤河浜公園だ。
こう説明した後、彼は手を振って別れを告げ、夕日の中をゆっくりと淡水の方向へ自転車を走らせて行った。この余暇の時間は貴重だ。実際彼はいつも多忙を極めているからだ。
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台湾のさまざまな方面のことに精通しているエウバ氏は、どんなことでも語ってくれる。
あらゆる方面で友好を
スペイン商務弁事処のFacebookページ「西班牙在地台(Spain In Taiwan)」では、ほぼ毎日エウバ氏が出席したイベントの報告が投稿されている。秘書によれば、彼は何人分もの仕事を一人でこなすほど忙しいが、政治、経済、文化、歴史、芸術、教育など、どんな分野でも両国の友好促進の機会があれば、決して逃すことはない。
その例の一つがスペイン商務弁事処にある。壁に掛けられた多くの絵画のうち、『陽台(バルコニー)』という絵は、彼が台湾のアーティスト、江書逸さんに依頼した作品だ。
2021年に弁事処を改装した際、エウバ氏はスペインを象徴するような絵を廊下に掛けたいと考えた。同僚に探してもらった結果、2020年にスペイン留学から帰ったばかりの江さんに依頼することになったのだ。
陽光の国スペインで実際に暮らし、写実的な絵を描く江さんは、温かみのあるイラスト風の絵にしようと提案した。一つ一つ個性あるバルコニーを画面に並べ、スペインの芸術、歴史、文化、有名人といった要素を配置する。ここを訪れてこの絵を見た人に、宝探しをするようにそれぞれの要素をたどってほしいという狙いだった。人の背の高さほどもあるこの水彩画は今、窓のない廊下の突き当りで陽光が注いだかのように輝いている。
江書逸さんによれば、この絵が掛けられた日、エウバ氏は細部まで注意深く眺め、「ムイ・ビエン(とても良い)」と言った。短い言葉だったが、昔の絵師が大聖堂の絵を完成させた時のような誇りを江さんは感じたと言う。スペインが彼にくれた温かさを描いたのだから。
ほかに恒例のイベント行事にも、エウバ氏の独自の考えが見て取れる。
中華民国国慶日の直後の10月12日がスペイン建国記念日で、商務弁事処でも毎年台北で祝ってきた。だが近年は台中や台南などのほかの町でも開催され、2024年には高雄でも行う予定だ。これらはエウバ氏の赴任後の変化だという。
「台湾には首都以外にも、異なる容貌を持つ町が多くあります」。建国記念の祝賀行事を異なる都市で行うことで、スペインの音楽や芸術、食べ物をそれぞれの町に伝えることができると彼は考える。これは各都市との交流の良い機会であり、より多くの台湾人にスペインを知ってもらい、文化や芸術でも両国の交流を促進できる。
台湾と言えば、国際的に有名になった半導体が思い浮かぶが、エウバ氏は、確かに半導体は台湾を世界の舞台へと導いたが、台湾にはほかにも豊かな文化や芸術、歴史があると考える。例えばオーストロネシア文化や原住民族もそうで、それらは世界に見出されるのを待っているという。
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絵の中には、スペイン各地のスタイルのバルコニーや、ベラスケスの名画に登場する女性、ピカソを思わせる男性など、スペインを象徴するものが多く描かれている。(江書逸氏提供)
こんなに似ている私たち
手っ取り早く文化を理解するには食べ物が良い。一番好きな台湾の食べ物を問うと、エウバ氏は多くの外国人観光客に人気のショーロンポーを挙げた。そして私たちには、似たようなスペインの小皿料理、タパスを薦めた。
スペインに名物料理は多いが、スペインがユネスコに無形文化遺産登録を申請したのはパエリアやオムレツではなく、タパスだった。エウバ氏によれば、タパスは単なる食べ物というだけでなく、仲間とともに美味しく楽しい食事を共有する交流の文化なのだ。台湾の人にもぜひタパスを食べてもらい、食べ物の持つ文化的意義を感じてもらいたいと言う。
また彼は、台湾は遥か何万キロも離れたスペインと歴史的にも交わっていたと指摘する。
1626~1642年、スペイン人は基隆に拠点を置いていた。歴史に埋もれかけていたその痕跡が2019年に台湾とスペインの考古学者による共同発掘で明らかになった。それが和平島の遺跡だ。
2年後の2026年には、スペイン人が初めて台湾の地を踏んでから400周年を迎える。これはより多くのスペイン人が台湾に注目する良い機会になるとエウバ氏は期待する。
かつての植民地として、スペイン人は台湾よりフィリピンの方をよく知っている。だがこの短い16年はとても重要な歴史だと、エウバ氏は考える。そのため、400周年を機に台湾との協力で一連のイベントを催すことで、より多くのスペイン人が台湾に注目し、台湾に行ってみたいと思うようになればと願う。
「友情は互いを知ることで築かれます」と言うエウバ氏は、台湾人観光客にもスペインに行って、台湾と同じく人の温かさで知られる国を体験してもらえればと願う。パンデミックでスペインを訪れる台湾人観光客数は激減したが、今年は大幅に改善されるだろうと彼は信じている。
笑顔あふれる彼は、独自の視点や方法で台湾とスペインの友好を深めている。もしどこかで彼に出会ったら、「オラ・コモ・エスタス(やあ、元気?)」と声をかけてみてはいかがだろう。
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絵を掛けた後、作品『陽台』(El Balcón)の前で記念撮影する江書逸氏(左)とエウバ氏(右)。(スペイン商務弁事処提供)
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基隆市和平島にある「諸聖教堂(トドス・サントス教会)」遺構は、スペインと台湾が初めて出合った歴史を記録する。(荘坤儒撮影)
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シンポジウムに参加し、台湾が「エルモサ」と呼ばれていた時代の歴史を研究者とともに探ることも、エウバ氏の台湾での仕事の一つだ。(台湾スペイン語学会提供)
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取材後、エウバ氏は我々に別れを告げ、淡水方面へ延びる自転車道を走り去った。