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オープン・ガバメントを追求する g0v零時政府のシビックハッカ

オープン・ガバメントを追求する g0v零時政府のシビックハッカ

文・龍珮寧/劉嫈楓  写真・莊坤儒 翻訳・山口 雪菜

8月 2017

オープンソース・コミュニティで活躍してきた高嘉良は、ひとつの政府広告を見て公共問題に関心を持つようになり、g0v零時政府を立ち上げた。

情報公開と自由の精神を堅持するコミュニティ「g0v零時政府」は、2012年の立ち上げ以来、多くの市民の力を結集して社会に変革をもたらしてきた。政府の政策や公共問題の討論などにおいて、近年はg0vが重要な役割を担っている。

テクノロジーが普及し、それを活かして社会的テーマを議論するシビックテック・コミュニティが大きな流れとなった。台湾でもシビックハッカーの活躍は目覚ましく、その数や応用範囲で台湾のシビックテック・コミュニティは世界第3位に挙げられている。

2010年、中東で巻き起こった民主化運動「アラブの春」は、インターネットを通して多くの人の市民意識を呼び覚ました。2014年の台湾の「ひまわり学生運動」はまだ記憶に新しいが、その時に、オンラインで透明性の高いリアルタイムのライブ放送を行なった「g0v」は極めて重要な役割を果たした。

公共政策オンライン参画プラットフォームは、市民からの提案や政策策定への参画を奨励している。

公共問題への関心からg0v設立

カジュアルな服装に天然パーマの長髪というのがg0vを設立した高嘉良のいつもの姿だ。かつて彼はclkaoの名でオープンソース・コミュニティで活躍していた。

高嘉良は幼い頃からコンピュータプログラミングに興味を持ち、ベッドに横になってからもプログラムを書いていた。彼は「プログラムはテクノロジーを生み、人々の生活を、時には世界をも変えることがでる」と考えている。

2012年10月、40秒にわたる政府の政策広告「経済エネルギー向上プラン」が、高嘉良が公共問題に関心を持つきっかけになった。CMを見た彼は、多くの疑問を抱いた。このCMは誰に向って、何を伝えようとしているのか、と。

高嘉良は、すぐに政府予算の編成と分配を分析することにした。イギリスには早くからこうしたテーマを扱うオンラインコミュニティがあり、「私たちの税金はどう使われているのか?」というプロジェクトを通して、政府予算に関わる情報を公開している。高嘉良はこの方式に倣うことを決め、「中央政府総予算」可視化プロジェクトを立ち上げ、それがg0v設立へとつながった。

g0vは「ひまわり学生運動」の期間中に、抗議の現場からリアルタイムの情報を発信した。

ゼロから政府を考えるg0v

「中央政府総予算」可視化サイトは、すぐに多くの人に注目された。数百ページにものぼる政府の予算書に比べ、g0vの「中央政府総予算」は目で見て分かりやすいデザインで、親しみやすい比喩なども用いられ、一目瞭然である。

例えば、国防支出は3059億元だが、これはタピオカミルクティ101億杯分、または超豪華マンションで知られる「帝宝」120万坪分、またはiPhone5が1181万個も買える金額である。

ひとつの政策広告をきっかけに「中央政府総予算」サイトを立ち上げた。高嘉良は、政策決定と民意が懸け離れていることに気付き、2012年に「g0v零時政府」コミュニティを立ち上げ、「零」から政府の役割を考えることにした。

「g0v」なのか「gov」なのか。「零時政府」のg0vと「政府」のgovを混同する人もいるし、「g0vは政党なのか、政府に反対する組織なのか」と問われることも多い。

g0vは「オープンソースコード」コミュニティの延長で、政府や政党とは異なる。g0vコミュニティは誰もが平等に意見を言えるオープンな場で、絶対的な決定権は誰にもない。こうした理念は、オープンで自由、シェアを重視するネットの世界のそれと共通している。

そのため、コミュニティでの討論やソリューション提出は、すべて参加者が自主的に発起し、公開透明なプロセスを経て進められ、どのようなプランにもオープンな態度をとっている。多くの人の協力があり、それが政策の修正を促すこともあり、国民の共同参画も促してきた。

g0vコミュニティでは皆がよく口にする言葉がある。「なぜ『誰』もやらないのかと問う前に、自分がその『誰』であることを認めよう」というものだ。自ら進んで「誰」になれば、そのほかの「誰」も一緒にやり始めるのである。

行政院政務委員の唐鳳は、パリで開催されたオープン・ガバメント・パートナーシップ(OGP)サミットに参加した。(g0v.news提供)

シビックハッカーの活躍は世界3位

2012年に発足したg0vは、2014年の「ひまわり学生運動」で一躍有名になった。当時、g0vの少なからぬメンバーが、抗議の現場からリアルタイムの情報を発信し、各方面の情報を統合するプラットフォームを立ち上げた。2014年、香港で普通選挙を求める抗議行動「雨傘革命」が起きた時も、g0vのオープンソースコードを使ってプラットフォームを立ち上げたのである。

IT人材が豊富な台湾は、早くからソースコードやフリーソフトを公開するコミュニティが多数あった。そしてg0vコミュニティが発足し、ひまわり学生運動に大きく貢献したことから、多くの人がコミュニティに加わった。彼らの目標は政府に情報公開を求めることで、問題点については定期的な会合でプロジェクトとして立ち上げ、マラソン式で多くの人が参加していく。彼らはこの方法を「Hackathon」と呼んでいる。

彼らはプロジェクトを坑(穴)と呼び、興味を持ってそれに取り組むことを「穴を掘って穴に跳びこむ」と形容する。高嘉良は、どんなに優れた政策にも問題点があると考え、解決すべき問題は常にあると言う。台湾では、平均して2ヶ月ごとに重大な社会的テーマが持ち上がり、市民のコミュニケーションが必要となる。かつては従来のメディアでしか議論はなされなかったが、ITの発達した今日、より多くの市民がオープンな対話に参加できるようになり、それが政府の効率をも改善させていく。

誰もが自主的に参加するため、g0vのプロジェクト実施効率は極めて高い。例えば「政治献金デジタル化」プロジェクトでは、シビックハッカーが24時間で3万件の資料識別を完成させた。中には失敗に終わるプロジェクトもあるが、それは気にしていない。「政治参加のハードルは高いですが、コミュニティには誰でも参加でき、限られた参加でも影響力を発揮できます」と言う。

オンラインの「オープンソースコード」の自由と協力の精神を受け継ぎ「とにかくやってみる」ことを是とするg0vが、わずか4年のうちに集めた参加者と各種成果により、台湾は世界第3位のシビックハッカー/シビックテック・コミュニティとなり、その「台湾経験」は世界的にも注目されている。

g0vが打ち出した可視化「中央政府総予算」は一目瞭然で非常に分かりやすい。(budget.g0v.tw/より)

オープン・ガバメントを求めて

台湾は昨年、フランスで開かれた「オープン・ガバメント・パートナーシップ(OGP)」サミットに参加し、さらにドイツやメキシコ、南アフリカなどのコミュニティ代表とともに「国家予算」をテーマに交流している。

台北市政府もg0vの「中央政府総予算」を利用して台北市民に予算計画への参画を呼び掛けている。「これは良好な発展です」と話す高嘉良は、政府と市民の協力関係の確立は、相互の信頼が基礎になると語る。

もう一つの成功例は、vTaiwanデジタル法令調整プラットフォームである。これもg0vのプロジェクトで、公共政策に市民の意見を反映させることを目的とする。

政府がg0v のモデルを活用しているだけではない。g0vのメンバーで今は行政院デジタル担当政務委員を務める唐鳳はg0vのメンバーと経験を政府内に取り入れ、オープンガバメントを目指している。「オープンガバメント担当者」は唐鳳がもたらした新たな制度で、行政院の各省庁に担当者がいる。公務員組合結成の可否やフカヒレ売買の禁止、高校の8限目禁止、国産車衝突試験の公開などについて、民間団体や関連業界を招いて公開で議論を進めている。

唐鳳のオフィスに入ると、壁には付箋紙が大量に貼られていて、一般の官僚のオフィスのイメージとは異なる。彼女はパソコンを使ってオープンガバメントの実例「萌典」を説明する。

「萌典」はg0vのプロジェクトの一つで、多言語版のオンライン辞書である。教育部の国語辞典をオリジナルコンテンツとして、閩南語常用辞典、客家語常用辞典と合わせ、筆順や音声からも検索できる。パソコン版だけでなく、iOSとAndroidのスマホアプリもあり、すぐに世界中で好評を博し、中国語を学ぶ外国人にとって重要なツールとなっている。

オープンソースに詳しく、中国語を学んでいるフランス人学生は「萌典」を知り、これに英語、ドイツ語、フランス語のデータを加えた。これに続いて台湾海峡両岸萌典、iTaigi.tw、アミ語萌典、チベット語萌典なども登場している。

オックスフォード大学も国際交流の場で台湾の「萌典」を知り、台湾のソースコードを用いて「ズールー語」のデータバンクを作った。

萌典プロジェクトは、世界の言語学者や教育学者からも注目されている。オープンソースのコードを使えば応用が利くことから、消滅危機言語の保存や学習の利器として活用されている。

g0vコミュニティは、市民の自主的な参加を通して政府の情報公開と民主主義の深化を促している。写真は、政策を熱心に討論するHackathonの模様。

自由の精神と情報セキュリティを提唱

2012年から現在まで、g0vは自主的にプロジェクトを立ち上げ、多くの人が参画してきた。その目的はツールをより使いやすくし、プロジェクトが継続され、そこからさらに他の応用へと広げていくことであり、また台湾のオープンソース・コミュニティが世界で活躍できることである。

2年に一度開かれる「零時政府(g0v)サミット」には一千人近くが参加する。十数カ国のオープンソースコードやシビックテックコミュニティのメンバーが台湾に集まり、プロジェクトの成果や経験を分かち合う。

この他、シビックテックコミュニティの国際会議「TICTeC」が今年9月に初めてアジアで開催されることになり、シビックテックの影響をテーマに討論が行われる。また、2016年末に設立したg0v.newsプラットフォームは中国語と英語で海外の会議の状況や成果、台湾の参画実例などを報道し、世界との懸け橋となっている。

シビックテックの今日の発展の基礎をなすのは「自由」の精神である。

しかし、今日に至っても、人権侵害事件はアジアでもしばしば耳にする。多くの人は情報セキュリティの観念が乏しく、情報が人権運動家をしばしば危険にさらしていることに気付かない。また、欧米諸国もアジアの人権環境を十分に理解しておらず、人権が危険にさらされてもすぐに協力することができないのである。

高嘉良のチームがスタートさせた情報セキュリティ人権プロジェクトは海外からも重視されている。台湾の自由と開放、そして豊富な情報セキュリティ人材の専門能力を背景に、アジアの人権運動家に情報セキュリティの概念を伝えていき、さらにはアジアの人権センターへ発展させようとしている。

情報人材が豊富な台湾の、オープンソースコミュニティの活発な活動は世界に知られている。社会運動から市民運動まで、デジタル化が進んだ今日、公共政策の討論に一般市民が参加することは容易になった。g0vコミュニティの発達により、シビックハッカーが熱心に参画し、ボトムアップで政府の情報透明化を促進し、「オープンガバメント」の目標へと邁進している。