未来のコンサート
4G、5Gの高速通信によって仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、そしてボリュメトリックキャプチャなどの技術が利用可能になった。映画『レディ‧プレイヤー1』に出てくる、仮想現実世界「オアシス」も遠い世界の物語ではないのである。 蔡遵弘は「今は多くの人がメタバースについて論じますが、その概念は以前私たちが遊んだMMORPG(マッシブリー‧マルチプレイヤー‧オンライン‧ロールプレイングゲーム)に似ていますよね」と冗談めかす。もちろん、時代の変化でそれも変わり、より高速で高画質な通信に加えてバーチャル影像もライブ配信できるようになり、現代のデジタル体験は、かつてのそれとは比較にならないものとなっている。
流行音楽を例に取ると、リモート共演やバーチャルコンサートの体験はまだ普及はしていないが、リアルではないオンラインコンサートはコロナ禍で大きく前進した。コロナ禍に対応するための道ではあったが、これが流行音楽産業のエコシステムを変えることとなった。
五月天(メイデイ)のコンサート制作を仕切っている「必応創造(B'In Live)」によると、リアルのコンサートではチケットが数千元になるのに対し、オンラインコンサートを試み始めた当初は、観客は観賞方法も消費モデルもわからず、制作側も手探りの状態で、チケットも100元前後を打ち出すほかなかった。だが、制作部門として備えるべき能力やノウハウはすでに身に着いたと技術ディレクターの譚明文は言う。
では、オンラインとオフラインのコンサートにはどのような違いがあるのだろう。感染症の流行が収束したら、オンラインコンサートは消えてなくなるのだろうか。コンサート制作経験の豊富な必応創造は、両者には大きな相違があることを知っている。「リアルのコンサートは一種の社会現象で、人と人と空間によって成り立ちます。さらに音圧や匂い、雰囲気も加わり、集団で喜びを分かち合う記憶が形成されます。こうした状況はオンラインでは実現しません」と必応創造クリエイティブディレクターの呉育璇は言う。「オンラインコンサートは空間と場所の制限がなく、まったく異なる思考に属します」と譚明文は言う。
例えば、昨年末は感染状況が落ち着き、大晦日のカウントダウンイベントが開催され、五月天はオンラインとオフラインのコンサートを行なった。両者の違いを強調するために、制作スタッフは、頻繁に会場を切り替え、華麗なカメラワークを用いた。さらに空間の雰囲気を強調することでオンラインコンサートが場所の制限を受けないという強みを打ち出し、オンラインとオフラインの両方の観客が満足できるようにした。