
アドバンテックは林口のテクノロジーパークに拠点を置き、自社開発のスマート省エネ・産業用IoTシステムを導入し、産業用コンピュータ業界のリーダーとしてのイメージを展開している。
インドは2023年に無人探査機の月面着陸を成功させ、世界で初めて月の南極に到達した国となった。その際、インドの宇宙センターでは、アドバンテック製品を含む台湾製コンピュータを採用した。
世界の産業用コンピュータ市場でNo.1のシェアを誇るアドバンテックは台湾の隠れた光だ。インド市場に根ざすこと25年、空港や地下鉄、大手チェーンレストラン、量販店など、あらゆる場所で同社の「組込み型コンピュータ」などの関連製品が採用され、売上はコロナ禍で爆発的な成長を遂げた。さらにインドのスマートシティ構想推進の動きに乗り、この成長は今後10~20年続くと見込まれている。
「インドのシリコンバレー」と称される同国第3の都市ベンガルールでは、都市開発が盛んだ。スカイラインには建設用クレーンが立ち並び、道路ではクラクションが鳴り響く。今まさに地下鉄建設中の「交通の暗黒期」のさなかにあるのだ。
『台灣光華』取材班は早朝、大通りの喧騒を離れた場所にある研華(Advantech、以下、アドバンテック)のインド支社を訪問した。CEO兼財務責任者のラケシュ・シャルマ氏(Rakesh Sharma R、以下、シャルマ氏)とディレクターのヴィジャイクマール氏(Vijay Kumar BN、以下、ヴィジャイ氏)が資料と花束を用意し迎えてくれた。

アドバンテックの交通コンピュータシステムは、インド現地の実際の道路状況に鑑みて設計されている。
時間が全てを証明
台湾本社の同僚から「土地公(土地の守り神)」と呼ばれるヴィジャイ氏は、2005年のアドバンテック・インド支社設立当初から市場開拓に尽力してきた。現在では、インドの鉄道交通の監視システムの70~80%、スマートグリッド、大規模工場の自動化設備、さらにはチェーンレストランのデジタル管理プラットフォームに至るまで、アドバンテックのコンピュータが使用されている。
ヴィジャイ氏曰く、自身は25年前からアドバンテックの産業用コンピュータが高品質であることをわかってはいたものの、当時のインドではブランドの認知度がほとんどなかったとのことだ。
その壁の乗り越え方について「時間が全てを証明しました」とヴィジャイ氏は端的に語る。製品の良さが長い時間の中で実証されたのだ。アドバンテック製品を採用した企業がその耐久性に気づき、修理がほぼ要らないことを知り、競合他社との優位性が際立つようになった。
「特に台湾製であることが重要」とヴィジャイ氏は強調する。中国製ではなく台湾製という点が消費者には高品質の代名詞として映るのだという。台湾から輸入した各種部品はインドのエンジニアが組立て、「インド製」ラベルを貼り、インド各地へ販売している。「これもひとえに台湾本社の支援のおかげ」とヴィジャイ氏は言う。

台湾を何度も訪れたことのあるヴィジャイ氏の目には、台湾は秩序正しく、人々が真剣に働く国として映る。
隠れたチャンピオン、台湾
インドから離れた桃園市亀山区にあるアドバンテックの台湾本社では、アドバンテック新興市場マーケティング総経理の楊宏理氏が、アドバンテックとインドは20年以上も友好関係を築いており、インドは大きな変化を遂げてきたと話す。
「インドは毎年進歩しています。民主主義国家なので、権威主義国家とは異なり、さまざまなコミュニケーションや議論、調整を経て、さらに多様な言語や宗教の中でそれぞれのニーズに応えようとしています。まさに少量多品種のアドバンテック製品のようなものですね」と楊氏。
そして真剣な面持ちになって続けた。「インド人は非常に強い民族的誇りを持っています。精密な数学の計算によって無人探査機を月の南極に到達させた世界で初めての国となりました。その際、宇宙センターで使用されたコンピュータシステムは中国製ではなく、台湾企業製のもので、アドバンテックの産業用コントローラもありました」
インドは14億人もの人口を抱えるため、デジタル化、中産階級化、現代化へのエネルギーは非常に大きいと楊氏は考える。これはアドバンテックが、インドの近代化プロセスに関与できる領域でもある。インドの交通インフラ整備、工場の自動化、デジタル政府、スマートシティ、さらには小売業のデジタル運営計画まで、台湾のコンピュータ技術がその一翼を担えるのだ。

楊宏理氏は、インド支社がスマート医療、小売、スマート製造などの分野で市場を次々と獲得しており、まだ成長の余地があると考えている。
機会とらえスマートシティに先手
アドバンテック・インド支社のシャルマ氏も、世界最多の人口14億人を抱えるインドの市場が大きな潜在力を秘めていることに同意する。インドのモディ首相が2014年にインフラ強化を掲げ、2015年に「スマートシティ・ミッション」を打ち出した。全国で100のスマートシティを建設し、水道、電力、交通などのインフラを全面的に改善するという計画だ。これぞアドバンテックが貢献できる分野ではないだろうか。
ヴィジャイ氏によると、インドでは28もの州でスマートシティの建設が進行中だという。
「政府の政策は私たちにとって大きなチャンス」と話すヴィジャイ氏。スマートシティ計画の主軸は、IoT、人工知能、産業の自動化にある。これらを台湾とインドの双方の強みを生かしてインドに導入していくのだ。ヴィジャイ氏がさらに強調するのは、アドバンテックの強みはハードウェア製造にあり、一方でインドのエンジニアは数学的な計算方面に長けており、非常に優れたソフトウェアを設計できるという点だ。
「強者同士の連携」といえば、台湾ではパソコン受託生産五大メーカーにしろ、アドバンテックといった産業用コンピュータにしろ、いずれも世界のトップレベルにあると楊氏も考える。台湾では、理工系の優秀な学生100人のうち、おそらく約90%がハードウェアや半導体分野に従事する。だがインドでは、優秀な学生100人のうち90%がソフトウェア分野に進む。このような両国の人材協力には、大きな相互補完性があるのだ。
関連して楊氏は、路上でのナンバープレート認識技術の応用について触れた。というのもインド人は車を、まるでバイクのように列の隙間を縫うように運転することが多いため、本来は3車線の公道が、実質的に6車線のようになってしまう。そのため、監視映像のアルゴリズムは実際の交通状況に対応させる必要がある。また、インドの空気の質はあまり良くなく、さらに高温多湿のため、屋外環境光の屈折や空気の質も考慮しなければならない。アドバンテックの産業用コンピュータは風雨に耐えられる設計だが、インドスタッフによるソフトウェア設計があってこそ現場のニーズに合ったサービスが提供できるようになったという。
これだけではない。さらに、アドバンテックが開発している堅牢型コンピュータやエッジコンピューティングは、頻繁に停電が発生するインド市場のニーズにぴったり合致している。本来、産業用コンピュータは、防水・防塵・耐振動といった過酷な環境での任務や業務遂行に欠かせない重要な場面を想定して設計されている。一方で、ソフトウェア大国であるインドは、これらの技術を活用し、世界中のさまざまな産業に応用可能なソリューションを提供する支援ができる。

アドバンテックの産業用コンピュータは、24時間連続稼働を想定して設計され、OS面の優位性と優れたメンテナンス性を兼ね備えている。
現地化戦略と持続可能な経営
インド支社のもう一つの強みは、アドバンテックの現地化戦略により生まれている。
アドバンテックは市場の開拓だけでなく、人材の育成にも力を注いでいる。インドの35の大学と産学連携を展開し、コンピュータ演算や信号伝送に関する実務的な講義を提供するほか、インターンシップの機会を設けることで、人材の蓄積を図っている。現在、アドバンテックのインド支社で採用された社員の40%が、こうした計画を通じて輩出された人材だ。楊氏によれば、アドバンテックは世界90カ所以上にオフィスを持ち、約9000人の社員を抱えているが、今後は優秀なインド人エリートを世界の市場へ派遣することも検討しているという。
シャルマ氏は、教育の重要性を強調し、各州での各拠点拡大における最大の課題は人材の確保だと考える。
アドバンテックは現在、インド市場でブランドの地位を確立し、スマートシティ事業の商機を掴んでいる。インド支社は過去7年で年平均19.5%の成長を遂げ、2020~2023年のコロナ禍にはデジタル化需要に応じて32.3%という爆発的成長を記録した。「それでもまだ足りません。インドは持続的に成長し続ける市場。今も進化の途上にありますから」と楊氏は自信に溢れている。

道路上の交通監視コンピュータシステムは、インドの空気の質や屋外の光線といった環境要素を考慮している。

インド各地の公道、地下鉄、空港では、異なる環境のニーズに応じて、デジタルサイネージシステムや組込みシステムが背後で運用されている。

アドバンテックは、現地化とカスタマイズ戦略を掲げ、優秀なスタッフによってインドのスマートシティ市場を席捲している。

インフラ全般を改善しようとするインドのスマートシティ構想が、無限のビジネスチャンスをもたらしている。