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民主主義の価値をともにする 大切なパートナー

民主主義の価値をともにする 大切なパートナー

インド台北協会 ヤダフ会長が見た台湾

文・鄧慧純  写真・林格立 翻訳・山口 雪菜

7月 2024

春を迎えた3月、台湾では春節が終わって間もない頃、インドではヒンドゥー教の春の祭り「ホーリー祭」が行なわれる。台湾では今年、インド台北協会(ITA,India-Taipei Association)が初めて新北市の緑光河岸公園を借りてホーリー祭を開催した。当日は天候にも恵まれ、各国の人々が集まってともに楽しく祝日を過ごした。

新北市でのホーリー祭の開幕に当たり、インド台北協会(ITA,India-Taipei Association)のマンハルシン・ラクスマンバイ・ヤダフ会長が挨拶に立った。祭りが始まり、会場の雰囲気が盛り上がるにつれてヤダフ会長も色とりどりの顔料を塗られた。我が国の外相(当時)の呉釗燮氏は、このホーリー祭への招待を受けた時にすぐに承諾し、「全身色まみれになる」覚悟をしたと語った。顔料を塗り合うパーティで、やや年配の二人の紳士――ヤダフ会長と呉釗燮・外相は、ともに全身に色を塗られ、子供のように楽しんだ。

ホーリー祭に参加した人々は、身も心も解放して思い切り春の日を楽しんだ。

台湾でのホーリー祭

ホーリー祭(Holi Festival)はインドの重要な祭りである。Holiはヒンディー語で「色彩」を意味する。大地に生命力が満ち、花が咲き始める春の日、インドの人々は色とりどりの顔料を互いに塗り合って春の到来を祝う。この背景にある重要な意義は、顔料で人々の肌の色を隠すことで、平等と団結、寛容と平和を祝うことである。

今回のホーリー祭のホストであるヤダフ会長によると、ホーリーは善が悪に勝つことを祝うものであり、色を塗り合うのは多様性の象徴ということである。1857年のインド大反乱もホーリー祭の日に蜂起しており、これはインド人にとっては特別な意味のある日なのである。

呉釗燮・前外相は、ホーリー祭に台湾としての解釈を加える。「Holiの発音は漢語では『厚礼(手厚い贈り物)』、台湾語の発音では『給你(あなたにあげある)』に近いので、私たちにとってホーリー祭は、人生が私たちに贈ってくれた手厚いギフトと言えるのです」と。まさにインドのホーリー祭に対する台湾ならではの解釈だ。

台湾の印象と言うと、ヤダフ会長は常に民主主義、イノベーション、多様性を挙げる。

台湾とインドの深い友情

台湾とインドは1995年に相互に代表処を設けており、2025年で30周年を迎える。

台湾とインドの関係は、現在のナレンドラ・モディ首相が2014年に就任してから一層深まった。かつて長年インドに駐在した経験のある外交部の田中光・政務次官によると、台湾とインドは経済面で相互補完性が非常に高い。インドはソフトウェアの技術大国であり、台湾は先端技術による製造力が非常に高い。また台湾の新南向政策とインドの「アクト・イースト」政策の目標とビジョンは一致しており、相互の友好的な往来はますます盛んになっている。

人と人との交流はさらに葉脈のように広がりを見せている。2016年に『光華』がインドで取材をした際、田中光氏は、2014年にノーベル平和賞を受賞したカイラシュ・サティーアーティ氏との交流を語った。台湾の多くの若者が、サティーアーティ氏のNGOでボランティアをしているというお話だった。そうした中、田中光氏がサティ―アーティ氏を台湾に招くと「OK、私の子供たちに会いに行きますよ」とすぐに承諾してくれ、翌年に台湾訪問が実現したのである。

近年はインドとの交流が増えており、台湾でもインドの祭典が楽しめるようになった。(林旻萱撮影)

自ら島の魅力に触れる

台湾に来て一年、すでにここでの生活になじんでいるヤダフ会長は、台湾の印象はと問われると、民主主義、イノベーション、多様性の三つを常に挙げる。

台湾に赴任することになった当初から、ヤダフ会長は「ここ」ではたくさんの新鮮な物事に出会えるに違いないと、大きな期待を抱いていた。「台湾は創意に満ちた社会だということは早くから知っていました。しかも台湾とインドの関係は発展中で、科学技術分野では台湾はインドのパートナーであり、インド太平洋地域においても貿易と投資の重要なパートナーです」と語る。

テクノロジー分野出身のヤダフ氏は、かねてより台湾の科学技術の強さを知っていた。半導体の分野では世界をリードする地位にあり、女性の権利の重視と民主主義の価値はインドと同様だ。これらのイメージはインドでも一般に持たれている。しかし、実際に台湾の土を踏んでみて意外に思ったのは「台湾の人々は非常に謙虚なことです。さまざまな分野のトップクラスの専門家や抜きん出た人々も、非常に温和で話しやすく、親しみやすいのです」と語る。

また、「台湾は非常に積極的に国際社会に参画しており、これによって台湾の人々は大きな心で外来の物事を受け入れ、外国の文化などを理解し、学ぼうとしています」と言う。

台湾でもインドと同様に精神修養が重んじられる。

民主主義の国

古い文明を持つインドの人口は14億人、公用語は22言語で、多様なエスニックを擁する。また、世界の重要な宗教である仏教、ヒンドゥー教、シーク教、ジャイナ教の発祥の地でもある。一方、台湾は海に浮かぶ島で、人口は2300万人、エスニックや文化、自然景観などはインドと大きく異なる。しかしヤダフ会長は、台湾とインドの相似点、そしてその背景にある長い歴史的な縁を話してくれた。

一つは仏教である。インドで生まれた仏教は台湾社会にも根付き、多くの人が信仰している。「台湾人は宗教に対してたいへん敬虔で、精神修養を重視しているため、インド人と同じように禅やヨガを好みます」と語る。

昨年(2023年)8月に着任したヤダフ会長は、今年の台湾総統選挙と、台湾式の選挙キャンペーンを目の当たりにした。台湾社会ではさまざまな議論が非常に活発で、それぞれの立場の支持者が十分に討論していて非常に興味深いと感じた。インドの首相選挙は4月に始まって6週間にわたって投票が行われる。世界で人口が最も多い国の選挙であり、外国メディア特派員の分析によると、有権者の数は9.7億人に達し、これは世界の人口の12%に相当する。このような選挙活動が順調に行なわれるのは整った制度と国民の民主的素養によるものであり、この点でインドと台湾は非常に似ていると言う。「台湾とインドでは民主制度がうまく運用され、軌道に乗っています」と語るヤダフ会長は、これは両国の社会に多様性があり、開放的であることを示していると語る。

インド発祥のヨガは台湾でも人気がある。(外交部資料)

お茶を飲もう!

もう一つの類似点は、両国ともに茶の文化があることだ。

台湾では、知り合いから「お暇なら、うちでお茶を飲んでいきませんか」と声を掛けられる。インド最西端のグジャラート州出身のヤダフ会長は故郷の伝統を話してくれた。「私の故郷ジュナガドでも、友人の家を訪ねると必ずお茶を出してくれ、お茶を飲まなければ帰ることはできません」と言う。祭日や交流が必要な時には、10人もの友人を訪ね歩くことがあるが、そうするとお茶も10杯も飲むことになり、一口すするので精一杯になる。訪ねた先の主人が必ずお茶でもてなしてくれるのは台湾とまったく同じなのである。

広い心で外来のものを受け入れる台湾では、インド料理レストランもよく見かける。

テクノロジーの強みで協力強化

昨年、インドは月面着陸に成功し、ロシア、アメリカ、中国に続く4ヶ国目となった。その報道が世界を驚かせたのは、インドは極めて短い時間と少ないコストでこの目標を達成したことだ。こうした点は、最もフレキシブルな生産方法でカスタマイズし、高効率のコストで顧客の要望を実現する台湾企業と非常によく似ている。

こうしてみると、台湾とインドは優れたテクノロジーとソリューションを持っており、それぞれ異なる長所があることから、協力のポテンシャルは非常に高いと言える。

そこでヤダフ会長は「2I3T」という考えを打ち出している。「2I」というのはinvestment(投資)と innovation(革新)の二つのIだ。台湾とインドの大学はすでに50余項目のMOU(基本合意書)を交わしているが、航空宇宙やITなどの分野でさらなる協力関係を持つことが期待される。「3T」というのは、technology(技術)、talent(人材)、そしてtrade(貿易)の三つのTである。インドのテクノロジー人材は台湾の不足を補うことができる。また農漁業、機械部品の他に、半導体やIoT、スマートシティ、再生エネルギー、ハイテク産業、環境技術などの面でも協力の将来性が見込まれる。

台湾での経験に期待

台湾に赴任してきたヤダフ会長の主要な任務は、台湾とインドの経済面でのつながりを強化することである。相互の協力と理解を深め、関係発展に貢献するということだ。ただ、ヤダフ氏自身のプライベートな面では、旅と文化を体験する「台湾リスト」を作っているそうだ。

着任して数ヶ月の間に、氏はすでに基隆から白沙湾、野柳、和平島、そして台南や宜蘭まで、台湾の多くの県や市を訪れた。台湾には長くて美しい海岸線があり、しばしば故郷のグジャラート州を思い出すという。基隆には素晴らしいトレイルがあり、そこでは故郷のソムナス寺院にいるような気持になるそうだ。

「玉山にも登ったんですよ」とヤダフ会長は言う。今年の元旦、氏は家族と一緒に台湾最高峰である玉山へ向かった。ただ残念なことに準備が不十分だったため、山頂まであと1.5キロというところで下山を余儀なくされた。それでも台湾の高山の景観の素晴らしさは瞼に焼き付いている。もちろん高さでは故郷のヒマラヤ山脈に遠く及ばないが、玉山の風光と、幾重にも連なる山々はヒマラヤの連峰を思い起こさせた。そして、山は常にそこにあるのだから、いつかまたチャレンジしたいと語ってくれた。

もう一つの目標は自転車での台湾一周である。息をのむような美しい風景、各地の文化や美食、にぎやかな都会から静かな村まで、台湾の豊かさと多様性を体験したいと思っている。

ヤダフ氏は今年の春節にネット上で華語での挨拶を披露した。「華語ができてこそ、現地の人々と深い交流ができ、台湾を全面的に理解することができます」と語る。そして最後に「台湾の伝統の祭典はその文化的意義とにぎやかな活動で知られていて、それぞれの地域の豊かな歴史と風習を表現しています」と言い、ヤダフ氏は早くこうした祭典に参加して、台湾の奥深い文化に触れたいと考えている。

インド人のナマスカールの挨拶(胸の前で両手を合わせて会釈する)にしろ、台湾人の「お茶を飲んでいきませんか」という挨拶にしろ、ヤダフ会長は常に「互いの文化を受け入れること」の大切さを強調する。友人とは、そういうものだからである。

茶の文化は台湾とインドに共通する。お茶で友人をもてなすという点も双方に通じる人情とホスピタリティを表わしている。

ホーリー祭の会場に立てられたmalki phod(写真後ろの三角錐の塔)の前に立つヤダフ会長夫妻と呉釗燮外相(当時)。インドの風習では、男性たちが人間ピラミッドを組んで、この塔のてっぺんに吊るされた壺を割り、成功した人はHoli Kingと称えられる。

ヤダフ会長は家族とともに台湾最高峰の玉山に登り、台湾の山林の美を満喫した。(インド台北協会提供)

ホーリー祭の最も重要な意義は、愛と平和を広めることにある。